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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
井上凜の場合
6/109

5

 あそこなのか?


 井上凜は判定した後、不思議なことが起きている。まるで井上凜を導くように、森の木々がもそもそと蠢いて、勝手に葉擦れの音がしていた。


 風がないのに、葉擦れが止まらない。生き物の気配も感じない……不思議な現象だな。明らかに「判定の結果」だ。井上凜はそう判断したが、その方向に進むつもりだった。


 彼は木々が導く方向に歩く前に、再び「その他」の内容を思い出す。


 その他:判定の出目が同じのため、不思議なことが起こる。仲間と合流できる。


 言葉遊びは考えにくい。不思議なことが起こるということはこの木々のことだろう。そして、「仲間」は星くんのことを指しているだろう。


「とりあえず、判定の結果を受け入れるしかない。」と井上凜が思っていた。


 井上凜は木々が導いた方向に進んでいた。約五分間の時間をかけた。


 進行中、彼は色々なことを考えていたが、結局何事も起きなく、あるところについたら、もそもその音が止まった。


「遺跡……?」と井上凜は考えながら、目の前にある遺跡をよく観察した。


 その遺跡は米色の粘土とホワイトの色調としたレンガによって作られた建物だった。近くに近づいたら、遺跡の周りに地面がコンクリート色の土になって、まるで境目にして区別するみたいに不自然だった。


 また、遺跡の大きさは小さかった。大きさは三階建ての家くらい。壮大な廃墟感ではなく、少し歳月さいげつに経った森と馴染んでいた石造の小屋だった。


 石の所々につるがはびこる。少し距離を取っていた井上凜でも、青草と泥が混ざったらしい匂いが鼻に伝わっていた。不快な感じがしなかったが、この自然の少々特殊な匂いはさすがに表情を変えられずにはいられない。


「小さいけど、遺跡だろう」と井上凜は思っていた。


 今彼は遺跡に近づくつもりはない。まだ自身が起きた状況が把握しきれていなかったから。


 判定の出目が同じのため、不思議なことが起こる。仲間と合流できる……だが、星くんはいなかった。ちょっと早く来たのか?


 井上凜は一歩引いて、遺跡のことを後にした。そして、すぐ周りを観察して、耳を立てた。


 もそもその音が止まったせいで、井上凜はずっと静寂を感じた。森でも風の音や鳥のさえずりなどが聞こえなかった。


 そのため、井上凜は微かな声でもとても大きく聞こえた。


「困り――せてね♪」


「これは……歌声!」と井上凜は呟いた。彼はすぐ歌声の方向を探していた。


「――の魔法でね♪」


「こっちか?」井上凜は耳を立てながら、声の方向に向かった。何秒歩いていたら、歌声が大きくなったとわかった。


「バンバン♪バンバン♪やっつけちゃう――」


 その歌声は井上凜が聞き覚えのある歌詞と曲だった。


 間違いない……これは最近星くんと若実ちゃんがよく一緒に見たアニメのオープニングだ!


