31
大きな「悪意」……
聞かなくても井上凜はわかる。「吸血鬼狩り」に関することはきっと手を焼くほどだけじゃない。
もしかすると、「社会現象」のような問題かもしれない。
「凜様……」
「はい。」
「吸血鬼狩りのことは、今は深く関わらない方がいいと思います。今のあなたたちには解決できませんし、早く元の世界に帰りたいとすれば、時間的にも問題があります。なので……」
「わかっています。ただ聞きたいだけ聞いていました。」
「ならいいですが……」とフロンは少し気になっている。続いてこう言った。
「凜様はランディという吸血鬼を助けたいのですか?」
「うーん、助けたいという気持ちはありますが……」と井上凜は少し考えるにしてから言った。
「どんな事情なのかわからないので、迂闊に手を出すのもちょっと不安です。」
「では、ゆっくり事情を理解しつつ、他のことに頑張る方針で行きましょう。」
「はい。そのつもりです。」
フロンと交流し終えた後、井上凜は気絶している吸血鬼を見つけた。吸血鬼が縛られていて、特に誰かに動かされた痕跡がなかった。起きる気配もなかった。
「よいしょっ!」と井上凜は声を出しつつ、吸血鬼を運んでいた。
あまり距離が離れていなかったため、井上凜は無事に全員のところに帰った。
「ただいま。」
井上凜が帰った時、井上桃花は兄がどんな会話をしていたか気になっている。フロンの声が聞こえるから。井上星もバッチリ聞こえたが、行動に移すのはツリーセに任せるしかない。
「おかえり。」とツリーセと井上桃花が言った。
ランディは吸血鬼の身体を検査している。井上凜が帰ってくるのを一瞥して、わざとらしく言っている。
「軽微の打撲傷以外、ほぼ外傷なし……どうだ?リンディ。まだ不服か?」
井上凜はわけがわからなく、「どうした?」という感じで、井上桃花に見ている。
井上桃花は視線を感じた後、簡単に説明した。どうやら井上凜が離れた後、リンディは「こいつらは僕たちの弱点を知っている」と、もう一度吸血鬼狩りの可能性を訴えていた。
ランディは「では、アイツらのやり方とこの人たちのやり方、見比べてみよう」と庇っていた。そして、現在に至る。
「庇ってない。お前たちが言った事実を確認しているだけ。」と井上桃花の話が聞こえたランディである。
『……ツンデレか?あ、これ言わなくていいよ。』と井上星は思わず突っ込んでしまった。
「ツンデレだね。」と話が半分しか聞けてないツリーセだった。
「あ?」と疑問しか感じないランディと、『おい!』と呆れていた井上星だった。
「あ……気にしないでください。」何となく状況が想像できる井上凜が言った。
「そうか。」
「ほら、変な言葉も言っていたし!きっとこいつらしかわからない暗号だよ!」と指摘しているリンディだった。
ツンデレで?と内心がかなり困惑している井上凜だが、言葉の意味がわからないと、色々な妄想が激しくなるのはわかった。
「はあ……」とランディ溜息をついて、サンディの方に聞いた。
「サンディ。これくらい見たら君も何となく感じているだろう。」
「ええ。確かにこれは気付いてなかったです。誤解しちゃっていました。」
ランディは頷いて、もう一度リンディの方へ。
「お前はそんなにこの人たちを吸血鬼狩りとして扱いたいのか?」
「扱いたいじゃない。そういうことだと言っている!」
ランディはまた溜息をついた。まるで話が通じ合えないと、身を翻し、井上凜たちに話しかけた。
「申し訳ない。」
「あ、いいえ……」――大丈夫ですと一瞬習慣で否定したがっている井上凜だが、途中で言い直した。
「そちらにも事情があると思いますし……自分も怪しいと感じられます。」
「そうか……では、一つ頼みたいことがある。」
「何でしょうか?」
「こいつの暴論に一回付き合ってください。」
「それは……」弱いほうが悪いと、井上凜はあの理屈を思い出す。
「こいつがこういう時、いくら話しても聞かない。話が通じないんだ。だから、こちらの事情を話す前に、こいつに冷静させたい。」
「でも、こちらも暴力のことなんて望ましくないんですが……」なるべく穏便に済ませたい井上凜。
「わかっている。だから、あの子でいい。」とランディはツリーセに指を指して言った。
「あの子はそういう性質があるだろう?」
「そういう性質って……」
「戦闘の意欲だ。隠しているが、戦いたいだろう?」
4と2、もしキャラクターの点数の振り方で言ったら、ツリーセの戦闘の意欲が高いと言っても過言ではない。だが、それは一つの解釈に過ぎない。
TRPGにおいて、説明文を含めて、一つ一つの言葉は色々な解釈がある。当然、その解釈は卓によって変わる。
