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ヒューヒュー♪
音。
ふっふふっふ♪
楽器の音。
ふんーふふーふん♪
聞いただけで見事な演奏であることがわかる。一つ一つ丁寧に吹いている音は小鳥のさえずりみたいに脳内に繰り返し、素敵な音楽に成り代わる。
素晴らしい音色は時に長く、時には短く。カノン進行の和声で、大逆循環の演奏がとても綺麗で、聞き惚れるほどだった。
音楽自体の名前がわからない、聞いたこともないが、井上星はこの楽器の音を聞いたことがある。学んだことがあるから。
オカリナだ。木管楽器の一種……井上星は思想を巡り、楽器の音は再び音符にして、演奏に織り交ぜる。
ヒューヒュー♪ふっふふっふ♪ふんーふふーふん♪と井上星はもう一度聞き惚れるところだった……けど、その音色に詳しく聞くつもりで近づこうとすると、演奏はすぐ止めた。
おかげで、井上星は聞き惚れる寸前、自分の目的を思い返した。
そうだ。僕は音楽を聞くために来たんじゃない。僕は……と井上星は“それ”のことについて聞きたかった。
しかし、警戒――井上星は何となく相手からそんな雰囲気を感じた。演奏が止めたのもきっと警戒しているからだろうと。
それもそうか……相手にとって自分はただの「招かざる客」だ。このことは井上星自身もわかっている。
だから、井上星は先に謝りに言った。
「すみません。演奏を邪魔して……」
しかし「相手」はまだ警戒を解くつもりがないようだ。その証拠は何の返事も来ない。
「……」
静寂によって生まれた気まずさに井上星は頭を掻いた。
これは……先に警戒を解いた方がいいだろう。たしか、相手の警戒を解くためには……
「素敵な演奏ですから、聞き惚れちゃって、つい……」――まず自分は悪意がないよとアピールする。まあ、相手が話を聞く気がある限りの話だが……と、実は内心でドキドキしている井上星である。
井上星は緊張しているが、この話で信用を得たのだろう。相手は少し反応を示した。
「……ヒュー♪」と相手は迷いながら井上星に小さく楽器の音を吹いていた。その意味はまるで「何のために来た?」という疑問を問いている。
返事は楽器で伝える。音楽が好きなんだろう……とそう推測している井上星はあながち間違っていない。相手の個性と警戒のこと抜きに考えれば、あながち間違っていない。
「実は、お願いしたいことがあります――」
……ふっふ♪「その前に、あなたは誰ですか?」
「あ、僕は――」井上星は自己紹介して、更に質問がくる。
どこから?どうやってここに?相手の質問はどれも楽器で伝えている。
楽器の音調だけで質問を察するのが難しいが、それでもしばらくの間に井上星はこのまま難なく交流していた。
彼はこのような察しができるのは、井上若実も時々「ふんふん」という音調だけで問答しているから。特に昔ご飯を食べる時にこういう遊びをしていた。少し訳が違うが、似ているようなものだ。少なくとも井上星にとって。
それに、本当にわからない時、彼は「感じる」ことで補える。
だって、「ここ」は普通の世界とは違う……
井上星は次々と相手の質問に答えた。井上星に対しての質問が終わった後、相手はやっと本題に戻した。
ヒュー♪ふっふ♪ふん♪――それで、お願いしたいことはなんですか?
この質問に察した井上星は誠実に答えた。
「お願いしたいことは、僕に力を貸してほしいです。」
……ヒュー♪――どうして?
