(2)
「今日から、お前にこの家に住んでもらう。」とカリー様が言った。
大剣を背負っている大男の姿、とてもたくましく感じる。
そして、奴隷の僕はカリー様に選ばれて、使用人として働くことになった。
正直、未だにも不思議と感じている。
なぜ僕が選ばれるのかを……僕は目の前の屋敷を見て思った。
カリー様は屋敷が大きくないとおっしゃいましたが、僕からすれば、立派な屋敷だった。
原木の壁に田の字の格子窓、斜面に作られた屋根に瓦礫を敷かれ、屋敷全体が一つ一つに質素でありながらも、精巧に作りこまれているのを感じられる。
つまり豪華を感じさせない、綺麗な屋敷だった。
こんな屋敷に、僕が……ここまで考えると、僕はカリー様に聞いた。
「……カリーさま。せんえつながら、きかせてほしいです。なぜ……カリー様はぼくを選んだのですか?」
僕の話を聞いて、カリー様が無表情のまま返事した。
「……というと?」
「だって、他の人たちのほうが……ぼくよりすごいから。センラーお姉さんはきれいな女性で、りょうりも上手です。マンラリア姉さんも楽器とダンスがうまくて、器用な方です。バウト兄さんは口がたっしゃで――」僕は同じ日に一緒に連れられた人たちのことを一人ずつ言っていた才能を述べていた。
その人たちは誰も僕より才能があり、すごかった人だ。
なぜ僕は選ばれたのか、わからなかった。
「――サティマくんも愛嬌が良くて、ぼくより才能があります。だから、何でカリー様は……」僕を選んだのか――僕は続いての言葉が言えなかった。
言えば言うほど、怖くなってきた。
“鬱陶しい!お前は奴隷だ!そんなことを知っても意味ないだろう!”
もしかしたら、カリー様に怒られるかもしれない。
“そんなことを考える余裕があるなら、さっさと仕事をやれ!”
僕は、震えていた。
地面にうつむいて、叱られるのを待っていた。
だが、カリー様の低い声は、僕の想像上の言葉を話さなかった。逆に、褒めてくれた。
「お前、賢いな。」
不意を突かれた言葉に僕は頭を上げた。
やはり無表情のままだ。だが、表情とは裏腹に、カリー様はしゃがんで、僕と同じ視線につき、両手が僕の肩に置いた。少し重みがあり、ちょっと暖かい大きな手。
「お前を選んだのは……そんな複雑なことではない。簡単な理由だ。」
僕は何も言わずに、カリー様の言葉を待っていた。
「昔……俺も奴隷だった。お前と同じ。」
「カリー様も?」想像しにくい……カリー様は昔も同じだなんて……
「ああ。だから、お前のことを自分と重ねたのだ。放っておけなかった。」
「そう……ですか。」僕は何も言えず、また俯いた。
「がっかりしたか?」
「うーうん!ただ……」僕は慌てて首を横に振った。
「ただ?」
「……僕に良すぎて、もったいない場所だと思っている。」
一粒の水滴が、滴る。
水が土に沁みて、拡散した。
「今のお前にはまだ早いかもしれないが……いずれ、受け入れてもらえたらいい。気が早まらなくていい……俺は、後悔しない。」頭がぽっと手に置かれた。
カリー様の言葉に、僕はただ頷くことしかできなかった。
「うん……」
こうして、僕はカリー様の家に住んでいた。
一週間、部屋の環境、家事のことについて教われた。
二週間、常識のこと、文字の知識について教われた。
三週間、防衛術や冒険者のクエストなど、教われた。
一ヶ月……
二ヶ月……
三ヶ月……
種族のこと、世の中の存在について、他に、魔法のこととか、アイテムのことも……カリー様は僕に色んなものを教わった。
楽しかった。嬉しかった。
奴隷だった僕が、孤児だった僕が、こんなに幸せな生活ができるだなんて……昔なら、夢でも見られなかった。
本当に、幸せだった。
このような幸せな生活が五年に続いた。
「どうですか?カリー様!」僕は家の柱にくっついて、なるべく身長を伸ばして立っていた。
「……伸ばし過ぎた。一日だけではこんなに伸ばさないだろう!爪先立っている!」
「あ……ごめん。」僕は足首を下ろして、普通に立っている。
今、カリー様に身長を測らせてもらっている。
「……こんなことしなくてもちゃんと背伸びをしている。焦らなくてもいいだろう。」
「だって、カリー様が言いました。もし、この一ヶ月に僕の身長がカリー様の規定の基準に達したら、今回のクエストにつれてくれるって!」
「クエストは遊びじゃないぞ。」
「わかっています!でも、僕はカリー様の役に立ちたいです!」
「家に居留守にするのも立派なことだぞ。」
「それもわかっています!でも……」この家に一人になるのは……少し、寂しかった。
カリー様はしょうがない顔をして、はぁと嘆いた。
「とりあえず、測ってもらおうか。ちゃんと立ってくれ。」
「お、おう!確かに。わかりました。」
そして、測ってもらった結果――
「どうですか?」
一秒、二秒、三秒……結果発表の間、心臓がずっとどくどくとしている。
「はぁ……仕方ないな。明日、お前の分を用意してやるよ。」とカリー様が言った。
「これは、つまり……!」
「合格だ。」
「よっし!」僕は嬉しくて、両手を拳に握った。
「偵察も武技も合格した……まさか体格もここまで成長したとは……子どもの成長って早いな。」とカリー様は感嘆するように言った。
「ふん、ふん!」僕は胸を張って、自慢げに笑った。
「……こう笑うようになるんだな。」
「うん?」
「いや、何でもない。忘れてくれ。」
……忘れないよ。カリー様。僕は忘れない。忘れていない。
カリー様の優しさ、強さ、そしてこの気持ちも、五年前のことも……絶対に忘れない。
翌日。
「では、お前のために、ちゃんと物を用意しなければな。今日はちゃんと居留守してな。」
「はーい!」
僕は玄関の前に、カリー様を見送った。
カリー様の背中が少しずつ遠くになって、小さくなった。
僕は、扉を閉めた。
そして、カリー様はこの日から帰ってこなかった。




