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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
二人のシナリオ
16/109

15

 井上星ツリーセはロールプレイング状態にした後、ツリーセ(井上星)になった。フロンも文字情報で確認できた。名前が変更する意味もわかっている。


 ロールプレイング状態にしたのか……ここでフロンはサブGMとしての経験が働いていた。


 サブGMの役割はGMの一部権利の代行だった。主にシナリオの支援や判定の補佐、他に説明の補足等々、GMと同じく大事である。特にサブGMは情報の処理が多かった。


 だから、この名前の変更はフロンにとって簡単に理解できることだった。理解できないのは動機だ。


 状況がわからないから、フロンは井上凜に言った。


「凜様!返事しなくていいです!星様は『ロールプレイング状態』にしました。」


「どっ……ぐっ!」井上凜はどういうことだと言いたかったが、吸血鬼が攻めてきた。会話の余裕がなかった。


 吸血鬼は片手にシュッと井上凜に半円状の爪攻撃をしていた。傷口を増やさないために、井上凜は後ろに下がって避けた。だが、避けた次の瞬間、もう一度攻撃された。


 身体の鈍さと相手の器用さ、まさに相克された感じだった。井上凜はどうしても二回目の攻撃が避けられなかった。


 吸血鬼は半円状の爪攻撃をした後、すぐ勢いで井上凜に近づき、刹那の時間で一回転し、鞭のように足を使った。


 一連の動きが水のように流れていて、反応ができなかった井上凜の顔面に直撃した。


「うっ……!」痛みを感じた井上凜は悶えた。しかし、悶えることすら隙になる。


 吸血鬼はドン、ドンドン……一つ、二つ、三つで、まるでリズムが良い感じで、何発の拳を放った。


 隙ができてしまった井上凜はただの防戦一方。腕、顔、腹部……骨が折れるような強い力ではなくても、ちゃんと痛みが感じられる。


 このままではダメだ……!


 防戦の劣勢を覆るために、井上凜は隙を狙っていた。


 ドン、ドン……


 そして、吸血鬼が大きな動きをした瞬間、井上凜はまもなくここだ!と隙を狙って、相手の懐に距離を縮め、吸血鬼の懐から綺麗なカウンター技を決めた!


 吸血鬼は「プシャッ」と吼えながら、衝撃を耐えられなくて、フラフラと何歩を下がった。


 井上凜ははぁはぁと息を吐きながら、態勢を仕切り直した。


 逆に、「シャッ」と叫んでいる吸血鬼はまだ安定していないのに、すぐフラフラとした身体を四足歩行の形でびょーんとジャンプし、井上凜に向かった。


 吸血鬼が力任せの一撃は余裕に避けられた。


 むしろ、井上凜は吸血鬼が近くに通った瞬間、すぐ後を追って、吸血鬼を組み付いて制圧した。うまく首筋のところにしっかりとくっついて、噛めることができなかった。


「シャッ!」


「喋れるなら、話し合おう!攻撃するつもりはないんだ!」井上凜は諦めていない。ただし……


「シャッ!」


 無駄である。


 吸血鬼がもがいている。身体をよじって脱出しようとしたが、そんな隙間がなかった。脱出できなかった。


 だが、脱出できなくても井上凜が心配している。


 ダメだ……このままじゃ、こちらのほうが先に力尽きてしまう。それに、星くんは……ロールプレイング状態にしたことが気になる井上凜がこう思った瞬間、ツリーセ(井上星)は魔法の扉から出てきた。


