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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
戦い(2)
51/109

50

 「ツリーセ!」


 リンディは両手をかざして、魔法でツリーセを治療している――


「くそ……!」


 ――しかし、治療はあまり効かなかった。


 リンディは精々出血量を緩めて、血のかさぶたを形成させ、ギリギリ止血できたところだった。


 だが、かさぶたは何秒も耐えられず、すぐ破裂する。回復の効力が薄くて、出血が止められない。


「俺が治す……治す!」


 治療。


 破裂。


 治療。


 破裂。


 結局、ずっと治療→破裂の循環だけだった。通常の魔法では回復できなかった。


 リンディは何回も試して、普通の治療がだめだとわかった。


 そして、「……ならここは、僕の『限界魔法』を!」リンディは両手でツリーセの切り傷を触り、目を閉じた。強大な魔法を使うつもりだ。

 ――――――――――――――――――――――――――――

 “限界魔法”:数字を元に戻して。

 制限時間:5分

 3X3       4X4      ……   8X8


 4 6 8    6 9 11 13

 1 7 5 …… 1 12 3 14  ……

 2 3 X    8 2 5  15

  7 4 10 X

 ――――――――――――――――――――――――――――


 魔法を発動するには「概念」というものが重要だ。特に強大な魔法を使うためには集中力が必要だ。


「概念」は単なる理論ではない。埋め合わせ、組み合わせ、また組み直し、元に戻す等々、色々な概念がある。


 そして、概念は効力に応じて複雑になる。それを解くには時間も必要だ。


 そのため、魔法を使う時、当人は無防備になることが多い。


「……吸血鬼。」リンディのことに気付いた瞬間、男は腕が折れたことに、また井上桃花のことも全く眼中になかった。


 男は地面に落ちたナイフを拾い、目を離した瞬間、刹那の間にリンディの側にいた。


 いつのまに?!と井上凜は驚いている間、ナイフがもうすぐリンディの首に突いたところだった。


「君に邪魔させると思う……?」と、モモナー(井上桃花)は視界の死角から男に綺麗な一撃を放った。


 正拳からの肘鉄、膝蹴りからの薙ぎ払い……不意に突かれた男はまともに連続攻撃を喰らって、後ろに打ち退かれた。


 ……雰囲気が変わった?打ち退かれた男はモモナーを見てこう思った。


 いや、そんなことより……偶然か?


 モモナーは軽くリンディとツリーセのところに一瞥した後、冷静な目付きだが、完全に怒りを含めて、男の方に向いて身構える。戦闘態勢に入った。


 当然、ここまでしたら男はモモナーのことを無視できなかった。


 コイツの方が強い……そう判断した男は間もなく攻勢を発した。


 そして、二人は瞬間の攻防戦が始まった。


 右、左、下……突く刺す蹴る膝掌底頭突き目つぶし殺し投げ受け流し――


「……」


 掴み技反制キックジャンプ越え円切り、掴み取り手刀下段蹴りロンダート――


「……」


 上段中段横蹴り左に変わって上段、牽制牽制横に向けて下……


 二人の攻防戦が瞬時すぎて、息を入れる余裕がない――普通なら。


 井上凜はここで二人の戦闘に加わった!


 戦闘の協力判定:必要な成功数3


 井上凜:

 判定の結果:8(+2)=10 クリティカル


 モモナー(井上桃花):(省略)

 判定の結果:10(+2)=12 クリティカル


 クリティカルを出すと、成功数は+1。


 判定の結果:成功数4 成功


 男とモモナーは二人が戦っているため、ずっとお互いの動きしか注目していない。


 井上凜はこっそりと後ろに隠れて、隙を窺う。


 掌底横蹴り足払い開脚蹴り、平掌あっぱ狙い突拳叩きつけ――


 ここだ!と井上凜は男がモモナーの突拳を喰らった瞬間、すぐに折れた方の手を狙い、男の手を掴んで、流暢な動きで身体を反転し、制圧した。


 モモナーは一瞬驚いた反応をしていたが、すぐ元の表情に戻った。しばらく井上凜に任せようと思っている。


「お前は誰だ!何でこんなことをする!」と井上凜は身体で圧力を与え、男は動かない。


 けれど、制圧されたにも関わらず、「……甘いな」と冷淡な声で言った。


 全く焦らず、ただ続いての言葉を放つ。


「腕一本くらい……くれてやるよ。」


 突然、井上凜はカチッという音が聞こえた。


 突然、身体中に浮遊感を感じた……いいえ、飛ばされたのだ。


 ……え?


