イレギュラー
剣塚とのケンカの後、こっそりカバンを取りに行った俺は、笑顔の先生と九条さんに捕まり、そのまま反省文を書くことになった。
剣塚も今頃、反省文を書いているのだろうか?
反省文を書いた俺は、九条さんと俺の住んでいたアパートを覗きに行く。
…アパートが燃やされていた。
「…やり過ぎじゃない?」
一応管理会社に連絡を入れる。
「火災保険に入っていたので、まあまあですが、犯人の人が見つかったら賠償してもらいます。今回は、災難でしたね。」
幸い、怪我人はいないらしい。
家財道具とかは、絶対に犯人を見つけて、弁償させると言っていた。
「今日は、模擬戦やめますか?」
「…そっちは、大丈夫です。むしろ、体を動かしたい。」
九条さんは、珍しく武器を持っていなかった。
「縮地も使いません。」
はじめは、どういうことかわからなかったが、九条さんの掌底を受けて、ノックバックさせられて気づいた。
「剣塚君のマネしてます?」
「どうですか?なかなか堂に入っていると自分では、思っているのですが…。」
それから、なぜか剣塚スタイルの研究が始まった。
「私は、縮地パンチにノックバックを合わせられると面白いかもです。」
「俺は、断然、ノックバックパンチ中に、さらに身体強化二段目でダブルノックバックが楽しいですね。」
「縮地パンチに、二段階ノックバックも出来ますよ!」
「それ出来るのは、九条さんだけですよ。」
九条さんのフィジカルは、縮地は基本のようだ。
「でも、剣なら切れ味優先ですね。ノックバックは、私には合わないかも…。」
「無属性の切れ味強化でやってみればいいんじゃないですか?」
「一瞬だけ切れ味最高になりますか?」
九条さんが試すと、すごく楽しい結果になった。
「…これ、凄すぎですよ。ちょっと、ダンジョンに挑戦してきます!」
そう言って、走り出す九条さんは食事です、とメイドさんたちに怒られていた。
何もなければ、明日はダンジョン実習だ。
そこで、九条さんも満足するだろう。
夜。
警報が鳴り響く。
ダンジョン外にモンスターが現れるイレギュラー。
俺たちのいる中央圏全体に発令された。
空に大きな火の鳥が浮かぶ。
ダンジョン60階層のタイタンフェニックスだ。
警報から、ずいぶん早い出現だなあと思っていると、九条さんが、2階の窓から、パジャマ姿で飛び出していく。
俺は、これは止められないと思い、せめてもの星属性の身体強化に火属性の耐火性強化の魔法を投げた。
九条さんが、空気を蹴って、流れ星のように進んでいく。
タイタンフェニックスは、大きく息を吸った。
間に合わない。
そう思った時、九条さんは、刀を居合で構え、空中を縮地で移動しつつ、刀を抜く。
無属性の切れ味強化にさらにのせたのは、水属性の水刃だ。
九条さんから放たれた巨大な水刃は、タイタンフェニックスに届き、タイタンフェニックスの首を飛ばした。
タイタンフェニックスは、一息で全身が灰になった。
そして、灰の中から復活した。
九条さんは、意識を無くして落ちてしまっている。
俺の方で、かけている星属性の身体強化で、なんとか落下の衝撃は防ごうとするが、その心配はなかった。
九条戒さんだと思う。
が、九条さんをしっかり受け止めて、タイタンフェニックスを破壊属性の魔法の槍で、貫いた。
タイタンフェニックスは、受けた槍の傷から砕けるようにして、消滅した。
戒さんが、飛んでくる。
「建宮君か…。良い腕をしている。今後とも娘をよろしく頼むよ。」
それだけ言うと、九条さんを抱えたまま、玄関の方に歩いていった。
玄関が慌ただしくなったが、俺はそれより、戒さん魔王より強いだろ!?とそれどころではなかった。