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女神様の手に聖剣を  作者: なつき
たったひとつの一等星
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夜闇の前に

戦いが終わり、新たな謎が出来ました

 扉を開けばそこは深奥へと続く階段が有った。幾星霜も閉ざされて来た場所だと言わんばかりに淀んで凝固した空気と爪先からは見通せない堆積した暗闇……。ここに在る全てが、今まで入ろうとした者をずっと拒んできたと物語っている。


 二人を向いてカミーリャは小さく頷くと。魔法で燐光を灯して先行し降りてゆく。自分が真っ先に全ての危険を探知して解除する為だ。日記帳を数冊周りに滞空させたカミーリャは闇の中に魔力達を放ち、跳ね返って来た魔力達から目に見えない周囲の状況を映し出す。どうやら罠は無い、ただの階段らしい。それでもカミーリャは警戒を怠らずに二人を導く。


 その際に。ジストの情報だけは専用の日記帳を隠蔽して呼び出し個別に記録してゆく。現在カミーリャにとって、ジストは要警戒対象である。彼女にとって彼の今までの行動には少なからず怪しいものを感じたからだ。ジストに感づかれない様に彼の周囲に漂う魔力から情報を頁に書き込む。だが今は見ない。不審に思われない様に後々で確認する為だ。それが後手に回る可能性も有るが……これは仕方がないとカミーリャも覚悟していた。今は身内を疑いあう場合では無いからだ。


 やがて階段が終わり、広い部屋の様な場所にたどり着く。



「ここが屋敷の中枢ですね。今から明かりをつけます」



 カミーリャはそう呟くと燐光だった灯りを更に輝かせる。


 そして部屋の内部が全て、照らし出されたのだった……


◇◇◇


 警戒しながら入った室内はとても広かった。半円形の高い天井と中心にぽつんと机の様な台が在るだけで他は何もない。


 だがカミーリャの日記帳にはこの場所の壁に魔導陣が余すところなく張り巡らされていると記されている。現に周囲を見渡して見れば。壁から天井まで一面に描かれた無数の導線達が怪しく輝いているのを確認出来た。中央には八方向から魔力を流入させる導線が見え。一旦制御装置の下にある貯蔵陣に蓄え魔力が帯びた属性を識別して屋敷の各部屋に流す様だ。更には使われた魔力を回収して浄化する紋章や再度屋敷を循環させる為の紋章等も見える。



「強固な設備ですが……あの中央の台が屋敷の防御全てを司る制御装置の様ですね」



 日記帳に忙しなく情報を記しつつ、カミーリャは警戒しながら進んでゆく。防御機構も『誰も』邪魔出来ないだろうという確信が彼女には確かにあった。現に防御機構は沈黙を貫き一切反応しない。制御装置に近づいてもだ。勝敗は、既に決していた。


 その際ちらりと横目でジストを見やると、視線が一瞬重なって逸らされた。



(……)



 今はカミーリャも、何も言わない。この防御機構を掌握するのが優先だからだ。


 彼女はそのまま迷いなく進み制御装置の前に立つ。それは立っている人が見やすい様に綺麗な形で斜めに切られた台で、ここに手を置いて操作するのだろう。


 彼女は何百冊もの日記帳を、滞空させた。



「屋敷よ、私達に従いなさい」



 自身に従う魔力を集束させて。カミーリャは台へと流し込む。もちろん制御機構達は抵抗を示すが――カミーリャの日記帳で全ての策や防御能力を見抜き対応させて掌握させてゆく。


 それに呼応する様に。周りに張り巡らされた魔導陣に魔力が流れ輝きを増してゆく。流れを阻む動きは有れどささやかな抵抗に過ぎない。カミーリャは迅速果断に敵性魔力の路線を断線したり新しい囮の経路を敷設したりして一気に屋敷を掌握してゆく。


 そして魔力が流れている導線からの緊張が霧散し。臨戦態勢の砦みたいな空気からただの民家みたいな空気に、屋敷の雰囲気が変わる。どことなく自分達の動きを見張られている様な様子も無い、だが警戒態勢はしっかり外側に向いている状況だ。


 屋敷の制圧は、完全に成功した。



――お帰りなさい。我が主様――

 


 勝敗は決した。この制御装置はカミーリャに対して呼び掛け彼女を新たなる主と認めたのだ。



「警戒体制と敵対行動を解除、速やかに魔力達を警戒態勢から通常態勢に戻しなさい。そして今から情報を渡す者達に対しては敵対行動をしない様に」



 カミーリャは日記帳からルーティス及びニノやレイ、それからラインバルト達難民の情報を魔力として流す。



――了解。その者達はこの屋敷を脅かす敵ではないと認定します――



 制御装置はカミーリャに素直に従う。



「……」



 そしてカミーリャは皆からは見えない様に偽装した情報をこっそりと入力し。その情報は弾かれる事無くすんなりと認証され、



(そうなのね)



 それを見たカミーリャはある確信を得た。だがそれは。ルーティスにだけ相談すべきだと判断し今は屋敷を操る方に意識を向ける。



「ニノ様ジスト様。屋敷は我々の物になりました。後は何をなさいますか?」



 振り返り尋ねるカミーリャに、



「カミーリャさん。屋敷から皆を導く事は出来ますか?」



 ニノが胸に手を当てて問いかけた。



「我が主様に魔力を流せばすぐに気づくと思われます。それでいきましょう」



 ニノから依頼を受けたカミーリャは即座に屋敷を巡る魔力達に命令を下しルーティスが居る難民キャンプの元へと流す。探すのは不自然な森林が生い茂っていたので楽だった。多分レイとあの魔獣と精霊との戦闘で発生した魔力崩れをルゥが利用したのねとカミーリャは理解した。流した魔力を通じてルーティスはこちらに向かって頷くと、難民達に指示を出しすぐさま荷物をまとめさせる。



