75
冒険者協会の外にて。
「アタシへの質問はもう終わり?では、次はアタシの番ね。」
「いつ順番で決め――まあいい……先に手を出したのはこっちだしな。何が聞きたい?」
会長の話を聞いて、モモナーは若干得意げに微笑んでいた。含んでいる意味はまるで“手応えがあり!”みたいだった。
「簡単だよ。君の質問を返しただけ。君はグリンさんとどういう関係だって。なぜ手を出す?」
会長はずっと無表情に偽って、答える。
「何の関係もないね。そして、濡れ衣だろうかないだろうか、お前の言葉から、グリンは『賞金首』だということがわかっているだろう。つまり、君はどんな人が確認したいだけだ。」
「確認したい?手を出すまで――」
「おっと、順番で話すなら今回俺が聞く番だ。」
いつの間にか会長は戦いの態勢を構えなくなった――いいえ、そもそも真剣に構えるつもりはないであろう、気軽に喋っている。モモナーも同じである。
二人の戦いは、現に言葉に現れる。
「気になっているんだが、君はどこから来たんだ?」
「ふふ、信じないかもしれないけど、森からだよ。」
「は?もっとまじめに――」
「真面目に答えてるよ。では、アタシの番。なぜアタシが嘘をついていると思っている?」
「お前が嘘をついたと一言も言ってない――」
「言ってたよ。“嘘をつかないでくれ”って。それに、焦点をずらしてないでね。なぜそう思っているって聞いてるの。つまり、そう思う根拠がほしい。」
「ハッハ!まいったな。自分の能力を暴いてしまったか。こりゃあ困るな。」と会長が喋っている時、何も気にしていない様子で大げさに言ったのだった。
思ってないくせに……
「お前が言ったことを『検査』したんだ。これは根拠になれるか?」
「ええまあ。情報屋の基本だね。では、もう一つ――」「おいおい」と会長が口を挟んで指で自分を指す。意味は俺の番だろうと。
モモナーはわがままな子どもみたいに、「ええーさっき君が“根拠になれるか”って聞いたのに」と言った。
「おいおい、冗談きついな。それが本気?」
「別に?」
「ならばこれもチャラだ。」
モモナーはしょうがないなーみたいに肩を竦めた。元々会長のほうが理に適っているが、今こんな無茶な話術と言動で、まるでモモナーが質問の番を譲ってあげたみたいだった。
何よりモモナーの顔に現れた得意げな微笑みは、さらに幾分増したのだ。“手応えがあり”っと。
普通なら、このような交流はお互い知らない人にとって気まずすぎるし、礼儀にもなっていない。知り合いでも少々ぎこちなくなるだろう……
胆が据わっているのか、ただの空気が読めないやつなのか、あるいは――会長は思うことを言った。
「ではお前の出身は不問にしよう。」会長は”目には目を“という感じに返事し、続いて質問した。
「……お前は本当に『単発のモモナー』さんなのか?」
この問題を待っているかのように、モモナーは即答した。
「違うと言ったら?」
「質問を質問で返すな。」
モモナーはしょうがないという感じに肩を竦め、答えた。
「そうとも言えるし、そうとも言えない。この話の意味、わかるよね?」
会長は完全にわかっていない。だが、今までの経験則、また五人の会話でモモナー自身も言っていたことから、彼は推測できる。
「――“中身”っていうやつなのか。」
「信じるか信じないか、君次第だけどね。」
「待て、じゃあ、お前は――」
「今、アタシの番だよ。」
会長は黙った。
「今回のことは質問というか……ちょっと話を逸らすというか……“会長”は――」
いや。モモナー首を横に振って、呼称を変えてこう言った。
「“副会長”は、どうして……ここにいるの?そうなった経緯は?」
雰囲気、静まりになった。
風が、吹いている。
****
「あなたは……モモナーさんのことを知っているの?」
「うーん……君の質問に答えるつもりはありませんよ。」と大男が言った。構えはすでに戦闘態勢に入っている。