 たとえ声の質が違ったとしても、歌詞と旋律によって、井上凜は確信できる。この歌声は井上星が歌ったのだと。


「ビンビン♪ビンビン♪かいけつだよ!ヘイ!おーじゃま♪おーじゃま♪おじゃーま♪だって――」声がだんだん大きくなって、歌詞の内容も明瞭となった。


 井上凜は確信した。


 だから、「星くん!」と井上凜は大声で呼んでいた。井上凜の声を聞いたらしく、歌声が止まった。


 何秒の沈黙が続いた後、井上凜は返事を得た。


「……兄ちゃんなのか?」


 その何秒の間、井上星は迷っていた。理由は、今の井上凜の声は自分が知っていた兄の声と全然違うから。


 だが、自分の名前が呼ばれた。


「ああ!おにぃだ!」井上凜はお構いなく、すぐ返事し、自分であることを証明した。


 この話で井上星も確信した。


「兄ちゃんはどこ?」少し震えていた声が井上星の不安を表していた。


 この不安の気持ちを紛らせるために、井上星は歌っていた。


「ここだ……ええと、お互い声の方向に向かおう!だから、会話を続けようか?」


「わかった!」


「では、さっきの歌、最近よく若実ちゃんと見ていたね。」井上凜は声の方向に進んでいた。


「まあ……面白いから。」と井上星は少し恥ずかしくて、顔が赤らめて言った。


「他の歌も歌える?」


「歌えるけど、さっきのはただ気を紛らせるために歌っただけだよ。」


「そっか。残念だな。弟くんは昔から歌がうまいからな。兄ちゃん少し聞きたかったなー」


「あの……僕は若実ちゃんじゃないよ。」


「はは。わかっているよ。」声は全然違うが、このやり取りのおかげで、井上凜と井上星二人は完全に落ち着いた。


 そして、二人はずっと声の方向に進んでいたら、相手のことを見つけた。


 合流できた二人は、相手の顔を見ると、それぞれの反応をした。


「……怖っ!」と井上星は一瞬キョトンと静止の状態になったが、すぐ反射したように言った。


「美少年だ!」と井上凜も井上星と同じの反応をした。


 お互いの反応を確かめた後、一緒に安心したようにプッと笑い出した。


「はは。やはり星くんだね。」


「はは。それも兄ちゃんらしい。」


 二人が合流できた。そして、井上星は先に顔が歪んで、涙が溢れ出した。


「あ……ごめん。安心したから……変だね?そんなに時間が経ってないのに……」井上星はプルプルと震え始めた。


 井上凜は最初意識してなかったが、今で気付いた。あの井上星が歌った声が、少し震えていたことに。


 だから、井上凜は星が泣き出したことにすぐ相手を抱きしめた。


「たとえ時間が長くなくても、突然森の中に放り出されたら、当然不安になるよ。謝らなくていい。」


「でも……僕はもう一人が怖くて、勝手に判定を……」


 井上凜はここでわかった。


 井上星は判定の結果が怖くないではなく、家族とずっと会わないから、早く行動したかった。だから、判定でもいい。藁でも縋る気持ちで判定したのだった。


 井上凜は微笑みを零し、優しく井上星に話しかけた。


「怖かったよね。兄ちゃんも怖かったよ。だから判定をしなかった。もしかしたら、会えないかもしれないと――」


 この話を聞いて、何が言いたかった井上星はすぐ「ごめん」と言いかけた。井上凜はそれを察知したように、すぐ「でも!」と言った。


「君が判定したから、私も行動できたんだ。私に勇気をくれたんだ。だから……」気にするな――と言いかけた井上凜だが、脳内からもっと適切な言葉が見つかった。


「……だから、もう怖がらなくていい。今、兄ちゃんがいる。」井上凜は軽く井上星の背中を叩いて、宥めた。


「う……」と嗚咽音をした井上星は頭を井上凜の胸に埋もれた。井上凜は優しく井上星の頭を撫ででいた。


 しばらくの間、井上星が落ち着いたとわかった井上凜は、少し身体を離した。


「もう大丈夫だね?」


「うん。」


「じゃあ、そろそろ状況を整理した方がいいね。」


「うん。」


「まず……そうだな。」井上凜は周りの景色を見た。そして、いつの間にか、遺跡のところに戻ったのだった。


 この変なことに気付いた井上凜だが、自分の弟に話すつもりはない。


「ここはどこだろう?」と井上星が言った。


「さあ……でも、あそこは危険かもしれないから、今は近づかないでおこう。」


「そうだね。ファンタジー世界の遺跡と言ったら、大体ダンジョンだよね。」


「そうね。でも、大きさはそうは感じさせないな。」


「確かにちょっと小さかった。」


「うんん……今遺跡のことより、星くん。」


「はい。」


「君はここに来る前に、森の木々がもそもそとした音が聞こえた?」


「ああ……はい。まるで僕を導くようにずっともそもそと……ちょっと不気味だった。」


