表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

一話 彼の好みになりたい。

 私は今幸せの絶頂にいる。


 ――アリーシャ、来週末に君が好きなレストランを予約したよ。大事な話があるんだ。会って話せないかな?


「っ〜〜〜!!!」

「クラーク先生、回診行きますよ?」

「あっ…はい。行きましょう。」


 ついさっき、廊下で愛しの彼氏に意味深にデートのお誘いを受けたのだ。

 アリーシャ・クラーク25才。そろそろ結婚に焦る愛に一途な侯爵令嬢兼魔術医療師だ。彼氏のサイラス・ウォーズリーに出会ったのは10年前。一目惚れだった。


 15才の私はまだまだやんちゃで木に登ったり乗馬したり、一日中外で遊ぶことが大好きだった。

 その日はいつもより高い木に登ってりんごを齧っていた。手が滑ってりんごを落としそうになり、慌てて持ち直そうとしたことが悪かった。

 バランスを崩して木から落ちてしまったのだ。


 私は意識を失ってしまい、両親に国立魔術病院に運ばれた。

 魔術医療は普通の医療とは異なり、魔力を体内で操作して原因を無くすことで治療する。だいたいの病気を治すことが可能で、後遺症を残しにくく回復が速いことが特徴だ。

 これは医師の魔力量が多ければ多いほど効果が高く、伝説上には死人を生き返らせた人物もいる。その人物は聖女と呼ばれ、彼女が私が暮らす国、パティニメ王国を建国したと言われている。


 私を治療したおじいちゃん先生の魔力量も多く、なんの後遺症もなく治してくれた。術後経過のため、しばらく入院することになり、そこでよく様子を見てくれたのが新米魔術医療師のサイラス・ガルシアだった。


 サイラスはとにかくかっこよかった。私に優しくしてくれて、彼の声は大河のようで、身のこなしもスマート。そんな彼に、私はすぐに彼に恋をした。入院中、私はとにかく彼に話しかけて、清楚で賢く、まるで聖女のような女性が好みだと知った。


 私はショックだった。

 なぜなら、私とはまるで似つかない特徴だったからだ。

 清楚よりも活発で元気な性格、令嬢教育は1時間以上座っていられない、聖女については建国者だということしか知らない。


 退院してからはとにかく彼の好みになろうと努力した。

 まずは聖女の本を読んだ。彼女は魔術医療師だ。なら私も魔術医療師になればいい。彼と同じ国立魔術病院に勤めて、そこで彼に近づきたいと思った。

 魔術医療師になることを決めて、両親に家庭教師を付けてもらった。当初、両親は反対していた。令嬢が魔術医療師になることはありえないことではないが、それは伯爵まで。侯爵令嬢が魔術医療師になった事例はなく、結婚ができないかもしれない。さらに、その道は狭き門で、外を駆け回ってばかりだった私の未来を案じてくれたからだった。

 それでも私の意識を尊重してくれた。まずは令嬢としての教育を終わらせること。27才になっても結婚していなかったら、親が決めた相手と結婚すること。この2つを条件に私の夢を応援してくれた。


 令嬢教育を根性で一年で終わらせて、一年で魔術医療師育成学校の入学試験の勉強をした。ただの魔術医療師ではなく、聖女にならないと行けないので、魔力も鍛えた。外で駆け回っていたおかげか、体力は多く、なぜが魔力も多かった。清楚になるために美容にも力を入れたし、素行も整えた。勉強も面白く、こんなに興味を持てるものに出会えたのもサイラスのおかげ、と恋心も募っていった。

 主席で入学した後は3年間主席を守り続け、無事国立魔術病院に就職することができた。


 5年ぶりに会ったサイラスはさらにかっこよくなっていて、私の新人教育を担当してくれた。新人教育が終わるころ、彼から告白してくれて、それから5年付き合っている。


 実は来週末は私の26才の誕生日だ。周りの友達も結婚しているし、私のタイムリミットである27才の誕生日が近づいている。これは絶対に次のデートでプロポーズしてくれる。だって、大切な話があるって言ってくれたし。あと少し遅かったら自分からプロポーズするところだった。それが清楚な女性がするかどうか分からなくて悩んでいたんだ。よかった、プロポーズしてくれそうで。だって、大切な話だし。大切な……


「クラーク先生、何にやにやしてるんですか?」

「え?」

「何か嬉しいことでもあったんですか?顔に出てますよ。」

「えっ、そ、そうかしら?」


 やばいやばい。清楚な女性はにやにやしない。


「ほら、来週末私の誕生日でしょ?それで、彼氏がデートしようって言ってくれて。」

「クラーク先生って彼氏いらっしゃったんですね……」


 あっ。口が滑ってしまった。サイラスが業務に支障がでるからお互いが付き合っていることは秘密にしようって言っていたからサリナにしか言っていなかったのに。


「あっ、これは秘密ね?ノエル」

「了解、アリーシャ。じゃあ、アリーシャの誕生日祝はまた今度だね。サリナにも言っておくよ。」

「うん。ありがとう。」


 ノエルとサリナは私の同期で、大切な友達だ。

 サリナは頼れるお姉さんのような存在で、学生のころからよくモテていた。大恋愛の末に結婚しているので私の恋の先生だ。

 ノエルはこの国の第5王子で、研究のために王位継承権を破棄したほどの魔術医療オタクだ。視力が悪いのかいつも分厚いメガネをかけていて、暇な時間は研究している。彼の夢は割高な魔術医療費を払えない平民のために、魔術医療を手軽に受けられる体制や補助制度、医療器具を作ることだ。私はそんな彼の夢を応援したくてずっと彼の研究を手伝っている。


 結婚が決まったら、一番に二人に報告しようと決めて、仕事に取り組んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