(1)
僕は、一人の孤児だった。
名前もなく、家族もない、たった一人の存在。
証拠は、僕は記憶がある以来、ずっと奴隷の身である。
でも、偶然にも僕に聞かれた話によると、僕は家族がいたらしい。生まれた後、すぐに商人に売られたと。
売る理由は金が足りないという、あまり珍しくない理由だった。食べる口を減らすために、乳児を売る人は少なくない。
当然、理不尽だが、僕には抗う術がない。世の中には理不尽なことが多いから。
そう。例えば――
「おい!メシだ!とっとと食え!」食べ物の選択肢とか。泥まみれの硬くて噛にくいパンに残菜。
「早くやれ!お前にはこれぐらいしかできないだろう!」地位の力関係とか。逆らえない命令に相応しくない労力の仕事。
――こんな感じに、理不尽なことが多かった。
僕の生活もこのようにできていた。
もしちゃんとできたら、何も起こらない。
しかし、うまくやれないと――
パチ!鞭が身に打った音。
パチ!赤くて太い血痕が一本ずつに作られた。
――うまくやれないと、罰が喰らう。
「ごめんなさい!ごめんなさい……!」
「お前はゴミなのか!クズなのか!こんな簡単なことでもできないのか!あぁ?」
パチ!
パチ!
当然、僕に任せた仕事は大体僕にできないことの方が多かった。
だから、体に刻んでいる血痕も、日に日に増え続ける。
パチ!
パチ!
「無能なやつだから、お前は売られないんだよ!いつまで居候するつもりだ!この寄生虫め!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
パチ!
パチ!
「この、役立たずが!」
パチ!
こんな日は、五歳まで続いていた。
このまま死ぬかと思う日もあった。
だが、こんな僕に一つの転機を迎えた。
それは一つの会見だった。
「いいか。お前らにはいい知らせがある。明日、一人の冒険者様はこちらにいらっしゃるつもりだ。」
商人様は鉄籠を隔て、一つ、一つ見回している。誰も返事していない。次の言葉を待っている。
この点だけは誰もが同じ。許しがないと、言葉を挟んだら罰が自分の身に降りかかる。
だから、全員次の言葉を待っている。
「この冒険者様は外出の頻度が高くてね……家事の手伝いが欲しかったんだ。わかるか?アイツには家があるんだ。つまり、俺が言いたいことはわかるよな?」
つまり、お金持ちのお客様だ……僕でもわかる。
そして、商品を見定めている視線が最終的に僕のところに止まった。
「それで、一つのアドバイスをやろう……お前らはいい生活を送りたいなら、精々媚を売れ。能無しのやつなら、これくらいできるだろう……返事は?」
「「「はい……わかりました。」」」僕を含めて、全員返事した。商人様が返事を聞くと、僕を一回睨んでから離れた。
冒険者様……か。僕は選ばれるかな?こんな僕が……
僕は鉄籠の中に横になって、考えていた。
翌日。
僕と他に七名様の奴隷たちが一緒に豪華な客間に連れてこられた。ここは商人様がよく招待に使う商用の客室だ。時々連れてこられる日があるからわかる。
でも、僕はずっと選ばれなかった。
この日もそうだと思った。
客室に辿り着くと、一人の大男がソファーに座っている。冷たい目付きに無表情な顔付き、また机の上に置いた大剣は誰のものなのか容易に想像させる。
外見だけでなく、雰囲気までにまさに冒険者そのもの……きっと生まれつきの天職なのだろう。
「もたもたするんじゃない。入れ!」商人様に言われると、僕は自分が足を止めたことに気付いた。
僕は恐る恐る部屋に入った。大男の視線は僕を見つめた。
他の奴隷と一緒に部屋の中央に立ち、商人様は僕たちのことを大男に紹介し始めた。
奴隷は僕を含めて、八名いる。
