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「命の森」:
昔の伝説によると、命の森はハーラーリア世界の命の起源であり、全てを生み出した一つの森である。人間、小人、ドワーフ、精霊、魔物……生きている生き物だけでなく、死んだ存在もこの森に帰って、一つの木になるという。
しかし、この壮大な伝説に反して、命の森の面積は小さくて、ここにいる動物もごく僅かだった。魔物に関してはほぼ見当たらないことだった。
名前と違って、命の森に植物以外、生物らしい生物はほぼいなかった。
「――逆に、木の実や山菜、ストロンなど、植物系の食べ物は簡単に見つけられます。食べ物を探すなら、この方向性で行った方がいいんですが……」と、フロンが少し困っている感じで説明している。
フロンが説明し始めた原因は、井上凜が今いた環境について知りたかったから。
新開発したTPRGを遊んでいると、突然森にいて、家族とはぐれてしまって、遺跡を見つけて、吸血鬼と出会って、無理やり戦わされて……
色々な突発な状況が起きてしまったため、冷静に状況を整理する余裕がなかった。
今、井上凜は井上桃花とツリーセと一緒に湖のところに向かっている途中だ。動物を掴んで、ランディたちに届けるために。
だから、命の森に関すること、主に生態系のことが知りたかった。しかし、その答えはあまりよろしくなかった。
「……つまり、動物が少ないですね。」
「はい。なくはないんですが……」
じゃあ、やはり自分の血を分け与えたほうが一番いい案だろう……と井上凜が思っている。
「ちなみに、フロンさん!この森、どんだけ広いでしょうか?」と井上桃花はまるで井上凜が無駄な思考をやめさせるようフロンに言った。
「面積の広さというと千二百……そうですね。日本で例えると、東京都の半分くらいでしょう。」とフロンは面積の数字を言いかけたが、詳細な数字を言ってもイメージがわからないと考えて、例えで言った。
「東京の半分……これは広いかな?兄さん。」と日本地図が知ってても、あまりイメージが湧かない井上桃花である。
話が投げられた井上凜は考えるのをしばらくやめて、歩きながら手で空気中に地図の形を描いた。
「うーん。この森がある大陸はどれだけ広いかわからないけど、一つの大陸で考えると、あまり広くはないだろう……それでも、歩行で森を抜けるなら、四か五時間くらいか必要だろうな。」
「広いじゃん!」と井上桃花がフロンに少し怒っている風に言った。
「いや、広くないでしょう!」とフロンが慌てて返事した。「飛べるなら十分間も必要ないらしいし……それに、あなたたちの安全面が大事ですから。」
「でも、私たちは飛べませんよ……」と井上凜が気まずい感じで言った。
「それはわかりますが……安全第一で考えているので。」
他の場所はそんなに危険なのか?と井上凜はこう考えると、一つのことに気付いた。
後ろにあった足音が止まった。
もしかしてはぐれてしまったのかと心配して、井上凜は振り返ると、ツリーセがちゃんといた。
ツリーセはただぴたっと立ち留まっただけだった。
だが、突然そのまま立ち尽くすのはやはり不自然なので、井上凜は足を止めて、ツリーセを呼んでいた。
「ツリーセさん?」
井上凜の呼ぶ声に、井上桃花も止まった。何も言わないまま振り返る。
もしかしてロールプレイング状態が終わった?と井上凜が微かに期待していたが、ツリーセが続いて言った言葉は簡単に違ったとわかった。
「リンさん……」
「はい。」星くんじゃないな。
「あの……星が思い出したというか、僕も違和感を感じたというか……」ツリーセが言い淀んでいる姿に、井上凜と井上桃花は大事なことを言い出そうとしているだろうと、二人は焦りなく真面目に聞いている。
「僕たち三人はリンディとサンディ……初めて会った時、ちょっと変な空いた間があるじゃないですか?あの時。」
ツリーセが言ったこと、井上凜は一瞬で思いついていた。両親を返してほしいという時だ。井上桃花も思いついたように、肯定の感じで井上凜の隣に頷いた。
「あの間は……二人が会話しているでしょう?」とツリーセが言った。
「まあ……そうでしょうね。どんな内容か知りませんが、結果的に阻止したでしょう。あなたのおかげで。」その鋭い直感が働いて、自分の両親を助けた。これは考えついても行動に移せない自分ができないことだった。
井上凜が吸血鬼たちの関係性に推測できても、ツリーセみたいな行動ができなかった。
それに、実は井上凜がこう考えたのだ。
もしかしたら、ツリーセのあの威嚇するような演技は井上星が指示したのかもしれない。
なぜなら、井上星は遺跡の時、ロールプレイング状態になる前に、全員の吸血鬼を見ていたのだ。
行動派の星くんなら、そうしてもおかしくはない。と井上凜が考えていた。
ツリーセと井上星、もし一つの身体でいなければ、実質二人である。
つまり、二つの思考回路で考えているのだ。思考の数が増えると、理解できることも多くなる。
そして、井上凜が考えていたことが間違っていなかった。
井上星は今も思いついたことをツリーセを通して伝えたのだ。ツリーセ自分の言葉と混ぜて。
「では……僕たちに動物を探させるのは、密かに会話している可能性はあるでしょう?その、僕たちには聞こえない何かで……」
