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「……なぜここであの子の名前を?」と青色の吸血鬼が言った。
「……見ていないと思ったが、まさかお前たちに――」と水色の吸血鬼が言った。
二体の吸血鬼は動揺したことが隠す素振りを一切みせなかった。ただただ警戒の顔色が強かった。
水色の吸血鬼が話の途中で、ツリーセに中断された。
「何でだろうね?リンさん。」
ツリーセは含みのある言い方で井上凜に話を振った。
「何で僕たちはランディの名前を知っているだろう?」
ツリーセがこの話を言い終わった途端、井上凜の前に判定のメッセージが出てきた。
井上凜:
「『吸血鬼たちとの交流』の判定に難易度があります。吸血鬼たちとの交流の難易度:≧6.
『交渉法』スキルを使用することによって、出目の結果が+2の修正値がかかる。
1:ファンブル。
10:クリティカル。」
だんだんわかってきたな……判定が出てくる仕組みが。井上凜は少し判定の仕組みが掴んできた。
判定が出るタイミングは二つ:自ら申請する時と、大事な場面で出てくる時。
TRPGでは、後者のタイミングが一番多かった。なぜなら、元々「判定」という行動はGMしか判断できないものだった。
この行為に判定が必要なのか、事件の難易度はどんな感じなのか……全部の情報を知ったうえで、プレイヤーはGMに任せるしかない。つまり、プレイヤー自身が判定を申請するのはGMに対しての越権行為である。
しかし、TRPGは一つのゲームであり、「交流」のゲームである。
プレイヤーの自主性を重んじるGMは少なくない。むしろ、現在の主流である。プレイヤー自身が判定を申請することはもはや越権行為より、ゲームへの積極性と見なされる。
GMはしっかりゲームの情報を処理した上で、なるべく各プレイヤーに平等な「スポットライト」のチャンスを与えければいけない。
だから、「判定」はプレイヤーにとって一つのスポットライトだ。自分に焦点を当たる表現の機会だった。
そのため、プレイヤー自ら申請する判定が一つのスポットライトである。
同じく、大事な場面で出てくる判定もスポットライトになる。
スーハー……井上凜は一回深呼吸した。
私はもう判定しないぞ……と井上凜は判定のメッセージを無視した。
井上凜はわかっている。フロンも言っていた。
「ここはTRPGも混同している世界だと思ったほうがいい」と……この話の意味は色んな考え方ができる。
井上凜にはこう考えたのだ。
TRPGでもTRPGじゃなくても、判定しなくてもできることがいっぱいあるものだと。
ましてや「交流」!
ツリーセが自分に話を振った後、井上凜はすぐ判定のメッセージを無視してこう答えた。
「そうだね。なぜ知ってたというと……居場所がわかったからでしょう。」
ツリーセはまるで自分の気持ちが伝わったみたいに笑顔になった。井上凜とツリーセ二人が心を通じ合っていた。
ランディの名前を出した後、動揺を隠す気がない吸血鬼たちはこの話の意味が簡単にわかってしまった。あるいは……考えすぎてしまった。
さあ……わざと曖昧な言い方をしていたが、これは火に油なのか、それとも……
井上桃花は何の話をしているかわからなかったが、井上凜がわざと誤解されているような言い方をしていたとわかっていた。だから彼女は何も話さなかった。
「てめえ……」と水色の吸血鬼が悔しい顔で言った。青色の吸血鬼はかなり緊張した顔になって、何も言えなかった。
さっきの会話で井上凜はもうわかったが、青色の吸血鬼はまだ会話の余地がある。
だから、井上凜は青色の吸血鬼を狙って、水色の吸血鬼に怒っている感じでこう言った。
「その態度はいいのか?」
「ぐ……!」
「ランディのこと、知りたくなかったのか?」
この怒っている感情は井上凜の本心である。彼の心の中に鬱憤が溜まっている。
両親が殺されかけたことと勝手に誤解してしまったこと。事情があるとはいえ、自分が悪くない顔に井上凜は少し腹が立っている。
そのため、井上凜の態度はかなり脅迫感がある。
「待って……こっちが悪かった。だから、その……ランディはどこにいますか?」と青色の吸血鬼が明らかに弱った態度になってこう言った。
「おい!こいつらの言葉を――」
「黙ってくれ!あの子がいないと、今の私たちがいないの!」
「ぐ……!」
「頼みます。ランディを返してほしいです。もしあの子がいないと……」
しっかり誤解しちゃってる……
軟化の態度を見せた青色の吸血鬼に対して、井上凜は何も言わずにツリーセの方へ見た。まるで「これなら君が言った方がいい」と見せたのだった。
ツリーセは余裕のある態度で肩を竦めて言った。
「知らないな。だって、僕たちはあの二人を助けるために来ただけなのに……話の意味がわかるよね?」とツリーセは吸血鬼の付近に倒れている井上智澄と井上佳月のことを指しながら言った。
さっきと同じ意味の話だが、状況が変わると意味がこうも変えるとは……井上凜は内心でそう思いながら、二体の吸血鬼を見ている。
「わ、わかりました……この二人、このままお返しします。だから、その……」と青色の吸血鬼が唯々諾々の感じで言った。
この言い方、やはりさっき何か企んでいたのか……と井上凜が思った。
青色の吸血鬼の話を聞いて、ツリーセは何かを考えているような感じで歩いていた。この行動の意味はただ吸血鬼に焦らすために作っただけの時間だった。
そして、ツリーセは井上凜の前に歩いて、身を翻す時、こっそりと井上凜と目を合っていた。
二人がまた心を通じ合っているようにアイコンタクトで自分の意志を示した。
ツリーセは吸血鬼の方に向いて、笑顔で言った。
「よろしい。では、まずその二人を――」とツリーセが話の途中で、井上凜が絶妙なタイミングで口を挟んだ。
「待ってくれ。」
「お、どうした?リンさん。」
井上凜とツリーセの二人の芝居に、二体の吸血鬼は何も言えなかった。口を挟むことができなかった。勝手に口を出すと、二人の不興を買ってしまうと考えてしまったのだ。
「返してくれるのはありがたいが、このまま返してくれるのはダメだ。」
「お?というと?」ツリーセは含みのある視線で二体の吸血鬼に向いた。
視線が自分に向けてくると、もしかして自分を引き換えに?と考えてしまっている二体の吸血鬼は少し身を固まっていた。
「あの二人の傷を治せ。」と井上凜が要求していた。
「え、でも……」
「治せないとは言わせないよ。そういう魔法ができるだろう?」と井上凜が言った。
「おお、そうだね。ついでに、この子の傷も治してくれない?」とツリーセは井上桃花に指しながら言った。
青色の吸血鬼は二人の様子を見て、少し考えてからこう言った。
「わかりました……でも、この二人の怪我がひどくて、私たちには全部治せません。命を引き留める範囲ならできますが……」
「それでも構わない。ランディの話は治してからだ。」
「わかりました……ほら、リンディ。」と青色の吸血鬼が水色の吸血鬼に言った。
「……チッ。」
二体の吸血鬼は井上智澄と井上佳月の傷を治している。
二人の傷が少しずつ治していく様子に井上凜は少しホッとした。




