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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
二人のシナリオ
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13

 三人が行動し始めたと同時に、井上凜と井上星がフロンに調査の状況を説明し終わった。


 フロンは二人の説明を聞いて、少し悩んでいた。二人が説明した状況はシナリオの情報と一致しない部分があったから。


「あの……いくつか気になることがありますが、まず二階の臭いはどんな匂いでしょうか?」フロンはまず臭いのことを聞き出した。


 魔法の扉はGM情報に入っている。元々とある犯罪者に作られたところだったから、「シナリオ」に載っている。


 特に「命の森」の遺跡は、フロンの「シナリオ」ではこんなことが書いてある。


 命の森の遺跡:

 “「ドール」がいる。「魔法使い」に「捨てられて」、「憎悪」に「満たされていた」。「複数体」がいる(三匹)。”

 ★これはGM情報です♡


 この情報はフロン自身で整理して、伝えやすいようにしていた情報だ。


 シナリオにはもっと詳細な情報がある。その詳細のことは――


 “例えば、複数体のドールは三階にいる。”


 “例えば、その魔法使いは狂った人体実験の犯罪者だった。”


 “例えば、魔法の扉はその魔法使いが罪から逃れて、自分を隠すために作られるものだった。”


 “例えば、魔法使いはもう死んでいた。ずっと憎悪と罪のことに教えられている三匹のドールは、三階で彷徨い続けている。”


 ――等々、物事の経由と環境、または五感の情報まで、シナリオの中に詳しく書かれていたのだった。


 だから、フロンは良く二人に確認していた。どんな感じなのかを。


 しかし、臭いのことは「シナリオ」に載っていなかった。他にもう一つの情報が食い違っていた。


 この一致していなかった情報がフロンに嫌な予感を感じさせた。


 もしかして、自分が思った安全な場所が実は危険だったと、フロンが不安を感じていた。


「ええと、今僕たちは三階にいるから、形容するのは難しいね。必要なら、今下の階に――」今下に行くと言い出しながら、二階に降りるつもりの井上星だったが、すぐ井上凜に掴まれた。


「若干錆びた鉄の臭いでしたよ。だから降りる必要がない。星くん。」と井上凜はフロンの言い方と声色から、恐らく何が良くないことが起きたと察している。


「お、おう……そうだね。言われてみれば、確かにそんな臭いだった。」


 “錆びた鉄の臭い”、この形容が何を指しているのか当然フロンもわかっている。


 血の臭い……数日間で、遺跡に何か変化があったのか?とフロンはシナリオの情報を確認している。


 しかし、やはり「血の匂い」という情報が載っていなかった。


 “「シナリオの情報は全てではないよ。フロン。」”と、ここでフロンはとある先輩の話を思い出した。


 この話はフロンがまだ研修しているころの話だった。


 “「シナリオは卓によって変化する。」”


 “「だから、ずっとプレイヤーと状況を確認しよう。現場の状況は不変ではないから。」”これはフロンの先輩の教えだった。


 当時、まだ正式にGMに勤めていなかったから、フロンがわからなかった。


 しかし、今となってフロンはやっとその話の意味がわかった。


「現場の状況は不変ではない……」とフロンが呟いた。


 フロンが呟いた話を聞いた二人は当然疑問を感じた。特に直感で何が起きたと感じた井上凜は聞き出そうとした。


「どうしました?フロンさん。」


「……確認します!三階に何がいましたか?」フロンの切羽詰まった声に、二人がお互いに一瞥した後、心が通じているように頷いて、フロンに返事した。


「いいえ、見た感じ何もいません。」


「では三階のこと、もう一度言ってください。特に景色の状況を!」


 三階の情報も食い違っていた。


「はい――」井上凜は言われた通り三階の景色を伝えた。


 『ドール』がいなかった……壁が崩れている……とフロンはシナリオの情報を確認した。


 しかし、三階の情報はもはや全部変わっていた。普通なら、「ドール」がいるはず、壁も崩れていないはずだったから。


 考えてもしょうがない。このことを伝えないと、自分までおかしく見える、とフロンが思った。


「二人とも。よく聞いてください。」フロンが真剣の声色で、井上凜と井上星が真面目に聞いている。


「「はい。」」


「状況が変わっていた。あなたたちがいた遺跡は、想像より危険な場所かもしれません。シナリオに載っていない情報があったから。」


「それはどういう……」


「比較的に安全な場所……と言ったはずでしたが、何がありましたか?」


「ずっと伝える機会はありませんが、実は、シナリオの情報は時間差があります。」


「時間差……」


「はい。その時間差の範囲は三日間から五日間までです。当然、シナリオの情報はある程度の誤差がありますが、ほとんどの場合は大して変わりません……しかし、あなたたちが言った感じ、その遺跡は今かなりの変化があったらしい。」