 また状況が理解に追いついてない中、井上凜は自分の手に持った重いものを見た。


 義肢?


 てっきり骨が折れた手だと思った部位は実は男の義肢だった。なぜ折れた手に何も感じなかった原因はこれである。


 男は容赦なく空中から降りてくる井上凜にナイフで刺すつもりだが、モモナーが「はあぁ!」と叫んで、男の注目を引いた。


 男のナイフはモモナーに向けた。


 井上凜は空中からパタッと墜落した。


 いたっ……!


 二人の一瞬の攻防がまた始まった。


 スッ、シュッ、スッ……二人はずっと環境を利用し、地面につきの上段蹴り、何本の白い閃光が光って、技と殺す手、お互い一歩に引かない戦いをしていた。


 時にさっきみたいな感じで井上凜も加勢に入る。


 だが――


 これでもやっとギリ五分……?井上凜は拳を振って、男に避けられた。モモナーが次に攻撃して、防がれた。


 連携は取れているはずなのに……


「はぁ!」


「やあぁ!」


 井上凜とモモナー二人は隙を窺って、一斉に別方向から男に仕掛けた。普通なら、避けられない攻撃だった。


 しかし、男は一瞬二人の視野から消えた。いわゆる、視野の死角に隠れた。


 男はブレインキングダンスみたいに地面につき、片手で身体を支えて、ありえない角度で両足がサソリの針みたいに二人の顔に向かって蹴りを放った。


 蹴りを喰らった二人は後ろに下がって、男も二人と距離を取って、後方に宙返りした後、立っていた。


 この男……強すぎる。


「何でこんなことをする……問題に答えろ!」と井上凜が言った。


 それに、こちらと話す気もない。


 男は相変わらず何も言わなかった。ただ視線がリンディの方に一回向いた。


 井上凜はその視線に気付いた。


 狙いはあの子か……


「グリンさん!アイツの視線に誘導されないで!」モモナーがそう言うや否や、男と井上凜は同時に行動した。


 男はリンディの方に向かうと、井上凜も男に向かって阻止するつもりだ。でも、井上凜のこの行動は男の狙い通りだった。


 背を向けているのに、突然のひっくり返し。


 井上凜は男の突然の行動に反応できず、一秒の間を空けた。だが、この一秒で男のナイフが井上凜の喉にぶっ刺さる寸前だった。


 しかし――「だから……させないと言った!」


 モモナーが視野に現し、ナイフの刃部分に蹴りを放った。ナイフがパチンと皿のように割れて、刃の部分が後ろに蹴っ飛ばされ、「ドッ」と土の地面に刺した。


 モモナーの行動にさすがにずっと無表情な男でも些細な反応を示した。死んだような目は少々驚いたような感じに目を開けた。


 反応はこれだけだったが、男の感情に充分に表した。


 これで二回目だ……


 実はモモナーは一緒に二人と行動して、後ろについていた。その上、男の死角に隠れて、見事に不意に突くことが成功した。


 自分の視野の死角に隠れたからこそ、男は確信した。


 先にモモナーを殺した方がいい。


 男はほぼナイフの柄しか残ってないものを捨てて、近くの地面に刺した最後のナイフを抜いた。少しナイフを横に伸ばして、何度も光の反射を示した。


「グリンさん。対人の戦闘は……情報戦だ。」


 情報戦……


 こうして、戦いがまた始まった。


 ****


 意識が遠のいている。


 死、自分はもうすぐ死ぬであろう。ツリーセはほぼ朦朧とした意志で考えている。


 “「俺が治す……治す!」”という声も段々と聞こえなくなる。


 井上凜と井上桃花二人がこちらのことを守っている姿が輝いているように見える。


 ツリーセの意志は、少しずつ暗闇に沈んでいる。


 何も言えない。


 空白になった世界。


 自分は一度に死を迎えた存在だ。まさか二度目に死ねるとは考えられなかった。


 でも……これで「神様」との約束を守った。ツリーセはカラッとした心を感じて、こう思った。


 そして、ツリーセの意志に完全に暗闇に沈んだ。


 ……


 “――”


 すると、一つの小さな、とても小さな声が聞こえた。


 “――”


 誰?


