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ハーラーリア世界では、魔法生物が主に三つの種類に分けられている。
三つの種類はそれぞれ「精霊体」、「精神体」と「創造体」である。
精霊体:魔力を持つ生き物である。一番有名なのはフェアリーやピクシーなど、ここにあたる。背中に羽が生えており、人型が多い。交流の意志があり、大半善良な生き物だが、自ら悪者に従い、悪事を働き、悪いのもいる。
精神体:意志を持つ、形のない生き物である。一番有名なのはエレメント、スピリッツ、ゴースト等々、ここにあたる。このタイプの魔法生物は肉眼で認識できないが、感覚で感じられる。
また、具体的な形態がないが、特殊な職業、あるいは特殊な道具を使って、靄の状態が見えるようになる。
交流の意志があり、ほぼ中立の生き物である。侵略性と攻撃性もないが、感覚で認識した時、精神に未知な影響を及ぼす。必要な時以外、お互い干渉しないのが妥当だ。
創造体:魔法の力によって生み出された生き物である。一番有名なのはゴーレムだが、他にドール、アンデッドなどもここにあたる。このタイプの魔法生物は材料を使わなければできない。また、精霊体と精神体と違って、魔力がなくなると機能できない。
作り主と作り方によって性格が変わるため、善良なのか、凶悪なのか一概には言えない。同じように作り直しても、元に戻る保証がない。
と、以上はフロンが魔法生物についての説明だった。
フロンが説明し終わった時、井上星と井上凜もちょうど遺跡の周りを調べ終えた。
「なるほど。よくわかりました。教えてくれてありがとうございます。」
「ありがとう!フロンおじさん。」
「いえいえ。それで、調べた状況はどんな感じですか?」
「うーん……調べた感じ、有毒植物がないらしいし、害もなさそうです。」
「そうですか。それは良かったです。」
「で、僕は試しに蔓を登るつもりだったが、その丈夫さは僕でも耐えられなそうだ。ギリギリ吊り下がる状態が維持できるくらいかな。」
「それは一つの非常用の隠れ場所だね。星くんの。」井上凜は窓に延々と伸びている蔓を見てこう言った。
「ちょっといやだな……あの高さは三階くらいあると思うよ。」
「もちろん使わないに越したことはないが、覚えといたほうがいいよ。何か起こるかわからないから。」
「まあ、覚えるけど……」心の中にどうか使わないようにと祈っている井上星だった。
「わかりました。ちなみに、他のところに窓がありますか?」とフロンが質問した。
「ああ、一応あるにはあるが、どれも蔓との距離が遠いですね。」と井上凜は井上星と顔を合わせて、そうだよね?という確認する意味だ。
「そうだね。だから無理やり蔓を登るより、普通に入口から入ったほうがいいかな。」
「わかりました。」
「うーん。大体こんな感じだね。」
「そうだね。」
「他に忘れたことは……」
「あ、お二方は蔓や植物などに対して判定をしましたか?凜様の植物の判定がありますが、星様は……」
「あ、ごめん。忘れた。やってなかったわ。」
「じゃあ、私は蔓に、星くんはまず植物に判定するのはどうだ?」
「はーい。」
二人は判定を申請し、ダイスを振った。そして、今回井上星は顔が青ざめた結果を出してしまった。
『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧8。
井上凜の結果:3 失敗
『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧9。
井上星の結果:1 ファンブル
「兄ちゃん!」井上星は悲鳴みたいな声で兄のことを呼んでいた。
「どうした?」「星様……」
「ファンブった……」
「……本当に?」
「うん。どうしよう?」
「ぎゃ、逆に考えよう!『知識』のファンブルはどうなるのか、ここで知るのはいいかも。」井上凜は半分慰めての気持ちと半分本気にそう思っている。
「本当にいいの……」
