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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
吸血鬼との交流
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 理性を取り戻したとはいえ、吸血鬼の外見は変わらない。爪、牙、ボサボサの髪型が同じだ。ただボイスチェンジみたいな声が中性的になった。そして、理性を取り戻して、会話ができるようになった。会話ができるようになっただけで、吸血鬼の雰囲気が全然違った。


「言うつもりはないのか?」と吸血鬼が言った。


 二人が答えなかったから、吸血鬼は疑惑の目をしている。


 井上凜にとって、吸血鬼は凶暴化の印象しか残ってないから、少し悩んでいる。それに、今は吸血鬼のことより、ツリーセ(井上星)とフロンに色々聞きたいことがあったのだ。


 だから、井上凜は常套句を言った。


「ええ、こちらにも事情がありますので……」


「ふーん……事情ね。さっきまで話し合おうって言って、いざとなったら、何も言わないんだ。」


「それは落ち着いてゆっくり話そうという意味です……むしろ、さっきまでのことを覚えていますか?」吸血鬼は記憶があることに少し意外だった井上凜である。


「まあ、うっすらだけどな。」と言いながら、吸血鬼はボリボリと頭を掻いた。


「そうですか。」井上凜は補足の説明をするつもりはない様子で、吸血鬼は腕を組んだ。


「とにかく、詳しく話すつもりがないなら別にいい。でも、せめて何かの目的があるか聞かせてくれ。例えば、この遺跡に用があるとか……あるいは、“吸血鬼狩り”とか。」


 吸血鬼は「吸血鬼狩り」という単語を言った時、少し強調したように言った。目付きも警戒の色に帯びた。


 吸血鬼狩り……恐らく言葉のままの意味だろう。


「確かにこの遺跡にちょっと用がありますが……吸血鬼狩りではありません。」


「ふーん。」まったく信用していない顔をしている吸血鬼。


「そもそも、あなたがいることにわかりませんでした。どうしてここにいるのもわかりません。元々調査のつもりでこの遺跡に来ました。」


 この話を聞いて、吸血鬼は全く信じていないが、さっきより警戒を解いた。


「……そうか。つまり、ただこの遺跡に用があるってことだな。」


「はい。そうです。」


「なんだ。そういうことか。なら、『先客』はもう『俺たち』に片付けておいたぞ。」


「先客……」ここまで二人の交流に何も口を挟まなかったツリーセ(井上星)がこの単語に反応した。明らかに井上星が見た景色と関係しているそうだから。


 井上星もツリーセの中に「その先客のことは何なのかと聞いてほしい」と言っている。


「俺たち……」そして、井上凜はこの言い方が気になっている。足音で吸血鬼が複数体いたということは判別できるが、何体がいるかわからなかった。


 井上星と違って、井上凜は隠れていて、吸血鬼の個体数が見えていなかった。


 二人が別々の反応をして、吸血鬼は少し気になっていた。特にツリーセの反応に。


「お前たち、チームじゃなかったのか?この遺跡に用があるってことは、ある程度の情報がわかっているだろう?」


 自分に疑いの目がかけられたが、ツリーセはこう答えた。


「チームというより、家族です。それに、ある程度の情報がわかっていても、あの部屋を見たら、どうしても気になっちゃいます。その『先客』のことは一体誰のことを指しているのかを。」ツリーセは魔法の扉の方に指した。


 身体の中にこの状況を見ている井上星は、少しツリーセに尊敬の気持ちをもっていた。自分なら、きっと思った言葉をそのまま口に出すから。


「は!なるほど。あの部屋を見て、疑ってたってわけか。」と吸血鬼はツリーセの話を聞いて、鼻で笑った。


 井上凜も部屋のことが気になったが、発言を控えた。余計な発言は余計な注目に引かれるから。


「言っておくけど、あの部屋は俺たちが来る前に、もっとひどかったぞ。吸血鬼も気分悪いほどにな。」と吸血鬼は不敵な笑みをしながら言った。


「部屋のことがわかった……では、その『先客』というのは?」とツリーセが言った。


 まるでツリーセがつまらない反応をしたから、吸血鬼は退屈そうに「はぁ」としょうがない顔で溜息をついた。


「先客は三つの『ドール』だ。上の階に壁を突き破ったら、あいつらがいたのだ。そして、仲間と一緒に『ドール』を片付いた後、あの部屋に置いた。」


「じゃあ、あの部屋に『ドール』があったのか?」


「当然だろう。『ドール』はどんな見た目をしているか一目でわかるだろう。」


 ツリーセはあの景色を思い出して、ドールがあるような、ないような気がした。もちろん井上星は部屋の景色を見た時、見分ける知識も余裕もなかった。ただ逃げ出したくなるような気持ちだった。


