10
「星くん!」
兄に呼ばれても、井上星は頭を振り返らず、遺跡の入口に行った。何も迷うことがなく、直接に遺跡に入った。
「一人が危ないから!」遺跡に入ることに散々迷っていた井上凜は、ここで井上星のことが心配で、迷いなく一緒に入っていた。
この間、フロンはずっと「喧嘩は良くありません」や「せめて二人で……」など話しかけたが、二人に構ってあげられなかった。
先に遺跡の内部に入った井上星は、もう一度強烈なカビ臭いの匂いを感じて、めまいするほど気分が悪くなった。
だが、さっきと少し違って、今回頭の回転が落ちてなかった。判定も出なかった。
井上星は「一回の判定」と「精神攻撃」、この二つのことを合わせて考えていた。考えた結果、「罠」、「トラップ」類のものだという結論に至った。
「さっきのは罠なのか……」独り言を呟いた井上星は、後から「一人が危ないから」と言いながら、入ってきた井上凜を一瞥した。
「星くん!」
井上凜が少し怒っていた顔に、井上星は少し泣き出したくなるが、素直になれなかった。
「どうせ僕は一人でやればいいだろう!」こう言って、井上星は周りの景色を探って、階段があるところを見つけた。
「それは悪かった!だからせめて――」井上凜は遺跡に入った矢先、話の途中で、井上星は階段のところに駆けていた。
まだ階段を登っていないが、井上凜の次の動きは間違いなく上へ行くつもりだった。
普通の言葉はもう聞き入れないと思っていた井上凜は、「せめて二人で探索する」という話を飲み込んでしまって、一つの例を挙げていた。
「――ホラー映画の定番になるんだぞ!分散したら危険だ!二人で行動しよう!」
井上凜が説得のつもりだったが、井上星は確かに一秒の時間くらい動きが止まった。しかし、それは自分の兄に対して言葉を放つ予備動作にすぎない。
「……僕に“遊びじゃない”と言いつつ、兄ちゃんの方こそ遊びだと思っているじゃないのか!」
「そんなことは……」井上凜は否定するつもりだったが、井上星の言葉で、否定しきれなかった。
「そんなことは思ってなくても、そう聞こえるんだ!」
井上凜は硬直になった。まさか自分が井上星にかけた言葉がここにブーメラン刺さった。
よく考えたら、自分が例を挙げていたものは大半がTRPGやらオンラインゲームやらのことだった。
理解しやすいようにとはいえ、そう思われても仕方なかった。真面目に考えていないと思われても仕方なかった。
だが、自分も家族のことが心配で、帰りたかった。これは間違いなく井上凜の本心である。
井上星と会えて、井上凜はとても嬉しかった。アニメの歌を聞いた瞬間、声が違うとはいえ、すぐに駆けつけたかった。
井上星だけじゃない。誰とでも出会えて、井上凜は同じ気持ちになる自信がある。全員同じく重要だから、とても大切な人だから。
そして、井上凜は気付いた。先に相手を傷つけたのは自分だったことを。
そんなつもりじゃなくても、そう聞こえるんだ……か。自分の言葉に、井上凜は内心で嘲笑う。
「星くん……」と井上凜が謝りたかったが、井上星はもう階段のところにいなくなった。
実は井上凜がそんなこんなで考えているうちに、井上星はすでに上の階に行ったのだ。
二階は一階より明るかったが、空っぽの空間に、壁と床に黒いシミがついている。若干錆びた鉄臭いの臭いと、灰色のつるつるとした一部の壁が一番井上星の注目を引いている。
井上星は変な匂いと思っているが、考えごとをしていたせいで、特に気付いてなかった。
その考え事は井上凜と同じだった。実は自分が兄を傷つけてしまったのだと思っている。
自分の兄と出会えて、井上星も嬉しかった。
自分の兄はしっかり者で頼りになる家族だ。だから、井上星はついつい兄に頼ってしまう癖がある。
しかし、井上星はこんな状況でずっと他人に頼るのは良くないと思った。自分も自立しなければ、いざという時、兄に守られるだけの存在になってしまう。
家族は、お互いに支え合う存在だ。自分だけ依存するのは、ただの甘えん坊だ。自分も中学生なのだ。家族の力になりたい。だから、先に情報を収集して、家族により安全な方法と危険を避けるために、行動しなければならない。
しかし、井上星のこの行動と考え方は言葉として具現化し、相手を傷つけてしまった。
自分は家族のことを比較の天秤に置いてしまった……兄ちゃんを傷つけてしまった。兄ちゃんの気持ちを考えてなかった。
井上星も謝りたかったが、できなかった。
喧嘩したばかりで、突然謝ったら、反省してないと思われるかもしれないと、井上星は余計なことを思いこんでしまって、灰色の壁に向かって歩いた。
ここの壁だけが他の色と違う……
井上星は壁に近づいたら、目の前に判定のメッセージが出てきた。
「『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧5。
