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第1話 新たな日常

 あれから4年後――


 深い深い森の奥。

 背の高い木々の葉が風に揺られ、カサカサと音をたてる。

 小鳥がさえずり、どこかで虫が鳴いている。

 しかしそんな一見平和そうな静かな森に、現れた大きな影。

 それは簡単に言えば熊だった。

 勿論ただの熊ではない。

 周りの木々と比べてみても明らかに大きな体格、血走った目、口から溢れ出るよだれ。

 そして何よりも、この熊の胴体からはあばら骨が突き出ており、なんとそのあばらが檻のようになり、そこに幼い女の子が閉じ込められていた。

「いやぁああああああああああああああ!!」

 女の子がおびえたように悲鳴を上げる。

 どこかへ向かって二足歩行で歩く熊は、何かの気配に気が付いたように後ろを振り返る。

 そして振り返った森の奥から現れたのは、5人の武装した人間たちだった。

「魔物め……その娘をはなしてもらうぞ!」

 先頭の剣と盾を装備したリーダー格の男が、巨大熊へ向けてそう言い放った。

 続けてその右隣のローブと杖を装備した魔法使いの女の子が

骨牢熊(プリズンベアー)ですね…… 一撃が重いので注意してください」

 重厚な鎧と大きなバトルアックスを背負った戦士が

「はじめるか……」

 露出の多い格好で褐色肌の短剣使いが

「血が騒ぐねぇ…… アタイに任せな!」

 聖職衣を身にまとい、厚い聖書を片手に長い白髭の老人が

「彼の者に……神聖なる裁きを下さん!」

「俺たちがあの娘を救うんだ……!!」

 そして最後にまたリーダー格がそれらのセリフをしめるように、魔物へと向かってそれっぽい事を言う。

「行くぞ……!!」

 その合図と同時に前衛三人が一斉に骨牢熊へと飛びかかる。

「うおぉおおおおおおおおお!!」

 自らを鼓舞するように、雄叫びを上げながら剣を振り上げ、骨牢熊へ切りかかる。


 まぁ確かに――

 はたから見ればカッコイイ人達だろう。

 女の子を助ける為に、モンスターへと立ち向かて行く。

 もちろん俺もこんなヒーロー的な存在の人に憧れてはいたけれども、どうしてもそんな物語を見ていて思うことがある。


 五人組の人組の彼らは、骨牢熊へと近づく直前に骨牢熊の背後の存在に気が付いた。

 そいつが振りかざした剣は、彼らの武器が触れるよりも速く骨牢熊の首元へ触れ、次の瞬間、骨牢熊の胴と首は既に別れてしまっていた。


 俺は思うことがある。

 わざわざ馬鹿正直に正面から行くよりも、うしろからやっちゃえばいいんじゃない?

 俺はまた、今度は胴体の骨を剣で打ち砕き、中でおびえていた女の子にてをさしのべる。

「大丈夫か? 立てる?」

「うん、助けてくれてありがとう!」

 女の子は比較的元気な様子で、特に心配はなさそうだ。

 それよりも、さっきから後ろの五人組が立ち尽くしているのでそちらの様子をかくにんしておこう。

「少し待っていてね。後ですぐに町まで送るから」

 女の子は笑顔で頷く。

 俺は彼らのほうを振り返って向う。

「よう、お前ら!」

「せ、先輩…… 「よう!」じゃないですよ! あれは僕らが依頼を受けていた討伐対象の魔物ですよ!? 僕らのを横取しないでください! こっちだって生活が掛かっているんですから……」

 先程まで勇敢な戦士だったリーダー格の男は、涙目で俺に迫る。

 彼の名はレックス、俺が面倒を見ている新人冒険者パーティ五芒星(ペンタグラム)のリーダーだ。

 因みにこの勇者パーティみたいなメンツのほか四人は、魔法学院卒業生の魔法使いリア、町内マッスル俱楽部出身の戦士ゴードン、盗賊団の娘で盗賊ドーチ、ここから少し離れた小さな村の教会の元神父で聖職者のスタール。

 全員新人冒険者だ。

「ったりまえだろ? あんな馬鹿正直に正面から戦ってたら危険だぞ?」

「うっ……」

「骨牢熊は低知能だから不意打ちの成功率は高い。しかし正面から行けば、攻撃が檻の中の女の子にあたっていたかもしれない。今回の結果じゃ、まだランク昇格は無理だな」

「そんな…… マジですか……」

 俺の言葉にレックスはガクンと膝から崩れ落ち、その様子を見かねたリアがレックスの肩に手をかける。

「さすが厳しいですね、ナガレ先輩」

 そう、俺の名は星谷流。

 4年前、こことは別の世界の日本という国で学生…… いや、不登校で家にに引きこもってしまっていた。

 だけどある日、夜中にコンビニへ行って、気が付いたらこの異世界にてんいしてしまっていた。

 その時、俺は妙な男に出会っていて、その男とぶつかってからこの世界へ来てしまったわけだ。

 今思えば状況からして、あの男が俺をこの世界へと呼んだのだとしか思えない。

 あれはいったい何だったのだろう。

 

 それから俺は、この異世界で定番の冒険者という職業へと就いて、今ではそれなりに名が売れた冒険者になった。

 もちろんヒキニートがそんなことはできるはずがないと思うかもしれない。

 だがしかし、俺には秘密…… いわゆる転生特典的な能力があって、それなりにやって行けているのだ。

 そいつが何なのかは…… まぁ、また今度。


「まぁ今日の盗伐報酬のことなら心配すんなって。この後酒場で飯ぐらいぐらいおごってやるよ」

「まじっすか! あざっす!」

「ゴチになります!」

「おうよ!」

 俺は今、引きこもりの時には想像出来なかったくらい、なんだかんだ楽しい日々を送っているのだ。 

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