そして、井上凜はこの解釈があまり好きではない。少なくとも、一つのステータスにただの意志の強さを表明しているだけだったら、戦う能力は何だったのかと聞きたい。
だが、こう思った一番重要な理由は、ルールの説明を聞いた時、ルールブックに載っている説明があった――「キャラクターのステータスの数値は綜合能力の表す。あらゆる要素も考えなければならない。」
例えば:戦闘は「戦術」、「メンタル」、「知識」、「技」などなど、他のステータスと関わり合っていて、一つの数値に表すものだった。
つまり、ステータスの範疇が広くて、一つの意味に囚われないのが大事だ。
井上凜は「戦闘」を戦闘の意欲だけに囚われたくない。
「ですが、話ができるのに、戦うなんて――」
「――僕は構わないよ。リンさん。」とツリーセは井上凜の話に口を挟んだ。
「ちょうど誤解されていることに不満を感じているし……」ツリーセは嘘をついていない。井上星もツリーセの不満を感じている。
「そうなの?」
「うん。だからやらせてほしい。」
ツリーセは大人しい性格だったが、感情がないわけではない。キャラクターでも一人の人間として不満が感じられる。
まあ、「今の僕」はあくまで「偶然」にすぎない「もの」だったが……とツリーセのこの考えは誰も気付かれていない。井上星も気付けられない。あくまでツリーセが少し落ち込んだ感情を感じただけだった。
「でも、やはり――」
「これは僕にできることだ。僕は役に立ちたい。」
「君はもうかなり役に立ったけど……」
「もっと役に立ちたいの。」この有限な時間内に……
「……わかった。」決意が固い表情をしているツリーセに、井上凜が折れた。
「いいの?」と井上桃花が兄の近くに近づいて言った。
「良くないけど、やらせるしかない。それに……ちょっと前に星くんも似たようなことをした。」
「もしかして、遺跡の時?」
「うん。」
「まったく……困った弟君だね。」井上桃花が困った笑顔になって言った。
「そうだね。」井上凜も困った笑顔になった。
ランディは三人の交流を見ながら、リンディに話しかけた。この三人の交流を見て、リンディが少しでも考え方を変えると期待していたが、全く変わらなかった。
「弱いほうが悪い。これは君の持論だな。」
「そうだ。」
「アイツらの暴論だって言ったはずだが……どうしても変えないのか?」
「アイツらの言葉でそのままぶっつぶ返せれば、そのほうが教訓が受けれるだろう!」
やられたらやり返すみたいな言い方に、ランディはため息をつくしかない。
「では、お前はそんなに自信があるということだろう。あの子と戦って、勝ってればそのままでいい。だが、負けたら認めろ。だって、『弱いほうが悪い』からな。」
「ふん。あんなチビに負けない。」
「……わかった。準備できたらお前のその状態を解除する。いい?」
「いつでもいい!」
「ツリーセは?」
「大丈夫です。」
「あ、その……父さんと母さんは……」戦いが始まると思って、井上凜が言った。
ランディは井上凜と井上桃花を見て、こちらに来いというように手を招いている。
「守るから、こっちに来い。ついでに――」二人が近くに来たら、ランディは井上桃花のひどい傷口を治した。
傷が治したところを直接に見て、井上桃花は口がパクパクと何も言えずに、驚いた様子で井上凜の肩を叩いた。
井上凜は何も言わず、ただその驚いた様子に「そうだよ」と肯定しているように頷いた。
「魔法……」
「お前も『田舎者』か?」
「いや……まあ、そうですね。」
「こちらはずっと魔法がないような環境で生きていたので。」と井上凜が言った。
「へえ……そんな環境があるんだね。」疑っているが、あまり深入りをしないランディである。
「あ、傷を治してくれてありがとう。」と井上桃花は驚いて忘れるところだった。
ランディは適当に手を振って、「別に」というように二人に背を向けた。
「とりあえず、ここにいれば大丈夫だ。」とランディは一瞬両手を前にかざして、妙な動きをしてこう言った。
今、ランディとサンディ、井上凜と井上桃花四人が近くにいる。景色は特に変化がないが、何かの雰囲気が変わったと井上凜と井上桃花二人は感じた。
「もしかして、ランディさんって、とても強いですか?」と井上桃花が気になってそう言った。
「……それは強さの意味によるかな。」とランディがそう淡々と返した。
「どうでもいい。早く解除して!」とリンディが焦った感じでこう言った。
「……はあ。じゃあ、ツリーセ、準備は?」
「はい。いつでも。」
今度ツリーセの言葉が言い終えたとともに、リンディが動きだした。