1:ファンブル。
10:クリティカル。」
少し振りたくなかったが、兄がいないから、井上星はダイスを振った。
『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧5。
井上星の結果:4 失敗
「うぇ……」これも失敗……井上星は自分の運のなさに溜息をしていた。
井上星は失敗のメッセージを消して、情報を見た。
『魔法の粘土』:純度が高そうだ。
純度……井上星は外の粘土を思い出した。
外のやつは確かに色が何かと混ぜている感じで、汚い色だった。こっちは純粋な灰色か……性質は――井上星は手で壁を触ろうとした瞬間、井上凜が階段を登ってきた。
「星くん!」井上凜の言葉で、井上星はビクッと手を引いた。
井上星は後ろに向かないまま、何も動かなかった。
「星くん。こっち向いて。」井上凜は井上星の顔が見たかった。だが、井上星は動かなかった。
「……僕一人でやればいいって兄ちゃんが言ってた!」素直になれなかった井上星だった。実はこんなことを言うつもりがなかった。
「……そうだね。言ってた。」と井上凜は素直に認めた。
まさか素直に認めてくれるとは思ってなかった井上星は、素直になれない自分が情けなくて、興奮気味で後ろの方に向いた。
「兄ちゃんは本当のことを言っているのか!」
「ああ、本気じゃないけど……でも、ごめんなさい。」井上凜は腰を曲げて、謝った。
何でこんなに早く謝れるのか、井上星にとってわからなかった。
「そんなに早く謝って、本当に反省しているのか?」と井上星がつい言ってしまう。言うつもりがないのに、言ってしまう。
普通の人なら、この話で怒るかもしれないが、井上凜は怒らなかった。
「うん。反省している。」なぜなら、ちゃんと反省していたから。
自分の兄の態度を見て、井上星は何も言えなかった。自分も謝りたかったが、突然言えなかった。
もしかして、自分が悪くなかったという念頭が浮かんでしまったのだから。しかし、その念頭はすぐ兄の言葉によって、消えていた。
「星くんに会えてうれしかったんだ。だから、君のことを守りたかった。弟だから。家族だから。でも、星くんはみんなのために、頑張りたかったんだろう?」
ああ、本当は気持ちが届いているんだ……でも、自分の言葉のせいで……
さっき浮かんでいた念頭が消え失せた。
「うん……ぼ、く、ご、ごめん……ごめーん!兄ちゃん。」僕こそ、ごめん。兄ちゃん。泣き出した井上星はどもるどもるで謝った。
「兄ちゃんを……傷ついて、しまって……ごめん。勝手に、兄ちゃんのこと……決めつけて、ごめん……」さっき素直になれなかった自分も消えていた。本当の気持ちを伝えた。
井上凜はしょうがないような微笑みを零した。
「兄ちゃんこそ、悪かった。」
「ぼ、ぼくこそが……悪かった。」
謝り合戦になりそうだから、井上凜はしょうがない顔で井上星のところに近づいた。
「もうわかったよ。とにかく、調べるなら、二人で一緒にやろう。」
「でも……」
「たとえ過保護に言われても、兄ちゃんが絶対守ってあげる。これだけは譲れない!」と井上凜は自慢げな顔で言った。
「なんだそれ……」少し呆れた井上星だが、その内心は嬉しい気持ちだった。微笑みをした。
井上星が気付いてなかった様子で、井上凜は少し安心した。
実は、井上凜は少々井上星の注意を逸らした。なぜなら、彼は二階に登ってきた瞬間、すでに二階の臭いに気付いた。
井上凜はよく母と料理をしていた。まだ包丁が不慣れな時、傷口がよくできてしまう。だから、井上凜は血の匂いが覚えている。
この二階での臭いは間違いない血の臭いだ。彼はこのことを井上星に教えたくなかった。
そして、その臭いは一番注意を引き付けるこの灰色の壁から伝わってきた。
臭いの正体がわからないと、ただの変な匂いだと思われるだろう。
「とりあえず、兄ちゃんも一緒に調べる。一人が危ないから。」
「うん。じゃあ、兄ちゃん!この壁も『魔法の粘土』だったらしい!兄ちゃんも判定する?僕はさっき失敗したから、純度が高そうとしかわからなかった。」
「『魔法の粘土』?」てっきり何かの擬態生物だと思いこんでいた井上凜だった。
「うん。」
だから触りたかったのか……井上凜は井上星が手を引いた瞬間を見ていた。
「じゃあ、調べようか……」
「『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧4。
1:ファンブル。
10:クリティカル。」
『知識の判定』に難易度がある。判別の難易度:≧4。
井上凜の結果:8 成功
魔法の扉:純度が高めの粘土により作られた魔法の扉。これが作られた場合、必ず隠し空間がある。作り主によって、扉を開く方法も違う。暗号、特殊条件、何も設置しないこともありえる。
「……魔法の扉だって。」




