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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
井上星の場合
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7

 こうして、井上星と井上凜二人は遺跡に近づいた。


 二人は足をコンクリート色の土に踏み入ってから、雰囲気が変わり始めたと感じた。


 森の中ではずっと木々に覆われていて、若干薄暗い雰囲気だった。だが、遺跡に近づくと、まるで影を吹っ切れたように、日光の輝きが二人の体中に伝わった。


 遺跡に近づきにつれて、青草と泥が混ざったらしい匂いが濃くなる。二人が周囲を警戒しつつ、遺跡の外周を一周回った。


 石造の小屋に見えるが、面積は普通の豪邸くらいの大きさだった。それでも、二人が一周を回った時間があまりかからなかった。


 入口は一箇所で、特に変なものがなかった。周りに生き物が潜んでいる気配もなかった。


 だから、二人はすぐ環境に気を配っていた。特に一番異質な地面の土に。


 二人が遺跡を回る時、すでにコンクリート色の土が異様な柔らかさに気付いた。歩く途中もよく足元に気を付けつつ、何回も力を入れて地面を踏んでいた。


「兄ちゃん。さっきから気になっていたけど、この土、変だよね?」


「ああ。この感じ……粘土かな?」と井上凜は足で踏んでいて、感触を言った。


「そうだね……粘土の感じ。」と井上星も同じ動きをしていた。


「手で触ったらどうなるだろう?」と井上凜はしゃがんで手で触った。そして、「うお……」と驚きの声を出した。


「どうした?」


「なんか砂みたい……ほら、手の隙間から流れていく。」と井上凜は言いながら、一握りの感じでコンクリート色の土を掴んで、示すかのように土を手のひらに置いた。彼の言った通り、土は砂時計みたいに少しずつ手の隙間から流れた。


「本当だ。性質が変わったのか?」


 井上星も試しに掴んだ。井上凜と同じ状況だった。


「おもしろー。ファンタジーみたい!」と井上星が少し興奮気味で言った。


「ファンタジーだろう。」


「へへ。そうだった。」


 井上凜は自分の弟がかわいいと思いつつ、バカおにぃの心を抑えて、したかったことを言いかけた。


「たぶん『調査の判定』もあるから、試しに――」


「凜様、星様。先ほどあなたたちの伝言を伝えてまいりました。」フロンが途中で口を挟んだ。


「お!フロンおじさん。おかえり!」「フロンさん。おかえり。」


「おかえ……あ!ただいま?」この状況はこのやり取りが正しいのかと少し疑問を思ったフロンである。


「何で疑問形?」


「うん……この対応が正しいのかと思っていました。」


「正しいよ、正しい。それに、私たちは今フロンおじさんの顔が見えないから、ただいまの挨拶が大事だよ。」


「なるほど。わかりました。今後話をかける際、ただいまを言います。」


「よろしい。」なぜか上からの井上星である。


「それで、フロンさん。向こうの方はなんて言いましたか?」


「あ!はい。

 佳月様からは『危険だったら、すぐ逃げてくださいね。命を大事に』と言いました。

 桃花さんからは『あまり無理をしないでね。こちらも君たちのことを探すから』と言いました。

 智澄さんからは『しばらく君たちの消息を待つ間、こちらも少し生活できるように頑張る。何とか道標を開拓して、君たちの方に辿り着く』と言いました。

 以上、お三方の伝言でした。」


「やはり心配されているか。」と井上凜は向こうの伝言を聞いてこう言った。


「はい。どの方も心配しています。」


 この土を調べ終えたらやめるかと井上凜は少し迷っていたが、井上星はすぐに言った。


「とりあえず、気をつけて行こう。兄ちゃん。」


「やめないよな。星くんは。」


「兄ちゃんが考えてくれるから、僕は行動できるんだ。だからやめない。」


「うん……頼られるのは嬉しいけど、兄ちゃんは万能ではないよ。不慮のことも絶対――」


「わかっているよ。だからそのことも含めて、僕は兄ちゃんの力になりたい。だって、僕たちは家族だろう。」


「……そうか。そうだね。」


「さっきまで兄ちゃんもずっと一人だったから、ちょっと気負いすぎだと思う。でも、僕は守られるだけの存在じゃない。確かに頭は兄ちゃんより劣るかもしれないが、体を張ることくらいできる。わからないことがあるなら、僕も一緒に考えてあげる。これこそ家族。そうだろう?」