「屋敷を巡る魔力達に命令。魔獣として形成し土地の警備及び調査をしなさい。編成は六体一組で行動、一体、もしくは全体に何か有ればただちに情報をこちらに転送しなさい」



 ルゥ達の対応を確認したカミーリャは更に警備強化と周辺地域の調査命令を下す。日記帳で確かに情報は有るが更に正確な目視情報が欲しいからだ。



――了解しました。我が主様――



 屋敷の防御機構はただちに武器型の魔獣達を形成。剣、槍、盾、弓姿の魔獣達を軸に六体一組で部隊配置をして土地の調査をさせる。山林調査部隊は剣の比率を高くして平地調査部隊は槍と弓の比率を高くし、それぞれ対応出来る様にした。


 カミーリャは魔獣達の調査配置を見ながら頷き、次は激戦だったレイ達の方を映す。


 予想は出来てきたが決着はもう着いており、レイは何故か消滅寸前の魔獣と精霊に自分の魔力を与えて助けていた。その理由は後で問い質すとして。彼にも情報魔力を送り屋敷へ来るように促す。レイもすぐに気づいて魔獣と精霊を引き連れて向かって来た。最初に合流するのは位置的にレイ達の方が早いみたいだ。彼から戦闘経過と何故助けたのかを聞こうとカミーリャは判断する。次はルゥ達への援護に向かわせる為に魔獣を部隊編成しなくてはならない。


 カミーリャは屋敷に流れ込んで来る魔力を少し増加、土地全体に満遍なく流して魔力崩れを誘発させる事無く融合をさせ必要分だけ貯蔵陣に回して後は放流する。これから何が起きても構わない様にだ。そうして十全に整えた土地で魔獣達を発生させて、



「我が主様と難民の護衛に向かいなさい」



 命令してルゥの元へと魔獣達を護衛に向かわせる。



「魔獣なんて送って大丈夫でしょうか……」



 と不安げなニノに、



「我が主様が居るから大丈夫ですよ。さて皆さん、外でレイ達と合流しましょうか」



 確信を持って返し、皆を促すカミーリャ。


 その時ちらりと制御機構を悲しそうにジストが見つめたのを、カミーリャは見逃さなかった。


◇◇◇


 屋敷から出たカミーリャ達は中庭に降りてくるレイと魔獣、精霊と再会した。



「よ! カミーリャ! 屋敷の制圧は上手くいったみたいだな!!」



 見てくれは激戦でぼろぼろなものの、元気いっぱいに右手を挙げてレイは朗らかな喜びを浮かべていた。



「ええ何とか。貴方どうしてその魔獣と精霊を助けたの?」


「全力で戦ったけどリオン達悪い奴らじゃなかったから」



 カミーリャの質問に、後ろの二名を親指で差してあっけらかんと返すレイ。



「リオンって……その魔獣の女の子の事かしら?」



 やれやれ彼らしいわねと腕組みしながらため息をついて。カミーリャはレイの後ろに居た――この土地に入る際に攻撃してきたオレンジ髪の少女を見やる。



「ああリオンだ。名前はオレが何となく当てた。強かったしこの屋敷が大好きなんだろうから助けた。なぁカミーリャ、こいつの大切な屋敷を傷つけたりは……無いよな?」



 レイの周囲に在る風の魔力達が空間を軋ませる。言いたい事は言わずとも、分かる。



「無いわ、安心して。これから来る難民の方々にも約束させるわ」



 カミーリャは何もしないと言わんばかりに両手を広げて答えた。



「そーか、ならいいか」



 暴れ風が、凪いだ。レイも無邪気な笑顔になると「良かったな」とリオンに話しかけていた。



「お屋敷を護っていたのですね。あなた方にも私達にも理由がありました。戦いになった事、申し訳ありませんでした」



 ニノは領主代行として。リオンと黒い雷の両名に胸元に両手を重ねる仕草をしながら深く謝罪をした。リオンは悩んでいたが……


 雷が、ニノの周りを旋回し始めた。


 驚くもニノはアバスを雷へと使う。流れてくる魔力の声はとても優しいもので敵意は全く無く、彼女達に友好を示しているものだった。



「ありがとうございます。私達はあなた方の尊厳は全く犯しません」



 ニノは魔力を通じて雷に力強く微笑んだ。



「さて、もう少しでルゥも皆を引き連れて来るだろうから……おれは怒られる覚悟するわ」


「何かございましたか?」


「いやニノ様、ちょっとやり過ぎて魔力崩れ起こしちゃって……」


「あなたが悪いんですよ。本当にに人間ですか?」


「魔獣にだけは言われたくねーよ!」



 レイ、ニノ、リオンが話し合う中で。カミーリャは参加しないジスト横目で一瞬だけ見やり。日記帳を開く。


 そこには先程偽装して流した『ジスト』の情報が在った。


 そう。彼の情報だけは皆からは見えない様に偽装してわざとそのまま読み込ませたのだ。そして私達には敵対していた屋敷はジストにだけは敵意を向けずすんなりと味方と判定した。


 つまり。彼はこの土地の関係者である可能性が高いとカミーリャは確信したのだ。



(もっともそれは今語るべきではありませんね。私とルゥの二人だけで共有しましょう)



 カミーリャはそう決めると、日記帳を霧散させたのだった。

ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます


また続きを書きますね

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