九条燐
俺のいなくなった校長室。
「燐。彼は、君にはどううつった。」
部屋の隅から、制服姿の女の子が、あらわれる。
「ブラックオークに勝てる確定的なものを持っているようには見えませんでした。でも、彼ならあるいはと思わせる何かは感じました。」
「彼は、君には気づいていなかったようだよ。」
「場所取りが嫌な位置でした。無防備なのに、備えているような不思議な感じです。狙ってやっていればですが…。」
「うーん。まあ、うちにくれば嫌でもわかるか…。燐のクラスメートになるだろうからよろしく頼むよ。」
クラスで、銀龍学園に転校することになると言ったら、かなり騒ぎになった。
俺は、次の日は学校を休み、銀龍への転入手続きを済ませた。
転入手続きの際、九条さんの娘さんが対応してくれた。
学年は一緒らしい。
色々、教えてくれた。
そして、帰り際、笑顔で手合わせして欲しいと言われた。
「恭也君は、戦士なんですよね?」
「まあ、そうです。」
「転職とかは考えてないんですか?」
「あー。やっぱり、向いてないように見える?」
「すみません。戦士にしては、戦士向きのスキルを持っていないようだったので…。」
「俺って基本ソロで、戦うから。こういう中途半端な感じになっちゃうんだよね…。」
「へー。そうなんですか。」
半分以上でまかせだ。
スキル構成とか、魔法とかあんまり気にしなくていい。
あるもので、戦う。
それが、俺の戦闘スタイルだ。
ちなみに九条さんはレベル42。
ブラックオークより強いし、速い。
俺は、最初から、無属性身体強化を3段階かけて戦うことにした。
「その身体強化は何分持ちますか?」
「1分が限界です。」
「では、1分間、楽しみましょう!」
九条さんは、居合の構えで練習用の木刀を構える。
瞬間、すでに九条さんは目の前にいた。
縮地のスキル…いや、身体能力任せの天然縮地か。
俺は、居合っぽく、横薙ぎに放たれた斬撃を受ける。
そして、その衝撃を利用し、側面に移動。
九条さんに攻撃を入れようとする。
その時、九条さんと目が合う。
俺は、前方に飛んで躱した。
強引な縮地を混ぜた斬撃。
今度は、スキルの方だ。
回転斬りのようなそれをカウンターで狙っていたようだ。
後ろから追撃を受ける。
振り向く余裕はない。
俺は、気配で剣を躱していく。
もうすでに20秒経っている。
気配に合わせて、剣を振り抜く。
弾かれる九条さんの剣。
その隙に攻撃を当てようとするのはやめる。
カウンターの縮地斬りのえじきになるのは勘弁だ。
俺は、身体強化した体で、一刀に全てをかける。
九条さんも居合の構えになる。
俺の今から使う技というのは単純だ。空間の1点にぶつかる瞬間に全ての力をおいてくるムチのような原理の静の技。
九条さんは横薙ぎに全てをぶつける斬撃。
自身のバランス感覚で通過点に大ダメージを与える動の技だろう。
打ったあとにバランスを崩すが、おそらく縮地で立て直すと思う。
互角なら縮地がない分、俺の方が、1手足りなくなるな。
とりあえず、打ってみるか。
九条さんと俺の間合いがジリジリと近づく。
そして、九条さんの横薙ぎの一撃を俺の置く一撃が迎撃。
2人の木剣が砕ける。
九条さんは、横に薙いだ所から腕だけ縮地で折れた剣を捨て、掌底を放った。
俺は、それを十字にした腕で受け止めて、吹き飛ばされた。
ここで、身体強化の時間も切れる。
九条さんの表情は、砂けむりで見えなかったが、こう言っていた。
「ちょっと、残念です。」