「判定はこういうものだ。ダイスに頼る時点で、リスクを負わなければならない。これはリスクを無視した私のせいだ。」
「いいえ、凜様のせいではありません。判定をすすめたのは私ですから、むしろ私の方こそ申し訳ありません。」
「いや、フロンおじさん。ダイスの結果は誰も知らないから、謝らないで。」
「わかりました……」
「とりあえず、結果を見よう。」
「そうね……」
蔓:ちょっと丈夫そうな蔓だ。
植物:食べられそうな植物だ。
「……良かった!」と情報の結果を見た井上星はホッとして言った。
「どうだった?」
「食べられそうな植物だって。でもどう見てもそう思えないね。」と井上星は周りの植物を見ていて、こう言った。
周りの植物は明らかに雑草や花の類のものだったから、井上星はこの情報を信じていない。
「なるほど。偽情報をくれるのか。」
「たぶんね。じゃあ、杞憂だったね。僕はアホではないし、知らない植物なんか食べない。」
「なら良かったです。大ごとにならなくて。」
「ええ。」
「うん……そうだね。」少し煮え切らない返事をした井上凜だった。
「兄ちゃん、どうした?」
「ただ考えているんだ。」
「何を?」
「もしかして、ロールプレイング状態に影響が出るじゃないかって……」
「あ……その可能性、とても高いと思います。」とフロンがまるで思い出したかのように言った。
「え……」少し硬直になった井上星。しかし、すぐ元の状態に戻った。
「まあ……ロールプレイング状態にしなければいいし。」
「そうね……」
「とにかく、遺跡の中を調べよう。」まだ蔓の判定をしていなかったが、井上星はあえて言わなかった。
ファンブルの結果に引きずられて、今の彼は少し判定したくなかった。弟の気持ちを見抜いた井上凜も無理させたくなかった。
「そうだな。では、方針を決めよう。」
「方針?」
「ええ。効率良く二手に分かれて探索するとか、危険がある時、大声で叫ぶとか、すぐ逃げるとか、そういう大まかな行動方針だ。」
「なるほど。」
「では、このことに関しては、私に一言を言わせてもらいます。」
「はい。」「どうぞ!」
「その遺跡の大きさはあまり大きくありませんでしょう?」
「そうですね。」
「では、効率のことを考えなくていいと思います。命の安全と力の団結を優先に考えてほしい。存在が消えないとはいえ、やはり死なないほうがいいです。」
「わかりました。助言、ありがとうございます。」
「やはり死ぬのか?この身体。」
「はい。悪意と関われば、どんなに小さな悪意でも、死なないとは言い切れませんので。」
「まあ……悪意がなくても、人は事故や病などで死ぬから、あくまで相対的な話だと思う。」と井上凜が言った。
「それは……否定できませんね。しかし、他のシナリオより、今お二方がいる遺跡は比較的に安全です。元々安全な場所であなたたちの身体を作ったので。」
「それはありがとうございます。こちらのことを考えてくれるのは。でもね……」ここに連れてこらなければなぁと、やはり心のどこかに不満を感じる井上凜。
その不満を察知した井上星は、「そうだね。でもまあ、僕たちは帰れるから、一つ不思議な体験をしたと考えよう。」と言った。井上凜はそれを聞いて、少し苦笑いをした。
「そうだね。」
「ね!」
「その広い心に誠に感謝します。」
「おう!」
「では、そろそろ行こうか。遺跡の中に。」
「はーい!まるで探検だね。」
「遊びじゃないよ。」
「わかっている。」
「では、気をつけてください。」
「はーい。」二人は返事して、遺跡の入口の前に止まった。
二人も警戒の様子で、入口から頭をぐいと伸ばして、中を覗いた。
少し薄暗くて、鼻に強烈なカビ臭いの匂いが伝わった。カビ自体特有の酸味と埃が混ざり合って、気分が悪くなりそうな匂いだった。
そして、二人はよく中を観察するつもりだったが、目の前に一つのメッセージが出てきた。
「判定してください。『防衛』判定。
『精神の判定』に難易度がある。防衛の難易度:≧4
1:ファンブル
10:クリティカル」
防衛、精神の判定。
この二つの言葉で、二人が何となく推測できる。「精神体」がいることを。