 シナリオを見ていない二人にとって、当然何の変化があったのかわからなかったが、フロンの切実な声にふざけるつもりがない。信じないつもりもない。


「つまり……」


「……早くこの遺跡から離れた方がいいでしょうか?」


「はい。その方がいいと思います。あそこにまだ正体が掴めていないやつがいるので!」


「わかりました。星くん……」


「わかっている。さすがにこんな状況で無理に調べるつもりはないよ。」


「ならいい。今すぐ離れ――」と井上凜が言っている途中、とんでもない轟音と揺れが起きていた。


 ホローンホローンと、とってもゆっくりで、まるで何かが少しずつ開かれている音だった。


 揺れは地震のように遺跡ごとに、ぐらぐらと立てられないほど激しかった。


 ずっと三階に立っているのに、さっきまでずっとなかった二階の錆びた鉄の臭いが、揺れと轟音とともに三階まで伝わってきた。


 臭いの濃さはもう刺激臭に化して、喉まで甘さを感じるほどだった。臭いに刺激されて、二人は思わず咳き込んでいた。幸い轟音が大きすぎて、咳き込む音が覆われた。


 だが、ずっと咳き込んだことが誰にばれたら良くないと思った二人は激しい揺れの中に、お互い身体を支えながら、もう一つの手で鼻を覆った。


 雰囲気が不穏なあまりに、二人も背筋が寒気を感じて、鳥肌が立っていた。二人は思わずプルプルと震えている。


 この揺れと轟音がきっと魔法の扉が開いたに違いないと判断した井上凜は、早く行動しなければならないと思っていた。


 しかし、ゆっくりとはいえ、扉の隙間から覗くことくらいできる。今から下に降りて逃げていたとして、バレてもおかしくない。


 かといって、窓から飛び降りる勇気も井上凜にはなかった。魔法の粘土は遺跡の周りにあるが、どんな性質に変わっても、トランポリンみたいな都合のいい性質に変わらない。飛び降りても、墜落の痛みを耐える自信がなかった。


 だから、井上凜は隠れることを選んだ。


「星くん。隠れて!」


「う、うん。」井上星は指示した通り、例のところに隠れた。


 井上凜は階段から登ってきた見えないところ――ベッドの向こう側に隠れた。


 ベッドの高さは子どもの高さがあるため、身体を丸めて横になれば、一人くらい隠れられる。


 話が突然中断し、また隠れてという言葉から、フロンは何か起きていたことがわかった。


「どうしました?何が起きました?」


「す、すみません。詳しい状況はまた後で……恐らく、魔法の扉が誰かに開けられました。」


「わ、わかりました。気をつけてください。」


「あの、フロンおじさん。」と井上星は吊り下げる状態で言った。蔓に吊り下げるだけでも、植物特有の繊維の軋み音が聞こえる。


「はい。」


「一つだけ聞きたい。判定のメッセージが肝心な時で出てきて邪魔になったら、どうすればいい?」


「うーん……邪魔になったら……正直、判定のことが詳しく知りませんが、たしか三つの方法があります――」


 一つ目、そのまま判定する。


 二つ目、何もしない。消えるのを待つ。


 三つ目、ロールプレイング状態にする。


「――一つ目と二つ目はそのままの意味です。三つ目の方法について、たしかロールプレイング状態では、『自動判定』ができます。結果が自動的に出すため、たぶん判定のメッセージが出てこないと思います。」


「そうか……だから、判定の分野と判断が広がるんだ。」


 お任せ状態だから、取れる行動が多くなった。つまり、量が増えたから、広がるのも当然である。


「わかった。ありがとう。」


「いいえ。とりあえず、気をつけてください。」とフロンがこの話を伝えた後、遺跡の轟音と揺れが静まった。


 ダ、ダ、ダ……と、複数の足音が上の階に登ってきた。


 井上凜は見ることができなかった。もし頭がベッドの上に上がると、きっとばれてしまうだから。しかし、井上星は見える。窓から吊り下げる状態だが、井上星は柔軟な身体で器用に頭を伸ばすことができる。距離も遠いため、少しおでこが現れてもバレることがなかった。


 そして、見えた。


 蒼白な皮膚で血管も見えるほど透明だった。マントを被った身体に異様に細くて長かった。


 不気味な笑顔を頬の上に引きずって、二つの純白で尖った歯が唇の前に引き裂いたように伸びている。ボサボサとした髪型が散乱して、遠目でも枝毛が見える。


 どいつもこいつも、身体中に血みどろだった。


 ちゃんとした知識がなくても、この生き物の外見で井上星は簡単に一つの幻想生物に連想させた――吸血鬼ヴァンパイアだ。


 まるで獲物を探しに行くように、五体ほどの吸血鬼が崩れていた壁から並んで、パシャー、パシャ―……とマントを翼のように広げて、一体ずつ飛んでいた。


 第四体目が飛んでいた後、五体目が飛びそうにしていた頃だった。


 五体目の吸血鬼は突然犬のようにクンクン、クンクンとして、ずっと空気を吸っているように嗅ぎ始めた。


 そして、ニッと吸血鬼が気味悪い笑顔をしていた。


 吸血鬼は井上凜の方向に頭を向いた。


 井上凜は肘が擦ったところに、わずかながらも滲んでいた血があったから。

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