「星くん!」心配する気持ちと嬉しい気持ちが半分半分の井上凜だったが、次の瞬間出てきたツリーセの行動に驚いた。


 精神崩壊で動き出せなかった井上星はツリーセと変わった。


 ツリーセは一目で周りの景色を見たら、井上星が感情を抑えそうになかった。


 彼の気持ちを感じたツリーセは、「ごめん。君は見たくなかったね。まず目を閉じるね。」とゆっくり話して、景色が真っ暗になった。


「君の兄ちゃんは外にいるはずだ。だから、外に出よう。」


 他人もいないから、ツリーセの言葉は明らかに井上星にかけている。井上星は自分が思った疑問を投げた。


 『ツリーセは……僕が作ったキャラクター、でしょう?』


「ええ。そうだよ。」答えながら、暗闇に行動するツリーセ。


 『なぜ、その……自分の意識?その……頭が回らなくて、うまく伝えませんが、どうしてツリーセさんがいました?』うまく伝えなかった井上星だった。


「ふふ。そんなにこだわらないで。頭が回らないのは、若干身体に影響されていると思う。」


 『そうで――そうか。じゃあ、敬語を使わないようにする。それで、どうして……』


「どうして僕がいると聞いていたが、答えはさっき君が言ったよ。この身体は“君が作ってくれたから”。」


 まるで哲学問答の言い方が井上星には理解できなかった。


 『ええと……身体はフロンおじいさんが作ったと思うが……』


「だが、その中身は……いわゆる“魂”みたいなものは君がくれたのだ。」


 僕が……ま、まさか!井上星は良くない想像をした。


 『もしかして、判定か!判定をし続けると、自分の魂を売ったということになるのか?!』


 あまりにも飛躍すぎる考え方がツリーセに反応を困らせた。


「え?ええと……違うよ。」


 『違うの?』実は少し怖かった井上星である。


「はい。どうして魂を売ったという考え方に至ることがわからないが……判定は僕にとってただ一つの交流の手段で、普通にツールとして認識したほうがいいと思う。」


 『じゃあ、今までの判定の結果は全部君がくれたのか?』


「全部とは言えないが、ほとんどの情報はそうだね。ただし、主観的な部分があるため、頼りすぎるのも良くない。」


 『成功と失敗の意味も含めて?』


「はい。」


 『じゃあ、ダイスの出目も君が――』


「君の気持ちがわかるけど……それは単純に運だよ。」


 『う……』


「そろそろ着いただろう。」ツリーセは目を開けた。扉の入口はすぐそこにあった。悲惨に満ちた部屋はもう見えなかった。


 『……ありがとう。』


 ツリーセはできなかったことを代わりにやっていた。だから、井上星は礼を言った。


 井上星は自分の顔が見えないが、ありがとうと伝えたら、口が微笑みの形になったと感じた。


「こちらこそありがとう。君は僕に存在意義を与えてくれた。だから、僕も君を助ける。」


 『わかった。それで、やはりロールプレイイング状態は……』


「はい。しばらくこのままに居る必要がある。」


 五分間が経ったことすらも怪しい時間だから、当然一時間に足りていない。ロールプレイング状態が解除できない。


 『兄ちゃんにどう説明したらいいだろう……ちょっと僕のふりをするのは――』


「その方がいい?」


 井上星はしばらく黙っていた。


 『いいや……やはり普通に説明してくれる?』


「いいよ。僕もその方がいいと思うから。」


 『ありがとう。』


「ふふ。どういたしまして。」ツリーセは楽しそうに笑っていた。


「では、まず君の兄ちゃんを助けなきゃね。」


 『ああ。頼む。』


 ツリーセはもう少しで魔法の扉から出ることになる。吸血鬼と井上凜が戦うのを目撃した。視野が共有しているから、井上星も見ていた。


「星。」


 『はい。早く……』


「もう詳しい作戦はもう言えないから、君は信じてくれる?」真剣の声色に、井上星も真面目に答えた。


 『兄ちゃんを助けるつもりなら、信じるに決まってる!』


「では、少し痛いけど、我慢してほしい。」


 『痛い……あの、せめて何をするか――』


「あいつに血をあげる!」とツリーセは言いつつ、スッと井上星の返事の間もあげなく、魔法の扉から出ていた。


 井上凜は吸血鬼を組み付いて、動けなかった。だから、魔法の扉から出ていたツリーセの行動を阻止することもできなかった。


「何をやっている?!星くん!」


 ツリーセは自ら噛まれた手を差し伸べて、吸血鬼の前に置いた。吸血鬼は噛みそうで噛めなかった。組み付きがちゃんと働いたから。


「血をあげるんだ!吸血鬼は腹が減って、凶暴化になっている。凶暴化を鎮めるために、必要な量をあげる!」


「どうしてそれを……」


「それは今重要じゃない。ただし、凜さんは戦いたくないなら、まず血をあげて、凶暴化を鎮めよう!」


 なぜ井上星(ツリーセ)がわからない情報をわかっている……と考えていた井上凜は、ツリーセの言い方とフロンが伝えた情報により、ほぼ確信した。


 この人は井上星ではないと。


 井上凜は色んな要素を含めて考えた結果、まずツリーセ(井上星)の言葉を信じた。


「血をあげるんだろう。副作用とか、眷属になるとか……」


「ない。」


「なら、私があげる!」井上凜はツリーセが「ない」の返事が来たら、迷わず自分の手を差した。


 ツリーセは少し意外な顔をして、自分の腕を下げた。弟を守るために、躊躇いない行動が意外だった。予想がついたが、ここまでできる人は一体どれほどいるだろうと。


 吸血鬼はガブっと井上凜の腕を噛んで、血を吸っている。


「う……」と井上凜は気持ち悪いと感じた。


 『バカバカ!何で兄ちゃんにやらせるんだよ!僕はもう傷口ができたんだから、こちらがやった方がいいだろう!さっき兄ちゃんが言った「副作用」とか、本当に「眷属」になったらどうする!』


 井上星は内心で素直に手を引いたツリーセに抗議している。


「いや、だって……」ツリーセに手を挟む余裕がなかった。


 吸血鬼の行動を牽制しているのは井上凜である。必然的に速さも順番も井上凜が先にある。


 何回のゴクと飲む音が響いていた。


 本当の時間は三十秒も経っていなかったが、体感の時間は何分間も経過した感じだった。


 そして、まるで意識的に止めたように、飲む音が止んだ。


「凜さん!成功だよ!理性が取り戻したみたい!」ツリーセは元気を取り戻した吸血鬼を見て嬉しい顔で言った。


「本当か?なら、手を離してくれる?」


 この言葉を聞いていた吸血鬼はプチっと血液と唾液のとろみを混ぜる牙を引いて、井上凜の腕から離した。


 井上凜は解放された気分だったが、腕に払拭できない気持ち悪い感覚が残された。その上に、顔色が良くなかった。


「……まずまずの味だな。」と吸血鬼が舌で舐め回って言った。


「……あ?」当然血をあげた本人としていい気分ではない。


「いや……食べれば食べるほど中毒になりそうなタイプだな、これは。」少し自己中心的な言い方で、勝手に評価つけた吸血鬼だった。


「それで……君たちは誰だ?何でここに?」血液の食レポをした吸血鬼はやっとここで二人に正視した。

混乱させないように、名前の表記をつけておきます。

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