 “――ん”


 星?


 “――くん”


 いいえ……違う。これは一度だけ、会ったことがある。


 “「ツリーセ」くん。”


 これは――「神様」。


 神々しい光は降臨し、ツリーセの意志に覆われる。それはとても暖かい感じだった。


 “約束を守ってくれたね。「ツリーセ」くん。”


 はい。神様。


 “ありがとう。そして、ごめんね。「ツリーセ」くん……いいえ、元々孤児……だったですね。君にこんな目にあわせて……とても辛い人生だったでしょう。”


 ……でも、おかげで、幸せな家族と出会った。まるでもう一度に人生を送った気分です。


 “……本当に申し訳ありません。この世界は悪意に満ちあふれている。私には、手に負えなかったです。”


 神様でも……できないことがあるんですね。


 ふふっ、というしょうがない笑い声が聞こえた。


 “でも、ツリーセくんは私との約束を守ってくれた。これで、君は次の輪廻に、つまり、次の人生を送ることができます。当然、全ての記憶が消えますが……”


 待って。神様。


 “何でしょうか。”


 僕に……もう少しの時間、もう少し“ツリーセ”の身体を、使わせてください。


 “それは……”


 頼みます。僕は、星くんだけでなく、あの家族も……大事にしたい。


 “わかりました……いいでしょう。でも、その身体はもう長くない。これだけは覚えてください。”


 わかりました。


 “丁度、一つの「きっかけ」があります。たぶん、これで十分間耐えられるでしょう。”


 ありがとうございます。神様!


 “ふふっ。ずっと言っていましたけど。私は「神様」ではありませんよ。”


 え、でも……神様は神様って呼んでもいいっておっしゃいましたが……


 “それはそうですが……私には「リア」という名前があります。できれば、今後「リア」という名前を呼んでほしいです。そうしないと、自分が忘れられそうで……”


 ……わかりました。リア様。


 “では、君にご武運を。”


 ****


 戦闘が続いている。


 井上凜とモモナー二人が交じりあい、交互に男を攻めている。


 両方ともどちらも優勢になっていない。持久力が奪われる一方だ。


 ……しぶとい。


 二人の身体中にだんだんかすり傷が増えている。だが、動きは全く遅れていない。むしろ粘り強さを発揮し、動きが早くなりつつある。


 まさか、自分はここまで攻められるとは……男が考えている。


 そして、二人と交戦し、男はタイミングを計って、二人と距離を取った。


 距離を取った瞬間、男は「……いいだろう。」と言った。


「……何が?」


 男は井上凜の問題に答えず、懐から小さい瓶を取り出した。その瓶の中にキラキラとした緑色の液体が入っており、どんな効果があるのか一目でわかる。


 まさか――井上凜はまだ考えている途中、モモナーはすでに行動した。


 瓶を奪うつもりだ。


 しかし、距離を取られた二人は当然間に合えず、男は液体を自分にぶっかけたことにゆるした。


 瞬時、男は痣ができたところ、ボロボロだった様子が、元々なくなった左手以外、全部の怪我が回復された。


 回復薬!


 男は自分の身体を確認してから、自分に向かってきたモモナーと再び交戦した。


 だが、男の動きは速くなり、モモナー一人だけできつくなった。


 だから、井上凜はモモナーに加勢し、何回も攻守を働いた。


 すると、


「若実姫様。こちらに来てほしい。」という声が響いた。


 井上凜は一瞬気が散った。


 男のナイフも気が散った瞬間に彼の前に迫ってくる。


「退いて!」


 モモナーは乱暴に井上凜を適当な方向に引きずって、ナイフの先端を手のひらで受け取る。


 プツァー


「……うっ!」


 ナイフはしっかりとモモナーの手にささっている。


 血が滴る。


「はぁ……はぁ……」井上凜はきょとんとした。


 モモナーは逆に笑みを浮かべた。


 “「若実姫様。姿は見えないですが、声が聞こえます。あの言葉を言えば、聞こえます。」”


