2話 大切な話
10/30 ヴァイオレット・エヴァーガーデンを見ながら書いてたらラブコメじゃ無くなってたので、大幅修正しました。
週末。
私はサリナに見てもらった服を着て、彼を待っていた。サリナはあまりサイラスのことが好きではなく、どこか胡散臭いと言っている。それでもなんとか言いながら私を応援してくれた。彼女のそういう所が好きで、ついいつも甘えてしまっている……すごく緊張しているが、サリナのことを考えると少し落ち着いた。
「アリーシャ。おまたせ。今日もきれいだね。」
「ありがとうサイラス!」
「じゃあ行こうか。」
今日もサイラスはカッコいい。今日は珍しくサラサラの金髪をオールバックスタイルにしていて、スーツに似合っていてとても素敵だ。彼も今日のことを意識しているということだろうか。
彼の好みの女性になるためにずっと努力してきた。それが今日叶う。そう思うと嬉しすぎて食事の味も分からないほどだった。
とりとめも無い話をしていたら、いつの間にか食後のワインが運ばれてきていた。
「アリーシャ」
「はい」
とうとうだ。どんなこともこの人とならきっと乗り越えていける……私はワインを置いた。
「僕と別れてください」
「………えっ?」
「アリーシャ、君には申し訳ないと思っている。だけど、他に好きな女性ができたんだ。」
「ちょっと待っ」
「実は、だいぶ前から考えていたんだ……君にとって僕は必要なのか。君はとても優秀な医師で、聖女の再来と言われるほどだ。当然君のほうが忙しいし、そうして働く君を見て、僕の支えなんて必要ないんだと思ってさ。」
「ちがっ」
「それに、他に気になる子ができたんだ。あっ、さっきも言ったね。彼女はアンナと言ってね。彼女はまさに僕がもとめる女の子で、かわいくて甘え上手で、家庭的だ。木登りもしたことない。背も小さくて笑顔もチューベローズのようにかわいくてさ。彼女が僕に告白してくれたんだ。」
「それで、彼女と付き合いたいから、僕と別れてくれないか?アリーシャ。」
「……つまり、浮気したから別れてほしいってことよね?」
「浮気?いや、まだ付き合ってないから違うよ」
「他の女に目移りした時点で浮気だと思うけど?」
やばい。今すぐこのワインをアイツにかけてやりたい。いや、かけてやるか。
「アリーシャ、そのワイングラスを置こうか?侯爵令嬢で、聖女の再臨だとも言われてる君が、まさか、ワインを人にかけるなんてしないだろうな?」
「えぇ、そうね。あなたに合わせて生きてきた『アリーシャ』ならしないわね。でも、」
グラスじゃなくてボトルごとかけてやるか。
「はっ、やっぱりお前の本性はそうやって男勝りで腕白な性格なんだな。」
「どういうこと?」
「君が15の時に僕に一目惚れしてから、僕の言うままに性格を取り繕ってるだろう?そんなこと知ってたさ。」
「……そうよ。私は生まれた時から清楚で賢くて聖女みたいな女性だったわけじゃない。ただ、あなたの恋人になりたくて、好みの女性になりたくて、努力したのよ。」
「それはどうもありがとう。でも、別に僕の好みの女性は聖女じゃない。アンナのように生まれた時から可愛らしい女の子が好みなんだ。その点、君は僕と出会った時には、もうお転婆娘だった。……だから、最初から、今も君を愛そうと思ったことさえなかったさ。」
「なら、どうして私に嘘の好みの女性像を教えたの?しかも、私と付き合ったじゃない。」
「君が侯爵令嬢だからだよ。僕は伯爵令息でも三男だ。給料以外に使えるお金もない。でも、君と付き合っていれば贅沢が出来ると思ったんだ。聖女って言ったのはなんとなくさ。聖女と付き合えたらいいことだらけだろ」
怒り、失望、悲しみ、絶望……目は見えているのに何も見えない。頭の中が真っ黒だ。本当に目の前にいるのは私が愛したサイラスなのだろうか。
何か言わなければ。何かを。
「……そう。分かったわ。私たち別れましょう。」
「そうか!ありがとうアリーシャ。あっ、このことはくれぐれも内密に。お互いのためにもね?」
「……」
彼は足早に去っていく。いや、しかもレストランのお代は出さないのね。こんな最悪な誕生日があっていいのだろうか。
ワインを一杯飲んでから、店を出た。