いや、この答え自体も答えになっているのか……と大男がボソッと呟いた。自分にうっかり答えてしまったことに不満を抱いているようだ。
でもノールは、
「……答えるつもりがないならどうでもいい。それより、その人の身体、返してくれない?」とラーリーの身体を指して言った。
大男は一回視線をラーリーの身体に移して、元に戻った時に答える。
「ダメだ。」
ノールは眉をひそめる。
「なんで?」
「“アイツ”が離れた今がチャンスだからです。」
「……“アイツ”?」
もしかして、“中身”のこと?この男……
何故かノールの直感がそう訴えてくる。目の前の大男は間違いなく、何かがの詳細が知っていると。
この間のこと、または“天啓”のこと、そして、冒険者協会の一連のことも。
きっと何かがの意味があるだと、どこかに繋がっているだと、ノールが感じていた。
でも、そう感じていても、彼女は武装を解くつもりはない。それはそれ、これはこれだ。
目の前の相手は詳細不明のやつだ。会話ができる相手のようだが、先生の身体を奪った。理由があろうとも、それだけは譲れない。
「返してくれないなら……武力を使うまでよ?」
ノールは構えた。
大男はちょっとびっくりしたようで、目を見開いて答えた。
「……いいですよ?元々そのつもりで奪ったのですから。」
大男は、構えたままだ。
そして、お互いを探っているような戦いが始まった。
****
「城主様。身体の調子はどうでしょうか?」
廃坑から出て、側仕えのベーダはすぐ城主であるマダンのことを気にかけた。坑内の空気があまり良くないため、身体の調子に気をつけている。
マダンは両手が抱えているもので空いていないため、肩だけを動かし、自分が無事だよとアピールしていた。
「ええ、大丈夫……」昔を思い出すな……
動けなくなるほど重い空気が身体に渡っている。決して綺麗な思い出ではない。むしろ辛い思い出であったが、それでも家族との思い出に懐かしむようマダンは穏やかな表情だった。
「とりあえず、一緒に埋葬しよう。」
「はい。」
二人は村の墓場に行って、骸骨化した死体を埋葬した。
跪いて、弔う。
すみません。父上……城主として、あまりにもやることが多くて、ずっと、君に会えられなかった。
感傷に浸る。
また、思い出に浸る。
それは昔のこと。村の皆に囲まれた。鉱山の採掘をするための村の皆、いろんな大人に囲まれて、頭にわしゃわしゃという思い出。
“ハハハ!マダン。また先生に叱られたのか。”
“だって!勉強なんかつまらないんだもん!”
“おいおい!もしかしてお前、俺らみたいに採掘師になるつもりか?”
“別になってもいいじゃん!金がもらえるし!”
“それはやめたほうがいいぜ。やっと村の皆で金を出して君に学校を送ったのだ。大事にしたほうがいいんだよ。”
“そんなの頼んでないし!”
“おい、ガキ……”“なによ!”
“やめろ、子どもに暴力を振るな!”
もっと思い出を。
“マダン。カリーから聞いたんだ。お前、採掘師になってもいいだって?”
“だって……”
マダンは今にも忘れていない。あの時、父の目付きに、少々失望の感情が。
“ふう……仕方ない。マダン。俺についてこい。”
すると、鉱山前。
“……ここは。”
“俺たちが働いている鉱山。つまり、採掘場だ。”
“そんなのわかってるさ……”
あの時、父上の手が自分の肩に覆っていた。指や爪まで黒くなり、大きくて温もりが感じられる手。
“いいや、お前にはわかっていない。鉱山は一体どんなものなのかを。”
あの時、父の横顔、今も目に焼き付いている。逞しく、何かを守ろうと、支えようとする勇ましい顔だった。
“採掘師というものは、ずっと「命」と戦っているんだ。”
“命……”
“理解できないだろうけど、お前にはわかってほしい。面識のある人は明日突然いなくなったことが、一体どれだけ辛いことなのか。”
“そんなの……”
“マダン、知っているふりはやめよう。”
”……”
”ここにはあるんだ。”
“じゃあ……母も、そうなるの?”
