(1)
昔は楽しかった。少なくとも彼にとってそうである。
今の生活と比べれば、あの頃の生活はどれほど良いものなのか簡単にわかる。
故に、彼は時々こう思わずにいられなかった。
ああ、父様……ああ、神よ……何で俺はこんな目に遭うだろう……
神像の前に祈って、その神の像に彼は心の中でそう問いかける。当然、答えが得るはずがなかった。
自分の文句に付き合う神なんて存在しない。
何より重要なのは、彼はすでに神に仕える身分ではない。
彼は、もう「昔の彼」ではない。
皮肉なことだが、余計な考えをしていたせいで、彼は自分の考え方が変わっているのに実感した。
彼は自分の雑念に囚われている。
そして、そんな神像の前に祈っている彼の側に、「おーい!」と一人の女の子がやってきた……
女の子?背中から見ればそう見えるが、真正面で女の子の外見を見ている彼はそれが女の子と全く違う姿だということがわかっている。
未熟で小さな牙、成長しきれていない爪、片目が青色の瞳で、もう片方は茶色の目をしている。また、不完全ではあるが、その人間の面影が残っている面貌、その姿は正真正銘、女の子の姿が変わりつつある、一人の吸血鬼の姿だった。
ちなみに、彼は女の子が変貌する前の姿もちゃんと見かけた。まさに低身長に相応しい存在――ドワーフと呼ばれている種族の存在である。
この子も自分の理由があって、吸血鬼に変わされた。
そして、その女の子は彼にそう告げた。
「ランセ……ランディくん。『叔父様』が探している。」女の子の姿が変わっているため、身長は少し伸びていたが、それでも彼の頭より一個下になる。
ランディと呼ばれている彼は女の子がうっかり言いそうな名前をあえて無視して、下を向き、直接女の子の目を注視して答える。
「そうか。あの子のことだろうか。」
「……ええ、恐らく。」
ランディは少し神像の方に目線をあげたあと、返事した。
「伝えてくれてありがとう。サンディ。あとで行くよ。」
「いいえ……」とサンディと呼ばれている女の子はそう返事した後、一緒に神像を注視した。
「ランディくんは昔、神官……だったよね?」
サンディの話に、ランディは少し苦笑いをした。
「正確に言えば、神官見習い、だったんだけど……」ランディはサンディの方を見て、まあ、同じだろうなと呟いた。
その呟きを聞いたサンディは「……ごめん」と。
「いや、いいんだ。昔のことだし……」それに、そう称している資格が俺にはもうない。
二人がしばらく静かになっていた。時間が流れていくのを感じている。この雰囲気に楽しむつもりはないし、「叔父様」の用事で、ずっとこのまま立っていられない。
だから、ランディは先に動き出した。
「では……もう行くね。」
「うん……気を付けて。」
「うん。」
ランディは神像を後にして、この場にサンディ一人だけになった。




