29
両親の傷が治り、様子が落ち着いた。二人が気絶のままだが、失血死の可能性がなくなった。
井上凜は少しホッとしたが、まだ安心できない。二体の吸血鬼は変な行動をとっていないかと確認しつつ、考えをまとめている。
たしか水色の方はリンディと言った。リンディは青色の言うことに従うらしい。恐らく上下関係があるかもしれない。
そして、薄々気付いたが、二人は「ランディ」と関わっている。きっと気絶させた吸血鬼とあの地面に倒れている吸血鬼も、全員遺跡を離れた吸血鬼たちだろう。
また、二人の反応からするには、二人にとってランディは大切な人、あるいは尊敬している人といったところだろう……
ちょっと誤解されちゃったが、どんな形でも、ツリーセのおかけで、父さんと母さんが助かった……かな?
井上凜は考えをまとめたところに、二体の吸血鬼も傷を治して終わったところだった。
井上智澄と井上佳月二人の傷を完治できないが、かなり心労をかけたであろう。二体の吸血鬼は少し疲弊した顔になっている。そして、青色の吸血鬼は井上凜とツリーセに話した。
「約束通り……治しました。恐らく命の危険はもうありません。だが、これが私たちの限界です。これ以上は……」
井上凜は両親の状態を確認して、二人の様子は異常がない。吸血鬼の言う通りに問題ないと確信した。
「……ありがとう。」と井上凜は普通に礼を言った。
青色の吸血鬼は少し礼を言われたことに戸惑っていたが、あまり気にせずランディのことを聞いた。
「そ、それで……ランディはどこにいますか?返してほしいですが……」
井上凜は少し迷っていて、「正直に言う?」というような感じでツリーセに視線を送った。
ツリーセはどちらの手のひらも上に向けて、「どうぞ」というような感じで軽く両手を上げた。
了承を得た井上凜は素直に言った。
「実はですが……ランディさんは『仲間と合流する』って言いましたよ。恐らくあなたたちのことだと思います。」
「……え?」と普通に疑問の声を出した青色の吸血鬼である。
井上凜は突然口調が変わったのは一つの疑問だが、青色の吸血鬼にとって一番戸惑っているのは話の内容だった。
「それは、どういう……」
「あの……勘違いしちゃっているけど、私たちは本当に吸血鬼狩りなんかじゃありません。」
青色の吸血鬼だけではなく、水色の吸血鬼リンディも戸惑っている様子だった。
「で、でもさっき居場所が……」
「あなたたちはどんな目に遭ったのかわかりませんが、せめて人の話くらい聞いてください。」と井上凜は嫌な感じがしてそう言った。二体の吸血鬼は静かになった。
「元々私たちはあなたたちを狙ってここに来たというわけではありません。信じられない理由によってここにいました。」
「じゃあ……その信じられない理由って何ですか?言わないと――」
「ただTRPGを楽しむつもりだけだったのに、わけがわからなくてここにいました。これで信じます?」と井上凜はやけくそになって、真実を言った。
「てぃー……ある……?」二体の吸血鬼は何もわからない顔をしていた。
「ゲームを楽しむためだけに参加したところに、実は詐欺みたいな手口で人を異世界に送るところなんて、こんなこと信じます?」
「う……」フロンは会話の全容がわからないが、井上凜の話が自分を責めているのがわかっている。フロンの反応が聞こえて、井上凜は少し自分が言い過ぎたと感じた。
そして、二体の吸血鬼は何も言わなくなった。話が理解の範疇を超えて、何も言えなくなったのだ。だが、井上凜は少し自暴自棄になっていることが何となく感じていた。
「とりあえず、私は家族にこんな目に合わせたくないんです……」と井上凜は悲しい顔になった。
吸血鬼は何もわからないが、井上桃花とツリーセ(井上星)はハッとなった。
あ……兄ちゃん(さん)は責任を感じている。
井上凜は兄妹の長男である。両親がいない時、親代わりの場面がよくあるものだった。彼はしっかり者で頼りになる兄だ。二人にとって井上凜は完璧な人間ではないが、立派な一人の兄である。
だから、井上桃花は優しい声で言った。
「兄さん。私と父さんと母さんは兄さんを責めたりしないよ。きっと弟君も責めていない。あまり自分で背負いすぎないでね。」彼女は言いながら、井上凜を軽くハグした。
「桃ちゃん……」
井上星も言いたかったが、ツリーセにしか伝わらなかった。
「星もそう言いましたよ。」とツリーセが代わりにそう伝えた。
「……ありがとう。」と井上凜は少し微妙な微笑みをした。
「と……とにかく、意味がわからないけど、わかりました。」と青色の吸血鬼はやっと話の意味を消化して、口に出すことができた。
「じゃあ、居場所がわかるというのは……?」と水色の吸血鬼も雰囲気を察知し、悪い口調を抑えていた。
「偶然だけど、僕とリンさんもあの遺跡にいました。」
遺跡……吸血鬼だけではない。井上桃花も心当たりがある。井上凜と井上星が一緒に探索しに行くという話がわかっているから、簡単に推測できる。
「居場所がわかってる風に言ってたけど……それは別にランディさんが僕たちに捕まったという意味ではありません。普通にそのままの意味です。」
つまり、ランディという人もきっと遺跡に出会った人物だろう……と井上桃花が考えている。
「なんか……ごめんなさい。私たちはバカみたいに……」と青色の吸血鬼は申し訳ない顔で言った。青色の吸血鬼に謝られて、井上凜と井上桃花も何とも言えない気持ちだった。
「本当だな……結局ただ無駄な労力を使っちゃって――」と水色の吸血鬼リンディが話の途中で、青色の吸血鬼に止められた。
「リンディ!」
「なんだよ!吸血鬼狩りじゃないなら、別に傷を治す必要がないだろう。」
この話を聞いて、井上凜、井上桃花、また井上星も怒る感情が湧いてきた。だが話を挟むことができなかった。青色の吸血鬼は続けてこう言ったのだ。
「違う。私たちが凶暴化になって傷つけたのだから、そういう責任があるだろう。」吸血鬼は凶暴化になって理性が失っても、記憶がある。
青色の吸血鬼は少し責任を取る姿勢があった。
「そんなの傷つけられたほうが悪い!アイツらも言ってたし……弱いほうが悪いんだよ!」とリンディは真逆だった。
「それは暴論だってランディも言っただろう!アイツらの理屈にのるな!」
「知るか!なんなら俺がこいつらをもう一度傷つけ――」と水色の吸血鬼が突然爪を伸ばし、井上智澄と井上佳月に振るつもりだった。
嘘だろう――
まさか吸血鬼たちの話が突然激化し、誰も阻止できなかった。三人はずっと警戒していたが、両方の距離があったため、どんな行動を取っても間に合わない。三人は両親を守ることができなかった。
また、水色の吸血鬼が突然攻撃の行動を取ったため、不意に突かれた青色の吸血鬼は当然意識できず、阻止できなかった。
水色の吸血鬼は爪が一人の首筋に間一髪の距離に近づいたところに、一つ中性的な声が大きく響いていた。
『止めろ!リンディ!』
その声の声量か、あるいは声の主に危惧しているのか、爪が首筋に掠ったところで強引に留まった。一滴の血がぼたと皮膚から突き破って流れていた。
水色の吸血鬼以外の人はちゃんと動けて、ずっと左右上下前後の感じで声の主を探している。
そして、井上凜は一つ空中で飛んでいる姿を見つけた。
声の主はランディだ。




