11
「魔法の扉?」と井上星が疑問を感じて、首をかしげた。
「ああ。これがあるということは、隠し空間があるって。」
隠し空間という言葉を聞いて、井上星は目がキラっと輝いた。
「隠れ部屋じゃん!」
「星くーん?」井上凜は横目で井上星のほうへ睨んでいた。
「行きたいとは言ってないよ!ちょっとロマンがあると思っただけ。」本心で言っている井上星だが、その隠しきれていない期待の表情が物を語っている。井上星は興味がある。
井上星の顔を見て、井上凜は吐息をもらした。
「はあ……ここは最後にしよう。」
「……いいの?」
「君一人にさせたくないし、開け方もわからないから。」
魔法の扉は仕組みがあるという情報がわかった井上凜は、簡単に開けないと思っている。実際、二人はどうすれば魔法の扉を開けるかわからない。
「そうか。じゃあ、フロンおじさんに聞こう。何か見当がつくかも!」と井上星が言った。
井上凜は一瞬反対したかったが、すぐ「まあ、聞くだけなら」と頷いて、言った。
「フロンおじさん!」と、何秒間静かになった。返事が得られなかった。
井上星が疑問をもって、井上凜と顔を合わせた。返事を得なかった状況に、井上凜はわずかに眉にしわを寄せながら、試しにフロンを呼んでいた。
「フロンさん!」と井上凜が呼んだが、同じく返事が得られなかった。
「どういうことだ?」
「フロンさんがいないのか?」
困惑している二人だった。
「でも、フロンおじさんはさっきまで、まだ話しかけてきただろう?」と井上星が兄に確認した。
「ああ。この遺跡に入った時も声が聞こえていた。」二人はフロンに構う余裕がなかったが、フロンの声がちゃんと聞こえていた。
「じゃあ……怒っていて、サポート役をやめた?」
「どうだろう……」このことは井上凜も言い切れない。
「そうだとしたら、謝ろう!兄ちゃん。」
「ああ!」
ごめんなさいと二人は空気に謝った。当然、返事が得られなかった。
「相当怒っているのか?」
「いや、たぶん今はいないだろう。」
「そうか。どこに行ったのかな……」
「いないなら仕方ない。ここにはまだ上の階があるし、まずそこを調べよう。扉はいったん置いておこう。そして……フロンさんが戻ったら謝ろう。」
「うん。」
二人はしばらく推測することをやめて、上の階へ行こうとした。
一方、時は少し遡って、二人に無視され続けたフロンは、実は三人に助けを求めていた。
「お三方……」二人の喧嘩に少々手を焼いているフロンだった。フロンは早速三人に話しかけた。
「え?フロンさん。早いですね。」と井上智澄がフロンの声を聞いて言った。
「サポートに集中してほしいと言ったはずですが……」と井上佳月が言った。
「何かありました?」と井上桃花が言った。
井上桃花、井上智澄、井上佳月三人はダイスの判定によって、すでに湖のところに合流できた。
大成功を出した井上桃花は自らの豪運によって、井上智澄が作った道標を見つけた。
そして、偶然にも井上佳月は後から井上桃花と合流し、二人は無事に道標の方向に進んで、井上智澄と合流した。
「はい!すみません。サポートに集中するつもりですが……実は少々申し上げにくい状況なんです。今二人が喧嘩していまして――」フロンは二人が喧嘩していた事情を三人に詳しく話した。
真っ先に反応したのは、井上桃花だった。
「いやいやいや!フロンさん!そこはなんとかして!サポートの意味がなくなるじゃん!」
「そうですね。今私たちに言っても、何もできませんし……」と一手が顎にあてて、困った顔になった井上佳月だった。
「その……そういう意味ではなくて、実は喧嘩を落ち着かせるためのアドバイスがほしくて、お三方に話しましたが……」少し気まずいと思っているフロンだった。
これを聞いて、少し呆れた顔をした井上桃花は――
「フロンさんは友達と喧嘩したことがないの?」と言った。
「喧嘩したことがないというか……私、喧嘩したくありませんので、ずっと心を落ち着いてから話し合おうという感じです。」
「ああ……そういうタイプですか。」
今井上桃花にとって、フロンは少し頼りないおじさんだと思っている。
「はい。」
「わかりました。とりあえず、二人のことも心配していますし、喧嘩する時、どうすればいいかうちの方針を教えましょう。」