井上星は少し考えてから、話したいことを話した。
「信じられない話かもしれませんが、実は僕は、そして、僕の家族は……この世界の人ではありません。でも、とある原因でこのハーラーリア世界にいます。その原因はまだ詳しく話せませんが、僕自身もあまり飲み込めるような話ではないので……だが、僕は家族を助けたい、これだけは言えます。そのために、この世界の人にお願いしたい。頼む、僕に力を貸してほしい……」
それから、どれくらいの時間が経ったのだろうとずっと静かだった。体中にうずうずと感じさせる気まずさだった。井上星の体感ではかなりの時間が経っていた。
そして、最後にこの沈黙を破ったのは楽器ではなく、一人の声だった。
「……わたしで、いいんですか?」子どもの声、中性的な声。もし歌えると、きっと綺麗な音色が出せると想像させるほどの純粋な声質だ。
もちろん井上星はその声質に驚いたが、もっと驚いたのは別のポイントだった。
「喋るん……だ。」喋るんかい!というツッコミの気持ちを抑え込んで、井上星は別の言い方をしていた。
何よりこの声のトーンから、また“わたしで”という言い方から、井上星は何となくこの子が少し内向的で気弱そうな性格だと感じている。
初めての人が突然ツッコミしちゃったら、距離感が詰めすぎるだろうな……
現に怒っていないのに、井上星が言ったことに相手が謝っていた。
「あ、すみません……なんかこわいから、ずっとはなしをしなかったけど……すみません。」
一句で二回謝った……
「いいんですよ。僕が君の立場だったら、同じくそうしますから、謝ることではありません。」
「そう……なんですね……じゃあ――」
「――それで、答えは何でしょうか?」この後相手はまだ何か話そうとすることに感じた井上星はすぐ話題をそらした。
「五年前」のことを思い出したら、井上星は相手と関係性を築くつもりはない。あれは今の19歳の井上星にはもう一度経験したくないことだ。もう心に傷を負いたくない。
井上星は今回、専念したいことがある――家族を助けること。
「もちろん困るんであれば、他を当たりますが……」と井上星は後のことを伏せていた。全てを言っていない。
そもそも、原因が伏せているし、何の褒美も貰えない。したくないのも頷ける……
だが、井上星の予想とは真逆に、相手の返事は最初少し意味不明な話だった。
「神は、じりつ、じけつ、じあいのことをわたしに授かりました。その中には、人をたすけることが含めています。」
「ええと、宗教のこと……ですか?」
少し時間が経て、相手は「はい」と答えた。
「しかし……実はわたしにとって、そのことはどうでもよかったです。神のおしえは、わたしにとってただの音楽のための道具にすぎない。ただ演奏のためにおぼえているもの。だから、神はこのわたしに“罰”をあたえた……」
井上星はまだこの話になんの理解の欠片もできていないが、何を反省しているのがわかっている。
邪魔をするか……?いいやと少し考えて、井上星は邪魔しなかった。
それに、相手が自ら話をしにきたのだ。
「もしわたしがあなたを助けたら、また、音楽を演奏してもいいんですか?また、オカリナを吹いてもいいですか?」
ここまで聞いたら、井上星はわかった。相手は自分のことを神の使者とか何とかの類いのものに認知しているだろう。神に対しての罪悪感、自分の考え事が「不純」だと思い込んでいるせいで、簡単に理屈のことを抜いていた。
自分は伝えた通り家族のために来ただけなのだが、相手はその認識が少し歪んでいる。歪んでいるからこそ自分に聞く。
自分に都合がいい嘘をついてもいいが、井上星は少々かわいそうと感じている。だから、井上星は返事した。
「……演奏すること、オカリナを吹くこと、いつでもいいですよ。音楽はいつでも楽しめるものです。許可は必要ありません。」
関係性が築きたくないのと、自分を追い込んでいる人に傷付けるのと全く違うことだ。井上星はこのように自分を説得している。
「……なら、わたしはまた”本当のもの”が吹けるの?」この質問は明らかに「ここ」の話――「心象世界」の話ではなかった。
現実のことだ。
「制限はあるけど、吹けますよ……」井上星は一瞬留まって、このことも伝えた方がいいと続いて言った。
「でも、君が死から蘇るんじゃなくて――」
「いいんです!それでも……いいんです。また音楽ができるなら……」
「そうですか……じゃあ、力を貸してくれるんですね?」と井上星は確認した。
「……うん。」
「……ありがとう。」
了承を得た井上星だったが、一つの不安が思い浮かぶ。
この子はちょっと思い込みが激しいかもしれないが、影響があるだろうか……
でも、井上星はそれを後に押しのけるしかない。実は、これはもう決まったものだから。
井上星が相手に言った「他を当たる」というのは嘘である。本当は他はない。
今回のキャラシー、かなり癖があるからな……これは井上星が心象世界から目を覚める前に思っていたことだった。