二人のお姉さんと二人のお兄さん、僕よりちょっと大きかった二人の女の子と、僕と同じくらいの一人の男の子……それぞれの名前を紹介した後、商人様がこう言った。
「……この子たちは最後です。カリー様。今までの商品にお眼鏡に適わなかったでしょうが……できれば、この子たちから決めてくださいね。何よりわたくし、商品の品質にこだわっております。何も選ばずにここから離れるのは、少々心外ですので。」
大男――冒険者様の名前はカリーらしい。
「その心配はいらん……俺は言ったはずだ。全部を見てから決める。」
「ええ、ええ。わかりますとも。」商人様は少し手をすりながら言った。
そして、カリー様の視線は再び僕に向いた。
「……そういえば、この子の名前はまだ言ってないんだが?」
「ああ、この子は名前がありません。生まれた後、すぐに売られましたので。」
「……そうか。」
カリー様の目は僕を見つめている。
怖い……
「では、お前たち。お客様に自分の才能を披露しろ!」
「「「はい。」」」
簡単な自己紹介と芸の披露、間もなく僕の番だった。
「次!お前!」
商人の視線、カリー様の視線……二人だけでなく、全員の視線が自分に注目しているのを感じる。
僕は少し前に出て、地面を見つめて言った。僕にはちゃんとした才能がない。強いて言えば、一人の兄さんが売られる前に僕に教えてくれた。あの兄さんに教えられる前に、僕はこれが才能だと思わなかった。
「ぼ、ぼくは……その……目がいいです。」
「……もっとわかりやすく言え!」
「は、はい!」
僕は慌てて、窓の外を見て、一つの民家に植えた果物の木を指で指した。
「……あ、あの、あそこの木、果物があります。」
大丈夫、ちゃんとあります……僕はもう一度確認した。確認した後、二人の方へ向いた。
「――だそうです。カリー様。どうでしょうか?」商人様が笑っているようで、笑ってない感じで言った。
「待ってくれ。」カリー様は腕を組んで、目を閉じた。
少し静かな時間だった。この間、商人様は何がわかったようで、僕を睨んだ。
妙に静かになった空間、息苦しかった。僕は商人様の視線を逃れるために、地面を見つめた。一言話さず石像のように立っていた。
しばらくすると、カリー様は「なるほど。嘘ついてないようだ。」と言った。
カリー様が沈黙を破ると、僕は少し頭を上げて、二人を見た。カリー様は目を開けた。そして、カリー様の話を聞くと、商人様も顔を変えて、笑顔になった。
「ええ。嘘つかないようにちゃんとした躾をしましたので。」
「……ふん。なるほど。こんな小さな子どもでも躾ができるのは……大したことだな。」
「ええ。当然のことです。」
カリー様はしばらく僕を見つめた後、商人に向いた。
「……少々仲間と相談する必要がある。また後日に来る。」
「し、しかし――」
「これは敷金だ。」カリー様は机の上に置いた大剣を指して言った。僕も思わず大剣の方へ見た。
「敷金……つまり保証金ですね。」
「ああ。奴隷の商人でもわかるだろう。冒険者は武器がないと、色んな支障が出る。生活するためのツールだからな。」
「ええ……」
「もし三日後、俺はここに来てなかったら、その時、こいつを売れ。それなりの金額がある。」
「なるほど……わかりました。カリー様。三日後、ですね。」
「ああ。だが、俺が約束を守らなかった時だけだ。お互い、自分の名声が気になるだろう?」
「……そうですね。わたくしも良い売買がしたいので。」
「なら、決まりだな。」
二人が握手して、少し見つめ合った。
そして、カリー様は帰った。
僕は、あまり期待していなかった。
だって、目がいいからって、何になる?
家事の手伝いにも……あまり役に立たない。そう思った。
でも、二日後。
カリー様が再び来た。二人の仲間を連れて、商人様のところに来た。
「この子とこの子……あと、この子にする。」
僕は、選ばれた。