「ありがとうございます!佳月様!」
「教えたら、早く二人の方へ助けなさいね。」
「はい!」と、今三人のアドバイスを受けているフロンだった。
そして、今、井上凜と井上星二人が遺跡の二階にいる。魔法の扉を後にして、三階の方へ行こうとした。
二人は細心の注意を払いつつ、三階への階段のところに行った。井上凜は階段の前に止まって、井上星にも止めてと、踏み切りの棒みたいに腕を横に伸ばした。
「どうした?」
「さっき考えなしに階段を登ったが、少し気をつけた方がいい。罠があるかもしれない。」
罠という言葉に、井上星はふと思い出した。
「あ、そういえば、兄ちゃん。一階のあの判定、兄ちゃんはどう思う?」
「どう思うって……精神攻撃だろう?」
兄の話に井上星は少し自慢な顔で自分の推測を言った。
「あのね、僕は思うんだ。もしかして、あれは罠だって!」
「罠……」
「そう!『一回のみ』の罠が触発されて、攻撃された。だから僕たちは『防衛』しなければならなかったのだ。」
「なるほど。確かにありえるな。」
「……兄ちゃんの言い方だと、他の可能性もあるのか?」井上凜が少し平淡な反応に少々シュンとした井上星だった。
「なくはないが……君の推測が正しいと思うよ。」
「そう?」
「そう!それに、その前提で考えるなら、こちらに罠があることも充分ありえる。」
「そうだね。」
「じゃあ、気をつけて探しよう。判定は最後でする。判定に頼りすぎるのは良くないと思う。」
「わかった。」
二人は床から壁の順番で罠を探した。定番の叩く音と床の隙間があるかどうかを二人が観察していた。
「兄ちゃんはどう?」
「何もないと思うが、探す方法が正しいかわからない。」
「そうね。じゃあ、判定する?」
「ああ、判定しよう。」
二人は判定を申請し、メッセージが出てきた。今回のメッセージは二人にとって見覚えがある。
井上凜:
「『環境の探索』の判定に、出目の結果と状況によって変わります。
1:ファンブル。
2~5:部分的に成功。
6~9:成功。
10:クリティカル。
その他:その他。」
井上星
「『環境の探索』の判定に、出目の結果と状況によって変わります。
『捜索』スキルを使用することによって、出目の結果が+2の修正値がかかる。使用しますか?
はい・いいえ。
1:ファンブル。
2~5:部分的に成功。
6~9:成功。
10:クリティカル。
その他:その他。」
「兄ちゃん!内容が……」
「ああ。今回は難易度ではないな?」井上凜は井上星に確認している。井上星は頷いた。
「つまり、“何か危険がある”と思った方がいいだろうか。」このメッセージの書き方に不安を感じる井上凜である。
「あの、部分的に成功って……」
「うーん。わからない。どうしても成功したほうがいい状況なのか、さっき私たちの行動の影響なのか……基準がよくわからない。」
「行動の影響だとしたら、相応な行動を取っていたから、少し補正をくれたってことだね?」
「うん。TRPGに慣れていない初心者によくやる処置だね。」
「ねえ……思ったんだが、この判定はフロンおじさんが処理するじゃなかったら、誰が処理しているの?」
「わからないね。」井上凜はただ頭を横に振って、わからないと言った。
「判定の情報……本当に信じていいのかな?」
「さあ。私も全てを信じるつもりがない。ただ半信半疑の気持ちで考えている。」
「そうか。」
「どのみち、判定の恩恵を受けたのは間違いない。過信は良くないが、考えすぎても良くない。使えるものは使えよう。」
「わかった。」と井上星が頷いた。
「では、判定しよう。」
『環境の探索』の判定に、出目の結果と状況によって変わります。
井上星の結果:4(+2)=6 成功。
『環境の探索』の判定に、出目の結果と状況によって変わります。
井上凜の結果:4 部分的に成功。
「スキルを使ってやっとギリギリ成功かよ。」
「まあ……どんなにギリギリでも成功に変わりがない。私は部分的に成功だし。」
「兄ちゃん……」二人はお互いのことを同情な目で見ていた。
「とにかく、どんな情報があるか見てみよう。」
「うん……あれ、情報が……ない。」
二人は結果のメッセージを消したが、その結果の下にあるはずの情報がなかった。代わりに、二人の目に映った景色が変わった。