「……これで、武器がなくなったな。」


 男はナイフを抜けない。


 モモナーが力を入れていることもあり、骨の間に引っかかって、簡単に抜けられない。


 男は抜けられないとわかって、ナイフを手放した。


 “「おにぃ……?」”


 若実ちゃん……井上凜はどれだけ話しかけたかった。


 『妹ちゃん……』井上桃花もどれだけ妹に恋しかった。


 しかし、目の前の状況に、井上凜は軽く話しかけない。井上桃花に至って、話すこともできない。


 『……早く、この人を何とかして!』


 男は手放すと、モモナーは容赦なく蹴りを放ったが、男は後ろに避けて、バランスが崩したところに手で地面につき、バク転をした。


 そして、着地した後、左手の義肢が男の近くに転ぶ。


 すると、男は冷笑した。


「武器がない?」男はゆっくりと左手の義肢を拾った。


「なあ、お前らは何でアイツがここに飛ばされるかわからないのか?」


 アイツというのは、二人は聞かなくてもわかる。リンディだ。


 そして、男は答えを示したかのように、接合の部分を井上凜に向けた。


 義肢はまるで銃砲のように、紫色の光が先端に輝き、不規則な丸玉に形成している。明らかに致死性の攻撃力を持っている。


 『避けて』


「避けて!」とモモナーは叫んだ。


 モモナーの言う通り、井上凜は走り出した。木々の間に通り抜けて、男の照準をずらせるために、ずっと走り続ける。


 そして、紫色の玉が発射した。


 パ、パ、パ、パ、パ――紫色の玉が井上凜に打てなかった。


 でも、玉の威力は後ろにある数十本の木を打ち抜いた。更に攻撃を仕掛ける可能性が高い。


 もう一度に蓄積させてはダメだ!とモモナーはこう判断して、すぐに男と距離を詰めた。


 すると、カチッという音がして、男は折れた部分から義肢の手を分断し、ヌンチャクみたいなものになった。


 同時に、先端も小さな玉が形成して、殺傷力は最初のものとは違うが、拳程度の攻撃になる。


 パキン、プピュン、バキン、ピュン……モモナーは手のひらにはまったナイフを、男は義肢の手を、お互いがお互いに仕掛けつつ、相手の攻撃を避ける。


 まさにギリギリの戦い。


 井上凜は二人の戦いを見て、震えていた。


 自分は何ができるのか……


 井上凜は二人の戦闘に加わることができない。モモナーの足を引っ張る未来しか見えない。


 頼りになる兄?


 自分は何もできなくて、本当に頼りになっているのか?


 今までの自分は、ただ足を引っ張っているじゃないのか?


 守られるだけの存在……これはどこか頼りになる?


 でも、目の片隅にあるメッセージが――浮かんでいない。


 一つの声が井上凜に気を逸らしたのだ。


「ツリーセ!」


 ――――――――――――――――――――――――――――


 “限界魔法”:数字を元に戻して。

 制限時間:5分


 3X3     4X4       ……  8X8


 1 2 3    1 2 3 4

 4 5 6 …… 5 6 7 8   ……

 7 8 X    9 10 11 12

  13 14 15 X


 かかった時間:4分56秒。


 制限時間内に全部を解いたため、“限界魔法”の使用は成功した。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 リンディの叫びを聞いて、井上凜は振り返った。


 唇に何の血色もなく、顔色がほぼ蒼白になって、ひどいありざまのツリーセがそこに立っていた。


「何をするんだ!やっと止血できたんだ!休んだ方が――」リンディがツリーセの手を引っ張っている。


 ツリーセはリンディの手を振りほどけない。でも、なぜか掴められない。


「ありがとう。リンディ。僕を救ってくれて。でも……僕はもう駄目だ。だから、僕はできるだけ、最後の役割を果たしたい。君を救うこと、そして、この人たちを救うこと……」