「なんだ?もしかしてお前……バカなのか?」


「は?何でそうなる?」


 まるでツリーセのこの本性が見たかったかのように、吸血鬼は笑った。


「人間の遺体と『ドール』のことを見分けることができないなら、頭が悪い以外の理由が考えられないからな。」明らかに煽っている口調だった。


 少し言い方に不快だが、


「……事情を説明してくれないと、そんなことがわかるわけがないでしょう。」とツリーセは素直に認めた。


「……つまり、本当に見分けることができなかったんだ?」ツリーセが素直に認めたことに、吸血鬼は逆に呆れた顔になった。


「そうです。だから?」やぶれかぶれの気持ちになったツリーセ。


「いや……別に。」


「その部屋、私が確認してもよろしいですか?」二人の会話を聞いて、状況を確認したかった井上凜だが、二人が真逆の返答をした。


「うん?お好きにどーうぞ。」と吸血鬼は肩をすくめて、全く気にしていない様子だった。


「やめた方がいい。」と吸血鬼と真逆の反応をしたツリーセは井上凜の服の一角を掴んでいて、行かせたくなかった。


「ちょっと吸血鬼さんの態度が悪いけど、嘘じゃない。かなりひどい様子だよ……泣き出したくなるほどに。だから、やめた方がいい。」


 主語がないが、ツリーセの言い方が井上凜に弟のことを連想させた。実はツリーセだけではなく、井上星も「阻止して」とツリーセに言った。どうしても井上凜に行かせたくなかった。それほどひどい様子だ。


「……わかった。でも、その『ドール』というものを見させてほしいから……吸血鬼さん。」


「俺は吸血鬼さんなんかじゃない。ちゃんとした名前がある。」


「では、あなたのお名前は?」


「……そっちが先に言え。」


 井上凜は考えてから、キャラクターの名前を言った。


「グリンと申します。」


「お前は?」と吸血鬼はツリーセの方に見た。


「……ツリーセです。」


「ふん。俺はランディだ。それで、『ドール』が見たいのか?」


「そうです。」


「見せてもいいんだが……正直の話、こちらはまだ君たちのことを信用していない。こちらに冤罪を被せようとか考えているかもしれないんだぞ。」


「そんなことをしません。それに、信用の話と言ったら、こちらも同じです。ランディさんを信用したいから、頼んでみました。」


 ランディは再び鼻で笑った。


「では、遺跡を調査するつもりだったら、なおさら自分の目で確かめた方がいいだろう?」


 ランディの話がごもっともだ。井上凜はそのつもりで行くことに決めたのだったが、ツリーセに止められた。


「どうしても信じてくれないなら、そうします。だが、覚えているなら、一つ思い出してほしい。私たちは君を殺すつもりで戦っていましたか?」


 ランディは少し考えていた。


「それに、吸血鬼を陥れようとするのが私たちの目的でしたら、君に察知された時点で意味がありません。」


「……屁理屈だな。だがまあ、いいだろう。面倒くさいけど、運んでやる。」


「ありがとうございます。」


 ランディは適当に手を振りながら、魔法の扉の方に歩いた。その背中が見えないと、井上凜は早速ツリーセとフロンに確認した。


「ではフロンさん。いますか?」


「はい!います!とても心配しました!状況はどうでした?」


「しばらく落ち着きました。とりあえず、こちらにも聞きたいことが色々ありますが……まず、キャラクターの名前は、たしかツリーセでしたっけ……」


「はい、ツリーセです。」


 ですって……やはり星くんではない。


「私と一緒に説明してくれないでしょうか?」


「説明するって……誰にですか?」


「誰にって、フロンさんです。」


 『ツリーセって、フロンおじさんのことがわかっているじゃないの?僕はフロンおじさんの声が聞こえていましたよ。』


「あ、すみません。僕にはフロンおじさんの声が認識できません。存在がわかっていますが、聞こえません。星の声なら大丈夫ですが……」


「……本当ですか?」


「はい。本当です。」


「フロンさん!ロールプレイング状態にしたら、あなたの声が聞こえないって……」


「それは……はい。そうです。キャラクターには聞こえません。私も星様の声が聞こえませんが、こちらから伝えることができます。つまり、こちらの声が一方通行です。」


「そうですか……」ロールプレイング状態……思ったより不便かも。


「わかりました。この話は一旦置いときます。フロンさん。状況を説明しますから、吸血鬼の特性と特徴、教えていただけませんか?」


「吸血鬼……わかりました。」


 こうして、井上凜は状況を説明し始めた。

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