井上凜(2)
パクっと、井上星はアイスを口に入れてこう言った。
「ん?どうひだほう?ひいはあ。(どうしたの?にいさん)」
「星ー食べ物を呑んでから言え。」
「ふひませーん……(ごく)それで、兄ちゃんは何が言いたいの?」
「あれだ。前は君たちにキャラクターシート送ってもらってるのを覚えてる?」
「ああ、TRPGのやつね。」ボードゲームも一段落したため、井上桃花はアイスを持ったまま、テレビをつけて、ソファに座る。
その挙動を見て、他の三人も気が合うように同時に動き出して、もう一つのソファーや自分で椅子を運んで、井上桃花の近くに集めた。
アイスを食べながら、「それがどうした?もしかして、僕が書き忘れー」と井上星が言った。
「あ、いや。ただ申請したよという報告をしたかっただけ。心配しなくていいよ。書き忘れた部分もないから。」
「そっか……」
井上星がまた何か言いたげな表情に、井上桃花は「ははっ、星くんは心配性だな。別に心配しなくてもいいのに。TRPGを楽しむための活動でしょう?」と話しかけた。
「それはそうだけど、やはりちょっと心配するじゃん?」
「なんで?」
「だって、家から出た時と同じだろう?鍵のチェックは何度しても、遠くに離れたら、やはり本当にかけたかどうか疑うじゃん。」
「うん?星くんはそういう人なの?」と少し疑問に思った井上凜だが、次に井上星からもらった返事に呆れている。
「……だってそれ、かぎ忘れちゃったという意味じゃん!」と、井上星は「てへぺろ」というような得意げな表情で、「我ながらいいジョークを炸裂したな」と、居間の場をしーんとさせた。
“続いてー長野県の天気予報ー“
天気予報のテレビ声だけが5秒間、静かに続いている。
短いようで長い沈黙が続いていて、率先して場の雰囲気を壊したのは井上凜だが……
「……桃ちゃんよ。さっきのボードゲームでは、ルール上同盟が組めないけど、今私と同盟組んでみならない?」
「いや同盟どころか、たぶんわたしは兄さんと同じ気持ちだわ。」
「ならいい。私は左、君は右。いいんだね?」
「ああ。」
この時、兄妹二人の臨時戦線が立っていた。
「ちょっと……何をするつもり?」
近づくなよ!と少しずつ近づいてきた二人に、井上星は怯えている表情で後ずさる。
自分の言うことにわかっているからこそ、沈黙の間に、井上星はすでにソファーからこっそり立ち上がって、逃げようとした。だが……
「ち、近づくなよ!」と、だんだん迫ってきた二人に、逃げるという念頭は二人が行動し始めた瞬間、何もかもが消えてしまった。
無理もない。なぜなら、逃走経路の先には、すでに井上若実が塞いたのだ。
「若実?!何でだ!」
井上星に何の答えももらえず――いいえ、正確には、「無」という表情がもらえた。
虚無。ただの虚無。一言に尽きる。
だが、次第にその「無」という表情が少し哀れな感じに変えて、また「同情」にも見えるようになった。
「にーに……」この一言に込められた感情は、まさに一つだけの意味をしている。
“ちゃんとじぶんへの業を背負ってね”と。
「う、嘘だろう!」この言葉を発した瞬間、井上星は壁に二人の影が自分に迫っていたことに気づく。
「あ、ああ……」
やめて……
やめて――
くすぐってくるのをやめてえええぇ――
この日の井上一家は、まだ平和である。