“いいや、恐らく俺より君と長くいる方だろう……でも、それでも、君より先にいなくなるのが自然だ。だから、マダン。”
“……”
“マダンよ、よく覚えておけ……ここは――俺たちの「始まり」だ。”
“「始まり」?”
“ああ。俺たちはな、鉱山の採掘師だろう。”
“うん。”
“だがな、採掘師という仕事はその名の通り、採掘のせいで簡単に死に至るものさ。まさに採掘死。”
“……”
“だからな、お前には覚えてほしい。”
“採掘師のこと?”
“いいや、もっとだ……ここはいずれ、「歴史だけ」が残る場所だ。”
“歴史だけが……残る場所”
“ええ、そしてその歴史は、マダン……お前さんが作れ。お前に作ってほしいんだ。「歴史に残るやつ」は、俺たち採掘師(死)だけでいいんだ。”
“……わかんないよ。そんなの。”
“いずれわかるようになる。わかるようになってほしいんだ。だから君を学校に送った。真面目にやってほしいんだから。もっと真面目に……”
“……”
”俺らみたいになるのはやめよう。これだけはわかってほしい。”
”……わかった。”
そしてある日、父がいなくなった。
マダンは一呼吸し、目を開けた。
父上……ここは、「歴史の場所」。そうだよね?今、そうなるよう、頑張っている。
弔いが終わり、マダンは立ち上がった。気持ちを抑えて、ベーダに言う。
「……これで、二十年前の坑内の死者が全員見つかったな……あとは、定期的にここに来て魔物たちを殲滅することだね。次にここへ来る時は?」
「瘴気量が増えていないので、次はまた半年後だと思います。」
「半年後か……」
……また、会いに来るよ。父上。
マダンはもう一呼吸し、ベーダに言った。
「もう一度巡回しながら、戻ろうか。」
「はい。」
……
でも、巡回の途中。
「うん?」マダンは疑問の声を出した。
……
「どうしました?城主様。」
マダンは食指を伸ばし、シッという感じに口のところにポーズを取った。
……
「なんか、声が……聞こえない?」
マダンの話にベーダも一瞬で警戒し、耳を立て始めた。
“……うぅ”
「……確かに聞こえました。」
「どこだ……」
まさか、この廃村に人がいるのか?それとも魔物?とにかく、警戒せねばと、二人は声の発生源の方向に進んでいた。
乱れている建物、それぞれの空間はウサギ小屋みたいだった。特に建物の外見はほぼ差がないため、簡単に道に迷いそうである。
”……うぅ”
だが、呻き声のおかげで、二人は声の方向だけ進めば、やがてたどり着く。
二人がついたところは一つの屋敷だった。幸も不幸も、ちょうどマダンはこの屋敷に見覚えがあった。
昔の……家……
だが、マダンは思い出に浸っている場合ではないと思った。なぜなら、二人はもう一度呻き声が聞こえた。
ちゃんと目の前の屋敷から。
「う、うぅ……」呻き声。間違いない人の呻き声だった。
マダンとベーダは一回顔を見合わせて、どう行動するか決めた。まず周りからの窓などで中の様子を窺う。
窓を見つけて、こっそりと隙間を開く。
屋敷の中に一人が見える。
隙間で全貌が見えないが、あれはフードを被っている大男だった。だが、顔が隠せていない。
大男は今傷だらけで、顔に火傷の痕がある。
大男の姿に――城主だから、ある程度の情報が知っている。
この大男は実は――「賞金首のグリン」であることを。
ちょっとごちゃごちゃになるかもしれませんが、ヒントを出します。
この三つのシーンの時間帯、二つだけ同じです。