「私と同じ状況だね。では、ダイス判定のメッセージも――」


 井上凜は一つ一つ井上星に確認した。両方の状況が全部同じだった。


「やはり……判定はしないほうがいいのか?」井上星は少し不安な顔で言った。


「うんん、お互い判定したから、どこまで状況が一致しているのか気になっている。」


「なるほど。」


「まあ、結局気になるところがあまりなかった。ごめんね。」


「いや、兄ちゃんが謝る必要がないよ。むしろ兄ちゃんがかなり頼りになったから、安心できる。」


「……星くぅーん!」


「やめて!姉ちゃんみたいな口調になるな!キモイ!」


「ああ――兄ちゃん、傷ついちゃった。」


 少し呆れた井上星である。


「あ……そうだ。フロンおじさんに話しかけようか?僕たちは合流したよと家族に伝えてほしいし。」


「そうだった。あと、みんなのスキルはどれを選んだのか気になるし。」


「そうだね。じゃあ、フロンおじさん!」と井上星は気軽にフロンのことを呼んだ。


 一瞬の間もなく、二人の脳内にフロンの声が聞こえた。


「二人ども!無事ですか?」明らかに焦っている声色、二人のことが心配しているフロン。


「あ、ああ。無事です。」と井上星はアイコンタクトで井上凜の方に見た。「君も聞こえる?」という意味だった。井上凜もその意味が気付いて頷いた。


「気を遣ってくれてありがとう。フロンさん。確認したいですが、『空の声』を使っていますか?」


「いいえ。使っていません。あの……若実様はまだ寝ていまして……」


「だろうな。」と井上凜と井上星二人は気が合うくらい同時に頷いた。


 井上若実の目覚め悪さ、起きられたくなさは家族全員熟知している。だから、フロンとすぐに連絡が取れなくなったら、どう行動すればいいか二人が考えていた。


「若実ちゃん、目覚めが悪いからな。」


「この身をもって知っていました。」


「ちゃんと布団を用意した?」


「はい。ちゃんと用意しておりました。」


「ならいい。」このやり取りが一段落の後に、井上凜は口を挟んだ。


「では、フロンさんはどうして私たちと同時に話しかけるのか?『空の声』がないのに。」


「『空の声』がなくても、権限みたいなものがあります。そして、その付近に人が集まってくれたら、力の連鎖によって、私の声が全員聞こえるようになります。」


「つまり、全員一箇所に集まったら、『空の声』がなくても、こうして話すことができますね?」


「そうです。ちなみに、私の声は君たち以外の人は聞こえませんので、気をつけてください。」


「何か深刻な理由があるの?」


「あ――私たちは知らされても構いませんが、でも、変人扱いにされたくないでしょう?」


「なるほど。」


「この件についてわかりました。では、一つフロンさんに頼みたいですが、いいでしょうか?」


「はい。凜様。」


 凜様と聞こえた井上凜は少し言葉が詰まった。井上星がニヤリと笑った。


「……家族に伝言を伝えてもいいですか?」


「はい。いいですよ。どんな伝言ですか?」すんなりと受け入れたフロン。


 あっさりと了承されたから、何とも言えない顔になった井上凜である。


「あの……阻止しないですか?」


 フロンは脳内に?の模様がいっぱいだった。


「ええと、何で阻止する必要があるんですか?」


「だって……いや、いっか。」もしかして理由付けに断られるかと思った井上凜だった。しかし、ただ考えすぎだけだった。


「あ、そうでした。君たちも伝言と言いましたね。」


「“も”……まさか!」


「はい。佳月様、智澄さん、桃花さん。三人が無事に合流しました。どうやら桃花さんは『クリティカル』を出したらしい。だから三人がうまく合流できましたと。」


 クリティカル……さすが強運の女……と二人が一緒に思った。


「……わかりました。じゃあ、私たちのことも伝えてください。」


「わかりました。」


「ちなみに、スキルは何ですかも代わりに聞いてくれないでしょうか?」


「お安い御用です。代わりに聞いていきます。他に言いたいことや聞きたいことはありますか。」


「あ!では、僕は聞きたいことがある。」


「はい。星様。」


 フロンに様付けされたら、井上凜と違って、井上星は逆に少し自慢そうな表情だった。


「今、僕たちは遺跡みたいなところにいるが、ここは何のところか、教えてくれない?」


「遺跡……『命の森』の遺跡……外観はどんな感じですか?」


 井上星は見た感じを説明し、不足したところは井上凜が補足する感じでフロンに教えた。


「……それは、『シナリオ』に関わる遺跡ですね。」

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