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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
井上凜の場合
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井上凜(1)

 現代日本。


 二回建ての家はさほど珍しくない住宅街に、ほとんど共働き家族だからこその小康家庭に見えるごく普通の家にて、とある兄妹四人がボードゲームを楽しんでいる。


 両親は共働き家族だからか、時間は週末でも、家には両親の顔が見えない。


 外から小さな庭が見える家の外壁には「井上」という苗字の表札が飾ってある。


 園芸の趣味を持っている人がいるであろう。花壇や園芸用品など、庭中に置いてあって、グルグルと円に巻いているプラスチックの水道管は不手際の感じで片付けられている。


 元気に育てている花や葉っぱに水が滴り、太陽が水滴を照らす、昼間の時間帯だった。


 花壇の上から、一つの窓ガラスを通して、四人兄妹が遊んでいる景色が映っている。


 この家にいる四人兄妹が、井上凜をはじめ、井上桃花いのうえももか井上星いのうえひかり、また井上若実いのうえわかみとの間に、盛大な戦いが続いている――ボードゲームで!


「……それでは、ダイスを振るぞ!」と井上凜は真剣な表情で四つのダイスを手に握ってこう言った。


「頼む!はずして!はずして!」そして、井上凜の向こう側に座っているずっと両手を合掌しながらこう言っていたのは14歳の少年――井上星。彼は四人兄妹の中では三番目の子。次男である。


 よほどはずしてほしいだろう。彼は両手ですりすりと摩擦し、真剣じみな顔で俯いている。祈っているようにも見える。


「だのむぅ!はずぢて!」また、井上星の隣に座っている、彼と同じように祈っている小さな女の子は四人兄妹の末子――井上若実である。


 子どもだからうまく喋れない発音。兄の見よう見まねでやっている姿が微笑ましくて、簡単に幼稚園児の年齢も達していないことが窺える。


「頑張れ、頑張れ、がんーばれ!両方―頑張れ!」


 最後、井上若実の向こうに、傍らから兄弟の争いを一番余裕のある笑顔で見ている女性は四人兄妹の長女――井上桃花。


 井上桃花は余裕の笑顔でいられる原因はほかでもない。今遊んでいるボードゲームに関することだ。


「あーあ、うざっ……一位は静かにして!」井上星が嫌そうな表情で井上桃花にこう言った。


「はーいはーい。全く醜いだな……最下位の争いは。ねぇ?兄ーさん。」嫌な態度に取られていたにもかかわらず、井上桃花は全く態度を変えず、ニコニコと笑っていて、井上凜に話しかけた。


 自分に話しかけてきた井上桃花には、井上凜はただ「桃ちゃんよ……その醜い争いは私が入っているんだがな。」と苦笑いを含みのある反応だった。


 でも、井上桃花は「ふふ、知ってるよんー」と、何も感じずに――あるいは気付かないふりで、ヘラヘラと返事した。


「あーもう!姉ちゃんは黙ってて!このままじゃゲームの進展が進まないよ!」姉の煽りに耐えられないだろう。井上星は姉の煽りを阻止した。


「はーいはーい」と井上桃花は一回承諾したものの、数秒も経っていなく、すぐこう言った。


「いやーなんなら私も手伝ってあげようか?ほら、たのむ、外して~外して~」と、井上桃花はまるで海藻みたいにゆらゆらと動いていて、心を込めていない感じで言ってしまった。


 適当な動きにけだるい口ぶり。手伝うどころか、むしろ逆効果と感じさせるほどの動きだった。


 姉の動きを見て、不安な予感を感じた井上星は「あ!ばか!やめろっ」と言葉が途切れたところ、井上凜はまるで「ここだ!」というタイミングで、四つのダイスを振っていた!


 カラコロン


 2、1、3、5……ダイスは無駄に転がることなく、すぐに結果が出ていた。


 勝負の結果もこの最後の一振りで決まった。


「あああ!」結果を見た後、井上星は悲しく叫んだ。


 逆に、「よっし!これで三位抜きだ!」井上凜は満足げに両手を上げて、万歳の姿勢をしていた。


 四つのダイスを二つずつに分けて、簡単に7という結果を出せる。他の組み合わせもできるが、井上凜にとってそれらは必要ない。


 何せ、7の結果は井上凜が欲しい結果だ。


 最後の7。3位と4位を決める最後の一つの7!