井上凜は何となくツリーセの心配ごとがわかった。
「あるにはあるんですが……ずっと変な感じがしなかったでしょう?」と井上凜は少し考えてから言った。
「並行して会話する可能性は?」
「もし私たちに何か不利なことを企んでいたのなら、あの時はすでに実行したはず……私たちに離れさせるやり方はちょっと回りくどい。」
「でも、僕たちは離れさせられました。その……何というか……ちょっと説明しにくいけど……僕たちに傷つけるためじゃなくて、何かがしたいに違いない……と思います。」
井上凜はやっとツリーセが言いたかったことがわかった。
「……つまり、ツリーセさんはランディたちが私たちから離れようと言いたいんですね?」
ツリーセは頷いた。
確かにランディたちができなくはない……いいえ、やる可能性はとても高い。
井上凜は色々考えてから、「……あそこに戻りましょう。」と言った。
しかし、井上桃花はここで「待って、兄さん。」と言った。
「動物を見つけてから戻った方がいい。だって、それはただの可能性だろう?何も持たなくて直接帰るのも信用がなくなるし……逆に警戒されるかもしれない!」
確かにランディたちが離れてなかったら、信用の問題につながる……
「だが、この森で動物を見つけるのは難しいとフロンさんも言った。それに、見つからなかったらずっと帰れないというわけじゃない。“見つからなかった”と言えば、わかってくれるだろう。」
「ランディさんたちに嘘をつくの?それはあまり良くないじゃない?」
「問題があれば、私に任せる。」
「……そう言って、またツリーセちゃんに任せるつもりじゃないの?」と井上桃花は言った時、視線が横に向いた。
井上凜は一瞬イラッとしたが、井上桃花の動きでもっと別の感情が浮かんだ。
「……何でそんなことを言った?」
「何でって……だって父さんと母さんのことは結局ツリーセちゃんが――」と井上桃花は言いかけた途端、井上凜の声に遮られた。
「違う!」
何となく二人が一触即発な雰囲気に、ツリーセとフロン二人とも「あの、喧嘩は良くないよ……」と弱々しい声で言ったが、ただ井上凜の言葉と動きは全くそうではなかった。
井上凜はただ井上桃花の視線を自分に向けてくるように、彼女の頭を自分のほうに回った。
「何でわざと私を怒らせた?」
「そ、そんなの……」井上桃花は頭が回されても、視線が井上凜に正視していない。
「嘘ついたね。」
少しの沈黙。
「桃ちゃん……本当は何かを思いついたね?」井上凜がゆっくりと緩やかな言い方、真摯な気持ちを込めた言葉はまるで井上桃花の決意を砕けた。
井上桃花はさっきまで横に向いた視線は今度落ち込んでいたように下に向いた。
「……たぶん、もう離れたと思う。」
「そう思う原因は?」
「……私のスキル。あれはテレパシーだよ。」と井上桃花が言った。
井上桃花は自分が見えたことを言い出した。
井上桃花のキャラクター――モモナーのスキルは『隠匿』と『瞬発力』だ。
実は、ランディが大声で言った時、井上桃花の前にメッセージが現れた。
井上桃花のメッセージ:
「『テレパシーの感覚』判定に難易度がある。テレパシーの捜索の難易度:≧8。
『隠匿』スキルを使用しますしょう!出目の結果に+2の修正値がかかる。
1:ファンブル。
10:クリティカル。」
結果:6(+2)=8 成功
ランディが伝えた言葉は、井上桃花にはメッセージで見えた。
“ここを離れるんだ。もうこの人たちに関わるな”
「実は……あの変な空いた間、メッセージも出てきた。でも……失敗しちゃった。難易度が8で、結果が6だった。大した情報が得られなかった。だから、離れるんだったら、別にいいじゃんと……思ったのだ。」
井上凜とツリーセは静かに聞いている。フロンは「テレパシー……これはごく僅かな吸血鬼しか……」とボソボソと言っている。
「ごめんなさい……言うべきだと思うけど……やはり家族に危険な目にあわせたくないから……」
井上凜は鼻から長い息を吐いた。「わかっているよ。君はずっと家族のことを大事にしているからわかっている。だから君を責めたりはしない。でも――」
井上凜は井上桃花にデコピンをした。パっとさわやかな音が響いた。
「うっ!」
「これくらいにしておく。」
「責めないと言ったのに……」
井上凜はしょうがない様子で軽いため息をついた。そして、「とりあえず、戻ろうか。ランディさんたちは離れたら、父さんと母さんのところに誰もいないだろう。」と言った。
あ、そっか……
あまり危険がないとはいえ、気絶した二人を置いたのは普通に危険なことだ。井上桃花は井上凜が自分にデコピンした理由がわかった。
「僕は残るべきだったでしょうか……」
「いいや。本当に離れる決意があるだったら、恐らく強引な手段でも君に気絶させることもありえるから……何とも言えないと思います。」
もしかして、自分たちも……と井上凜が考えた。
迷惑をかけないために、逆に強引な手段で相手に安全な場所に置く――いろんな漫画でもよくあることだ。
「そうですか……」
案外、これはお互いにとって一番いいことかもしれない。と井上凜が思った。
きっとシナリオのことを考えて、早く元の世界に帰れるという考えをしてしまった自分への罰だっただろう……
こうして、三人が戻ることにしたのだ。
三人が元の場所に戻ると、本当に気絶した両親しかいなかった。