 井上星の真摯の言葉に、井上凜は思わず微笑みをして、「そうだね。」と答えた。


「ね!」


「仲がいいですね。その……二人だけじゃなくて、あなたたち家族全員は。」


「ええ。自分は良い家族に恵まれていることに自覚しています。」


「まあね。」あまり意識していなかったが、井上星はここで照れ臭いことを言ってしまったと自覚した。すぐ照れ隠しのように、「コホン」と気持ちを仕切り直した。


「とにかく、フロンおじさんが帰ってきたということは、僕たちのことをサポートするつもりだね?」


「はい。そうです。ちなみに、お三方は二人とももう調査しているなら、しばらく返事しなくてもいいとおっしゃいました。私にサポートに集中してほしいという意味らしい。

 そのため、完全に注目しないわけではないが、大きな事件が起きない限り、お二方の調査にお手伝いいたします。」


「わかった。」「わかりました。」


「では、凜様と星様は、調査の進展はどうでしたか?」


「あ、そういえば、兄ちゃん。さっき『調査の判定』は何て言った?」


「そうだね。たぶん『調査の判定』があるから、試しにやろうと思ったが……一つ思いついたんだ。」


「それは?」


「フロンさん。今、私たちは遺跡周りの土を調べています。このコンクリート色の土、何の情報があるのか、教えてくれませんか?」


「『命の森』遺跡……コンクリート色の土……あ、ありました!恐らく、これですね。『魔法の粘土』です。」


「魔法の粘土……それはGM情報ですか?」


「いいえ。書いてありません。」


「では、教えてくれないでしょうか?」


「はい。『魔法の粘土』は――」


 魔法の粘土は「魔法生物」が生息している証拠。その性質は力の出力によって、粘土、砂、泥、沼などの性質に変化する。また、魔法の粘土を一つの性質に固定するには膨大な魔力が必要だ。

 よく「ドール」の材料として使われるのが普遍的だが、「アンデッド」、「ゴーレム」、「魔法器材」に使われることも多々ある。その分、価値も桁違いに上がる。


「なるほど。」説明を聞いた井上凜は少し考えこんでいた。


「兄ちゃん。さっきの状況と全然違うね。」


「うん。全部聞こえた。」


「お!この情報は全部聞こえましたか?」


「はい。聞こえました。」


「やはり、隠し情報は自分で調べなきゃいけないのかな。」


「そうかもね。恐らく、この情報がこの世界では『常識』だから、隠す必要はないってことだろう。」


「そっか。でも、『魔法生物』が生息している証拠って……」


「ああ、この遺跡の中にいるだろう。」


「うん。フロンおじさん。魔法生物は悪いやつしかいないのか?」


「いいえ。いい奴もいれば、悪いやつもいます。一概には言えません。だが、その遺跡は悪意と繋がりますので、あまり楽観視しないほうがいいでしょう。」


「それもそうか。」


「なあ、星くん。この情報を知ったうえで、調査の判定を試してみよう。」


「うん。」


「いいですか?フロンさん。」


「え、はい。構いません。でも、何で私の同意も?」


「一応教えといた方がいいと思ったから、それにちょっと……」井上凜は後の言葉が少し言いづらかった。代わりに、井上星が言っていた。


「ああ、兄ちゃんは少し信じてない行動を取っていたから、フロンおじさんは不快を感じないかなって。」


「ああ、なるほど。気遣ってくれてありがとうございます。優しいですね。凜様。」


「まあ、僕の兄ちゃんだし。」


「とりあえず……調査の判定をしよう。」なぜか褒められたかわからないが、少し照れている井上凜は話を逸らした。


「うん。」


 二人は一緒に判定を申請し、ダイスとメッセージが二人の目の前に出てきた。そして、二人のメッセージの内容が少し違うところがある。


 井上凜:

「『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧6。

 1:ファンブル。

 10:クリティカル。」


 井上星:

「『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧7。

 1:ファンブル。

 10:クリティカル。」


 知識という言葉に気になって、井上凜は確認したかった。


「判定する前に、星くん。」


「はい。」


「合流の判定に聞き忘れたが、君の難易度はどのくらい?私は8と6。」


「え……僕は8と7だね。」


「なるほど。能力値と関われば、判定の難易度が変わるのか。」


「つまり?」


「つまり、相応な能力値が高ければ高いほど、判定が成功しやすくなると思う。星くんの知識は2だっけ?」


「うん。2だ。たしか兄ちゃんの知識は3だよね?」


「ああ。」


「だから難易度に差が出るのか。」


「たぶんね。では、判定しよう。」


「うん。」


 二人は一緒にダイスを握って、振った。


 井上凜の結果:8 成功


 井上星の結果:5 失敗


「成功した。」「失敗した……」


 井上星はまた判定が失敗したことに落ち込んでいた。


「失敗ばっかりなんだけど……」


「まあ……残念だけど、TRPGの判定はそういうものだな。」


「はぁ……あ!でも、一応失敗しても情報があるね。」井上星は失敗のメッセージを消して、こう言った。


「お!どんな感じ?」


「うーん。とても簡単な説明しか書いてないけど――」


 “『魔法の粘土』:よく作り物の材料として使われる。”


「――って、こんな感じ。」


「なるほど。悪くないね。簡単で曖昧な情報だけど、不利な状況が生じない点で考えれば、どんどん判定してもいいかもしれない。」


「そうね。」


「そして、こちらは……」井上凜は成功の情報を確認した。


「うん。ちょっと書き方は違うけど、フロンさんが教えてくれた情報と同じ意味だね。」


「良かったね。フロンおじさん。」


「はは。そうですね。」少し半笑いをしたフロンだった。


「とりあえず、もう少しここら辺を調べてみよう。蔓が登れるかどうかとか、植物は有害なのかとか……これも知っておいた方がいいだろう。」


「わかった。」


「そして、調べている間、フロンさんは『魔法生物』について、主に種類はいくつがあるか、どんな種類があるか、私たちに教えてほしいです。」


「わかりました。」


 二人が行動して、フロンは魔法生物について説明し始めた。

挿絵(By みてみん)

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