「それじゃ、バニラのもーらおう。」


「ああ……僕の……僕のデザートがぁ!アイスがぁ!」


 井上凜は自分の弟の反応を見て、ははと苦笑いをし、大げさだなと言いつつ、大きい箱からバニラ味と書いてある包みのアイスを取り出した。


 残りの最後の一つを井上星にあげた後、井上凜は一通り全員の顔を見回した後こう言った。


「全員持ったね?では――」


 いっただっきまーす!と、兄妹四人がそれぞれの感情で合掌してこう言った。


 ****


「はぁ……なんで兄ちゃんドリアン味なんか買うんだよ。」井上星は文句を言いつつ、複雑な表情でアイスを一口食べた。


 しかし、一口を食べた後、すぐ表情を一変し、くさっ、うま、と小声で言った。


「まあ、少しハズレの味がないと、ゲームは面白くならないだろう?つまりそういうこと……っていうか、“かゆうま”みたいに言うなよ。」


 あと、うまいんだ。と最後の一言ボソと口にした井上凜。


 井上凜は分けてほしいという意味の指示で、自分のバニラ味のアイスを掬い上げて、スプーンを井上星のほうに伸ばす。


 兄の動きに意味をわかった井上星は、ほいっと、自分のアイスも掬い上げて、兄の方に伸ばす。


 二人とも一口アイスを食べて、おいしそうに食べている井上星は思わず頬張って、「へへ」と笑い出した。


 井上凜は食べた後、「なるほど……こういう味だったんだ」と独り言をつぶやいた。


「……でもなー、やっぱ普通にチョコ味がいいなー」と井上星は言いつつ、視線が井上桃花の方に飛んでいた。


 正確に言うと、彼女の手に持っているチョコ味のアイスに。


「姉ちゃん。君のも一口頂ー戴!」“頂―戴”と言っている時、井上星はさっきと同じ仕草で井上桃花にスプーンを伸ばした。


「あら、私のを食べたい?食べたいの?負けたのに?」ニヤリと言っている井上桃花。その口調はまさに煽りを越して、からかっているように聞こえる。


 故に、「うざっ」井上星は半目で姉を睨む。


「いいのか?その態度。さっき分けてあげたかったのに、気がなくなっちゃったわよ?」


「ああーウソウソ!全然うざくない!姉ちゃんダイスキ、ほら、この通り、ダイスキ。」井上星はダイスキと言っている時、さっき掬い上げたアイスを一回戻して、もう一度掬って量を増やした。


「……いやいいんだよ。そんなに大きく分けてくれなくても。まっ、でもその気持ちはいただくわ。ほれ。」


「わーい!やっぱ姉ちゃん大―好き!あんーむ……んん!おいひい!」


「まったく……」井上桃花は仕方ない感じで自分の弟を見ている。この甘え方はまさに自分の弟だなぁと感じさせている。


 そして、二人が楽しそうに分け合っているのを見て、隣の井上若実もなんとなく自分のアイスを見ていた。


 しばらくして、井上若実は一口をすくって、井上星の方に伸ばした。


「にいしゃん、たべりゅ?」井上若実のアイスもチョコ味のアイスである。


「え?あ、いや、いいんだよ。若実は自分の食べてて。ゲームで勝ったんだからね?」井上星はそう言っているが、井上若実は逆に伸ばし続けている。


「……たべりゅ?」加えて、くりくりとした瞳が潤となった。


「う……」なんで泣きそうになった?何か言い間違えたのかと、井上星は助けを求める感じで二人のところに一瞥したが、姉が先に言っていた。


「自分のだけ食べられないから、嫌われているじゃないかなって、そう思っているんじゃない?」


「それは――」考えすぎじゃない?と、妹の表情を見て、井上星はこの言葉が言いづらくなった。


「ほら、早く食べないと泣いちゃうよ?」


「……あーむ。」


「おいちい?」


「おいひい~!」井上星が大げさな満足の顔を見て、井上若実はやっと嬉しそうに頷いた。


 二人のやりとりを見て、ここで井上桃花は横入りしてしまった。


「ねえねえ、若実ちゃん。姉ちゃんにも食べさせて!」


「いあっ!」


「何でだよ!」


「ねえしゃんはかったんだがら!」全然交渉の余地がないと言っているみたいにパクと、井上若実は自分のアイスを大口に食べた。


「えぇ……運がよかっただけなのに。」


「はは。姉ちゃん運が良すぎて嫌われてんな。でも三回連続2と12が出てきたんだから、確かにちょっとキモイね。若実。」


「ね!」


「ね!じゃないよもーう……」


「ははは。」家族みんなが楽しそうに喋っているこの和気藹々な空間に、井上凜も楽しそうにこの雰囲気に馴染んでいる。


「あ!そうだ!」

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