「バカなことを言うな!お前はもう俺に治されて――」


「リンディ。」


 沈黙。


「短い間だけど、君は素晴らしい友達だ。もっと、君と仲良くなりたいな。」


「なら……友達なら!」リンディは軽くツリーセの手を引っ張っていると、ポっという音が出た。


 ツリーセの手が身体と離れた。力を使っていないが、離れた。


「……え?」リンディは水色に輝いている目を開けて、何も喋らなくなった。


 井上凜も目撃し、何を言えばいいかわからなかった。


 ツリーセ一人だけ、微笑ましい表情をしている。


「ほらね。この身体はもう駄目だよ。僕がやりたいようにさせて。」


 沈黙。


「そして、凜さん。」


「……なに?」


「僕の代わりに、星に伝えてほしいことがある。」この話は井上星がもうツリーセの中にいないことを示した。


 井上凜は黙ったまま頷いた。


 ツリーセは話したいことを伝えた後、「……本当にいいなぁ。家族って。」と言った。


 大事にしているから、立ち向かう。


 死でも。


 危険でも。


 ツリーセは男に向かって走り出した。


「モモナーさん!アイツを裂け目のところに追い詰めて!」


 パピュンー


「ツリーセちゃん?!」


「……ふん。雑魚か。」男は何の表情もなく、義肢の手をツリーセに向けた。だが、すぐにモモナーに阻止され、照準がずらした。


 そして、モモナーはそのままの勢いで男を掴み、一歩、また一歩、推していた。


「ツリーセ……ちゃん!」追い詰めているよという意味でモモナーが言った。


 男は頭以外、全員動けなくなった。裂け目のところにも近づいた。


「チッ。」と、男が初めて焦ったと思うように見えた。


 でも、モモナーはまさかとは思わなかった。


 実は男は焦って舌打ちをしたわけではない。口から、五センチくらい大きさの破片を出したのだ。破片は刃みたいなものだった。


 男は破片を咥えたまま、モモナーの頭に突く。


 さすがに口でも武器が隠したとは考えていなくて、モモナーは破片に刺されそうだ。


 だが、間一髪のところに、一人の手がその攻撃を受け止めた。ツリーセは手で破片を覆って、男の頭を押した。


「……後は僕に任せて。」


 ツリーセはモモナーに質問させる暇も与えなく、直接男を連れて、裂け目のところに行った。


「ツリーセちゃん!君は一体どうするつもり!」


 ツリーセは男を連れて飛び降りた。


「はっ……俺はこんな高さで死ぬと思う?」


 三十メートルの高さ、普通ならどんな生物でも死ぬはずだ。だが、この男なら何かの手段があるに違いない。ツリーセでも思う。


 でも、「……いいえ。思ってないね。」ツリーセは全身で男の身体を縛った。


「ふん……無駄な足掻きを!」男はツリーセの身体を簡単に振りほどいた。もっと正確に言うと、振りほどいたら、身体が分裂して、ぺっちゃりと男の体にくっついた。


「な……!」男は初めて大きな反応を示した。


「僕は当然こんな高さで君を殺せるとは思ってないよ。でも――」


 身体中に道具を取り出せるところが、全てツリーセに塞がれた。


「……吸血鬼狩りさん。自然って、いいな。」


 プチャー。


 男の意識と命はツリーセの話とともに消えていた。


 ****


 “星。君と出会えて、嬉しかった。”


 “短い間だけど、僕は……幸せだ。”


 ****


「はぁ……はぁ……すみません。若実ちゃん。さっき、おにぃは……ちょっと忙しいんだ。」


「うんーん、だいじょぶ……」


「本当にごめんね……はぁ……ねぇねと、にぃにも……忙しいんだ。君には悪いけど、しばらくおにぃ一人だけで、お話をしてもいいかな?」


「うん。」


「若実ちゃんは本当にいい子だね……いい子には、ご褒美のお知らせがあるよ……ゴホ……」


「なに……おかし?」


「はは……帰れば作ってあげる!」


「いいのぅ?」


「ああ。それと……」


「にぃには、もうすぐ迎えに行くよ……」

今回長く書いたため、一日遅くなりました。

申し訳ございません。

ちなみに、次話が幕間の話。「ツリーセ」の話です!

挿絵(By みてみん)

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