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第2話 怪しい二人組

 とある町の酒場。

 クエストを終えた俺と五芒星のメンバーでの打ち上げを行っていた。

 レックスが右手に持ったジョッキ一杯のエールを、一気に飲み干す。

「っかぁああーー! 疲れた体にしみるぅ!」

「飲みすぎよレックス。すいません先輩…… こいつったら……」

 酔っぱらったレックスから酒を取り上げようとするリアを、俺は「まあまあ」となだめる。

「今日は久々に魔物討伐のクエストだったんだし、別にいいんじゃないか?」

「ダメですよぉ……この男は、酔ったら明日まで響くんですからぁ……」

「まぁ確かに、あのダルがらみに付き合わされるのはもうごめんだが」

 そういえば、これまでにレックスが酒を飲んだ次の日に、道端で死にかけていたのを見たことがある。

 得意じゃないけど飲んじゃうタイプね。

「いいじゃねえかぁぁ…… どーせ明日はクエストには出ないんだしぃ」

「レックス、この前宿の中で吐いて、宿主さんにおこられてたでしょ? 今度やったら本当に宿追い出されちゃうよ?」

「そん時はそん時だぁ」

「もう全くあなたって人は――」


「ふぉっふぉ、若いとは良いものですな」

 スタールの爺さんがその光景を眺めながら呟く。

 手に持ったグラスには、銘柄はよくわからないが、ロックのウイスキーが入っていた。

 少し離れた席ではあとの二人が飲み比べで勝負をしている。

 ロウソクと暖炉の照明、多くの荒くれ物の客、壁に飾られた大型魔獣の角の標本――

「ああ…… 本当に異世界なんだな……」

 思わず言葉がもれる。

 ただ部屋で引きこもってばかりいた俺が、今では多くの仲間に慕われ、クエストをこなし、酒を飲んで笑いあう。

急に異世界へと放り出されたときは混乱したものだが、今ではそれも悪くなかった(?)のかもしれない。

 もちろん命の危険はあるけど、そこまでのものでもないし、今は昔と違って心からろから楽しいと思える日々を送っていた。

 この頃は――


     *


「じゃあせんぱぁあい…… またこんどぉ!」

 酔いが完全に回ったレックスと、それを支える仲間たちに手を振られ、彼らたちとは反対方向の家に向かって酒場を出て歩き出す。

 道中の道は、異世界に街頭なんてものがあるはずもなく、街中なのかを疑うくらいの真っ暗闇だった。

 明かりがなければ人は寝るので、当然道に人気もない。

「ステラ・ルクス!」

 右手を空に掲げ呪文を唱えると、 右の手のひらに光が集まり、それはやがて光の玉となって発光し、夜道を明るく照らした。

 異世界好きなら誰もが憧れた『魔法』というやつである。

 異世界に来たと認識してから最初にしたのが、この魔法の存在の有無の確認だった。

 この世界の人達にとっては当たり前の存在かもしれないが、日本人の俺としてはたまらない代物である。

「いやー、便利、便利」

 俺はその小型太陽のような光を頼りに道を歩いた。


 俺の家は町の中心部からは少し離れた場所にあって、そこへ行くには裏路地を使うと早いことを俺は知っていて、今日もそこから行くことにした。

 路地の中は、表通りの道よりも圧倒的に人がいる可能性は少なく、いつもならば聞こえてくるのは風と虫とわずかな雑音だけのはずなのだが、今日に限って俺はある異変を感じ取った。

 路地の奥から、誰かが話し合いをしているような声が聞こえてくる。

 なんだ……? こんな所で……

 

 俺は気づかれぬよう彼らに近づき、こっそり話を聞いてみることにした。

「今回の場所は?」

「サンド通り2丁目の廃倉庫だ。合言葉は“支配者の名のもとに”だ」

「今回は大安売りだってよ、在庫処分セールってやつか?」

 話をしていたのは二人組の男たちだった。


 なんだ? 何かの市場でも開かれるのか?

 だけどなんで合言葉なんて……

 

 するとそのうちの一人がもう一人の質問に対して「いいや」とそれを否定する。

「今回ほかの商品が安く出回るのはあくまでただの集客のためだ。その理由はまだ明かされていないんだが、どうやら噂によると、“特別な商品”が販売されるらしい」

「いいねぇ、調教しがいのある子がいいな」

 一人の男が涎を垂らすように言い放った言葉で、こいつらの話商品が一体何のことなのか、俺は理解した。

 なるほど、【奴隷市場】か。

 この世界では基本的に奴隷制はとっくの昔に廃止されていて、人を奴隷として扱うのは禁止されている。

 しかし中にはこいつらみたいな輩がいて、裏の世界ではまだまだ奴隷商売が横行しているらしい。

「前回の子は割とすぐにこわれちゃったからねぇ…… 気の強そうな子がいい! それで、何日もかけて段々と従順に仕立て上げていくんだ! だんだんとその反抗的な顔が歪んでいくのがたまらないんだよなぁ……!」

 恍惚とした表情を浮かべ、興奮したように話す男に、俺は心の底から湧いてくるような怒りを感じた。

 今すぐにでもこいつらをぶん殴って、牢屋にぶち込んでやりたい。

 だがまだ我慢だ。

 このまま俺があいつらを捕えても、奴隷市場の場所が変更されてしまえば、救える命もなにもない。

 落ち着け、俺。

 今はなるべく多くの情報を入手するんだ。

 そしてそれを冒険者協会『ギルド』へと報告して、大人数でそれを取り締まろう。

 コイツらをぶん殴るのはその後でもいい。


「で、その“特別な商品”ってのは?」

「さぁ、そこまでは俺も…… それよりも、今回は美人も多くて――」

 彼らはそれからも、奴隷市場の開催日時、おおよその参加人数、主催者の名前など、重要なことをたくさん喋ってくれた。

 物陰から一人の異世界人が、それを盗聴しているとは微塵も思わずに。

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