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2話 魔界にて

話数が前後してしまい申し訳ありません。



 「あぁ……聖女様……イーリス様……」


 馭者台には初老の男性が座っていた。おそらく瘴気を吸い込んだせいで、咳が出てしまっていたのだ。わたしは懐から即座に数種類のハーブと薬草を取りだし、ハンカチの間に挟む。


「さぁ、これを口元に押し当てて、結界から遠ざかるまで離してはいけませんよ。それと、もうわたしには様をつける必要なんてないんですよ」


 男性は悲しそうな表情のままハンカチを受け取ると、わたしの言う通り口元に当てた。


「ここにいてはお体に触りますよ。貴方はもう戻ってください」

「しっしかし、わたしには貴女様をお送りする使命が……」


 仕事熱心で使命感の強い男性に、自然と笑みがこぼれた。


「大丈夫。ここは結界の近くですし、歩いてちゃんと魔界へ向かいますから安心してください。ここまで連れてきてくださった貴方のお体の方が、わたしは心配ですから」


 わたしはそう言うと、魔界へ向けてかけだした。後ろから引き止める声が聞こえたが、一度振り返り手を振った程度でまたわたしは歩みを進めた。


 ズンズンと進んでいくと、次第に空気も重くなってきた気がする。日が暮れる前に火を熾す準備をする。


 結界の中で長時間過ごすとなれば、手持ちの薬草だけでは心許ない。薬草もハーブも節約しなければ。その為に薬草とハーブを最小限に煮出して、布に染み込ませる。これで少しは薬草の浄化効果の節約ができたはずだ。効果は薄くなるが、長期的な事を考えるとこの方がいい。

 飲水も一度、薬草と一緒に煮込んだ水を加えて浄化しなければ、そのままでは飲むことが出来ない。食べ物だってそうだ。だから薬草を無駄に使えない。

 ある程度であれば瘴気を取り込んでも少し体調が悪くなる位で問題は無いが、当然浄化できるなら定期的に浄化した方がいい。

 結界近くの孤児院で育ったので、その辺の節約術や知識を持っているのが功を奏した、のかな?


 

 パチパチと燃えている火の中に、ちぎったハーブを投げ入れる。その煙にも多少は浄化作用があるので、布に煙を染み込ませる。

 

 結界の中でこれがどれ程の効果があるのか分からないけれど、無いよりはあった方がマシなのは決まっている。


 瘴気のせいで薄暗く、遠くまで見通せない。そんな中で、魔族を警戒しながら生活して行かなければならないのか……。体力も精神力も削られそう。睡眠だけはきちんと取らないと。


 そうと決まれば寝床の準備だ。わたしはいそいそと地面を均して、乾いた地面にゴロンと寝転んだ。起きていると、色々考えてしまう。良くないことを考えて、お腹が空いて……起きていたって何もいいことは無い。寝るしかない。


 わたしはゆっくりと目を閉じる。眠気なんか無いけれど、もう何も考えたくなくて目を閉じる。


 ゆっくりと、夢の世界に身を任せる。


 




 パチリと目を開ける。瘴気のせいで、空気が曇っていて薄暗い。朝なのか夜なのかも分からない。すぐ起きてしまったのか、長い時間眠ってしまっていたのかの判断もつかない。

 焚き火がまだパチパチと音を立て燃えているので、そんなに長い時間寝ていた訳では無いはず。


 薬草で浄化しておいた水をひとくち飲む。


 本当は、魔族に襲われない様にするためにも移動した方が良いのだろうけれど、焚き火にくべた薬草やハーブの浄化作用があるので、暫くはここにいる方が節約にはなる。

 節約と命の危機。ここのギリギリを攻める見極めが肝心だ。


 水を汲んで、薬草に浸して置いた布を使って濾過する。それを何度か繰り返して飲水の確保をする。食べ物よりも先に水不足を回避する。そこに気を配りながら魔界で生活していく。


 お腹が空いてくると、初めの方は胃がキュルキュルと痛むが、暫く無視していると治まってくる。だがまたしばらく経つとキリキリと痛んでくる。随分と贅沢な生活を続けていたせいで、胃が大きくなってきてしまったのか我慢が効かなくなっているようだ。


 キリキリとした空腹の苦痛に耐えていると、何が近付いてくる気配がする。魔族が襲ってくる事に警戒して、周りを見渡す。

 見通しの悪い曇った瘴気の霧の中から、黒い塊がのっそり近付いてくる。


 しかしすぐさま襲ってこない事に違和感を覚え、わたしは少し様子を見る事にした。


 黒い塊は、のそりのそりと足踏みをしながら、少し近づいてはまた下がり……を繰り返していて、実に不審だった。


 不審だけれど害はなさそうなので、そのまま警戒しつつも様子見をする事にした。今、見逃した事を後悔しないようにと祈りながら。



 そうして何日か過ごしていても、黒い塊は辺りをウロウロとするだけで、全くこちらに襲い掛かる気配がない。わたしは好奇心に負け、その塊に近づいた。


 わたしがジリジリと距離を詰めると、その塊は一瞬ビクリと震えると、動かなくなった。驚いた反動で襲われてはいけないと思い、わたしはゆっくりと距離を詰める。

 わたしがジリジリと距離を縮めている間も、その塊は動かない。距離が近づくにつれ、瘴気による霧も薄くなり姿が確認できた。


 毛むくじゃらの体に、てらてらと光る鱗の様な手足と尻尾、そして耳の代わりに生えているのはツルリとした2本のツノ。魔物だ。


 

 

 

 

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