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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
三人のシナリオ
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37

 サンディの阻止する声が響くと、ツリーセとリンディ両方の動きが止まった。


 二人とも疲弊した顔色だったが、お互い相手の要所に止まった態勢と若干嬉しそうに両方に吊り上げている口角からして、本人たちにとってまったく疲れる感じがしなかった。あるのは勝負心だけだった。


 お互い動きが止まった瞬間、二人の視線がサンディの方へ送っている。


その視線の意味がわかるサンディは続いて勝負の結果を言い出した。


 「ツリーセくんの勝ち。」


 「よし!」


 「チッ!」


 ツリーセとリンディは真逆な反応をしていたが、勝負の結果に不満がなかった。二人も素直に手を引くと、井上凜は素直に引き下がったリンディに驚いた。


 最後の態勢から見ると、井上凜はてっきり「引き分けだろう!」とリンディが少し食い下がると思った。


だが会話のことに集中して、戦闘の過程に気を使っていなかったため、きっと最後の部分だけでは判断できないだろうと井上凜はあえて聞かないようにした。


 逆に、井上桃花は井上凜が思ったことを口に出した。


 「引き分けじゃないの?」井上桃花は純粋で好奇心な目でサンディを見ている。


 「あ、えっと……」サンディは井上凜と井上桃花二人がずっと戦闘を見ていなかったとわかっているため、どう説明すればいいか迷っている。


 「……お前、見てないのか?」とリンディはサンディのところに近づきながら言った。ツリーセも井上桃花の付近に寄った。


 「うん。見てません!興味がないもん!」とリンディの問題に素直に答えた井上桃花。


 ここまで素直に答えられると、リンディでもただため息をつくしかない。


 桃ちゃんはこういうところが強い……と井上凜が少し羨ましい思いを込めてこう思っている。


 しかし、リンディは説明する気がないようで、代わりにランディが説明した。


 「まあ、簡単に言うと、後の戦略の差だ。」


 「後の戦略の差?」


「あの態勢だけを見ると、確かに引き分けにも見えるが……あれはリンディが無理に態勢を持ち直して、やっとのことだ。その続いての行動はもはやただの撃退や虚勢を張るだけ。つまり、有効な手がなくなった。できる行動の選択の余地がない;


「逆に、ツリーセはリンディの態勢を崩して、あの状況に引き起こしたのだ。後の戦略の幅がリンディの比じゃないし、さっきの状況は一番有効な手を打っていた。つまり、あそこはお互いにとって決め手の分水嶺となり、勝負の結果に繋がったっていうわけ。」


 「なるほど。つまり、ツリーセちゃんはリンディくんを追い詰めたということだね?」と井上桃花は少し頭を傾げて、ツリーセの方へ見た。


 「う、うん!」と井上桃花に見られると、少しギュッとしたツリーセである。


 『おい!』事情がわかっても、やはり少し気持ち悪い感覚がする井上星。


 「だ、だって……」


 そして、すぐ「偉いね!」と井上桃花に褒められると……


 やはりギュッ!


 『だ・か・ら!』


 「仕方ないじゃん!」


 ツリーセにとって、井上桃花の存在――あるいはキャラクターの存在――は心を躍らせる存在だ。「恋人」の設定通りに。


 『姉ちゃんはこういうヤツだよ!とりあえず、調子に乗らせるな!』


 「わ、わかった……」と独り言を言っているツリーセが変な人に見えるが、ランディたちは特に気にしていなかった。


独り言や自己暗示で自分を励まそうとしている人も時々見えるから、ツリーセもそういう類の人だと思っている。


特にリンディにとって、そういう独り言は一つの象徴になる。自分の過去にも連想させる。


そのため、リンディは眉をしかめながら、ツリーセに言った。


 「俺に勝ったんだろう!何でまだブツブツと言っている!もっと自信を持って!戦ってる時の勢いはどこに行った!」


 「え?いや、僕は――」とツリーセは説明するつもりだったが、井上桃花と井上凜にちらと見て、無理に説明する必要がないと判断した。言いかけた言葉を次のように変えた。


「……そうだね。自信が持てるように頑張るよ。」ツリーセは言いながら、苦笑いをした。


 リンディは「ふん」と鼻から息を吐いた。分かればいいという感じだった。


 「それで、お前たちは動物を探してくれるだろう?」とランディは話の本題に戻した。


 「あ、そうですね。ちょうどいい。ツリーセ。一緒に動物を探してくれる?」


 「いいけど。動物を探してどうするつもり?」


 「あの気絶した二体の吸血鬼に血をあげる用だ。聞いていなかった?」と井上凜は言いながら、少し自分の耳に指していた。この動きと質問はツリーセに言っているわけではない。


 『あ!そうだ――』と、ツリーセは戦っても兄と姉の言い争いが耳に入っていた。フロンの声も聞こえる井上星は何の難もなくツリーセに説明した。


 少し妙な静かな間だったが、ツリーセはすぐに返事した。「……なるほど。手伝うよ!」


 「なら良かった。ツリーセちゃんがいれば百人力だもんね!」と井上桃花が言った。


 「そ、そんなわけないじゃん。大袈裟だよ。それと、ちゃ、『ちゃん』はやめてください!」とツリーセが吃音でありながら、精一杯の反駁をした。


 『そう、そう!こういう調子!』


 「……ほう?」と井上桃花が続いての行動――気軽に抱きついた行動――ツリーセに硬直させた。


突然な行動にツリーセは避けることができるはずがなく、顔は火山が噴火したかのように真っ赤っ赤である。もはや照れる域を超えている。口がパクパクと開閉しているが、何の声も出せなくなっている。


 「謙虚だね!ツリーセ・ちゃん!」


 ……ダメだな、これは。と井上星は全身がカチカチとなった硬直な感覚でやっとわかった。ツリーセには自分の姉に対応するのは無理だと。


 それに、姉ちゃんが絶対わざとやっただろう……と井上星は半ば強引に「恋人」の設定を押し付けてきた自分の姉を見た。


 たしか「モモナー」も「恋人」の設定がある……もし姉ちゃんもロールプレイング状態にしたら――とこれ以上あまり想像したくない井上星である。


 ただのキャラクターでも、姉みたいなキャラクターとイチャイチャするのはやはりどこかに変な感じがする井上星だった。


 「……もういいだろう?」とランディは井上桃花とツリーセに言っている。口調は若干呆れている。


 「ああ、ごめん、ごめん!」と井上桃花はとても元気な顔で謝っていた。まるで何かのエネルギーが補充されていたように。ツリーセは完全にその逆である。


 「では、どこを探せばいいでしょうか?」


 「まず水を探そう。動物には水が必要だ。この森ではたしか湖がある。」


 湖……と井上桃花は早速ある所を思いついた。


 「湖ならわかりますよ!印もつけておいたから、簡単に行けると思います。」


 「なら、俺たちはここに残ろう。」とランディが話を言い出した途端、リンディも言った。


 「俺も一緒に――」「ダメだ!」


 ランディはビックリするくらい大きな声で言った。リンディは口を噤んだ。


「お前も残れ。動物を捕むくらいなら、この人たちもできるはずだ。」


 リンディは何も喋らなかった。


 「お前たちに任せた。これでいい?」


 「う、うん。任せてください。」と井上凜が返事した。


 そして、ランディは少しぎこちない笑顔にして、細い声で「ありがとう」と言った。


 あ、初めて礼を言った?と井上凜は少し耳を疑っていたが、井上桃花は確信するように「動物を見つけてから言ったほういいよ」と返事した。


 「……そうだな。」とランディが言った。


 そして、ランディはもう一度三人の傷と怪我を治して、「だいぶ治ったな」と言った。三人が身体を動かしながら、「ありがとう」と礼を言った。


 微妙な雰囲気でありながら、両方もお互いの関係が少し築いたと感じた。


また、特に準備することはなく、三人はすぐ出発するつもりだ。蔓も全部二体の吸血鬼に縛っているため、持つ必要がなくなった。


ランディはリンディとサンディと一緒に三人を見送った。


 「では、私の後について、出発!進行方向はこちらでーす!」と井上桃花は先頭に立って、印をつけた方向へ行った。


井上桃花→井上凜→ツリーセの感じで三人が出発した。


最後尾にいるツリーセは吸血鬼たちとちょっと離れたところに行った後、少し気になって振り向いた。


 だが、離れた距離はすでに木々に覆われていて、人影が見えなくなっていた。


 『どうした?』


 「……わからない。ちょっと気になるところがあるというか。」


 『変なところがあるのか?』


 「うん。でも、思い出せない……」とツリーセは大事なことを思い出そうとしている。


 「ツリーセ!遅れていたよ!」と井上凜が少し遠いところに叫んでいる。


 『うーん……僕も考えてあげるから、まず行こうか?もしはぐれてしまったら良くないし。』


 「うん。ごめんね。」とツリーセは小走りの感じで二人に追いついた。


 『大丈夫だよ。謝る必要がない。』


 でも……気になるところって、何なんだろう。


 そして、井上星が思い出した時、すでに道の半分以上に歩いていた。


口口


 「どうだ?」


 パサッと、サンディは空から降りた。あの三人が離れた後、ランディはすぐサンディに一つの指示をした。それは空中で三人の偵察だった。


 「離れました。」


 「……はあ。あの人たちはどれだけ俺たちのことを信じたのか。」馬鹿馬鹿しい……とランディは緑色に光っている目が少し悲しい色に帯びている。


 今、この三体の吸血鬼は口で喋っていない。魔法の意念でコミュニケーションをとっている。いわゆる、「テレパシー」だ。これは吸血鬼の一つの魔法の概念である。


 実際、三人が初めてサンディとリンディに会話する時、リンディはハッとなる時があった。それは二人がテレパシーで話したのだ。


 “「何で返すんだよ!」”


 “「どう返してもいいだろう?そう、例えば死体で。」”


 “「……なるほど。」”


 そして、最後ランディは大きな声で言った時――「お前も残れ。動物を捕むくらいなら、この人たちもできるはずだ。」――“「ここを離れるんだ。もうこの人たちに関わるな」”と言ったのだった。


 この魔法の概念は稀なものであるため、魔法について常識範囲しか知らないツリーセにはわからない。フロンにも吸血鬼たちの話が聞こえないため、この特例を思いつくには難しい。


特に井上凜にとって、これはただの臆測の域にすぎないため、断定できない。


一人だけ、ちょっと感じたかもしれないが……あの子は言わなかった。言う義務もない。


 「何でだよ……」とリンディは少し不満な感じで言った。


 「この人たちは、良い家族だろう?」


 「それは……」とリンディは反駁できなかった。


 「こんな幸せな家族に、悪い目にあわせるのが趣味じゃない。」


 「ふん。」


 サンディは軽くリンディの肩を叩いた。慰めている。


 「とりあえず、この人たちから離れよう。俺の独断だ。意見は?」とランディは言いつつ、一つの結界を井上智澄と井上佳月の付近に張った。手をかざして、リンディしか見えない透明な膜が二人の身体に覆った。


 「……わかった。」


 「縛っているから、いい感じに運べるな。」とランディは苦笑いをしながら、一体の吸血鬼を担いた。もう一体がサンディに担いでいる。


 「行こう。」


 こうして、三体の吸血鬼は自分の仲間たちを連れて、ここから離れた。

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