契約の悪魔~魔王軍に~弱者は不要? その契約、了解した~
こんな感じのストーリー書きたい(かけない)
勇者召喚。
大いなる敵を打倒せんが為、異なる世界より勇者となる者を召還する秘術。召喚された者は比類なき力を神より下賜され、人智を越えた力を振るう事ができるという。
古くから使い古された異世界転移系物語におけるありきたりな様式美であり、もっとも有名なテンプレートともいえるだろう。
魔王や魔神、邪竜__巨悪に対して、起死回生を狙い救いのヒーローを呼び寄せると言うのは平たく言ってしまえば燃える展開と言う奴だ。
「問おう。お前が私の召喚主か?」などという展開。読者なら誰もが心躍ったはずだ。
だがしかし、その…テンプレを行うのが必ずしも人類サイドであるとは限らず、また呼び出した側のニーズに合った者が召喚されるとも限らない。
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「やりました魔王様! 召喚は成功です!」
おどろおどろしい調度品に囲まれ、重々しい雰囲気が漂う王座の間にて、その主に対して家臣の魔物の一人が嬉しそうに声を上げる。
ここは魔王城。世界征服を企み全てを我が物とせんとする魔王グランタニアの支配する領域の最奥である。
別に彼らは人類に対し劣勢であるという訳ではない。むしろ好調と言える。
度重なる侵略活動によって大陸の4割弱を手中に収めている。支配した領域の人類に与する種族やゴブリンのような弱小の魔物は全て奴隷とし有益な労働力と化した。魔王の掲げる魔王軍に弱者は不要。真の強者だけが正の臣民であるという宣言の元、まさに魔王の理想郷が着々と出来上がっていた。今のペースを維持していけば低く見積もって9年もあれば。雪だるま式に国力が上がっていく事を加味すればあと4年もあれば天下統一は完遂する。
言ってしまえば今の魔王軍はこの世の春と言えるだろう。
では今彼らが何をやっているかと言うと、戯れに過ぎない。数日前に攻め落とした人間の国が保有していた最高機密【勇者召喚の秘術】。調べてみれば苦を労せずに強者が手に入る夢のような魔術だったので魔王軍の増強の為に有効活用することになったのだ。
ちなみにその国の王は秘術の代償の生贄として。王の妃と姫はゴブリンやオークの量産機として有効活用されている。魔王は意外と倹約家なのだ。
召喚の成功を目にした魔王は自軍の強化にほくそ笑む。
「ほう。異世界の勇者というからどんなものかと思ったが、見た目は普通のニンゲンと同じようだな」
「……俺を呼んだのはお前か?」
魔王に返事を返した勇者_と、思われる人物_はゆっくりと魔王を見返す。その人物の第一印象は黒だった。
濡烏を思わすような長い黒髪に黒曜石の如き黒い目。雪というよりも、陶器のような作り物めいた白い肌のせいでより強くその黒が強調されていた。
纏っている服も黒一色で統一されていた。スーツの下のシャツやネクタイ、果ては手袋まで黒という拘りようだ。まるで何者の色にも染まらないという意志を感じる程だった。そんな中、鎖で雁字搦めに縛られた天秤を模したバッジが胸に輝いている。
ほぼ全てが黒で統一されている中これだけが銀でなんとなく目立っていた。
綺麗に整えられた長髪と細身の体格から女性のようにも思えたが、低いバスボイスからその人物が男性であることが分かる。
魔王は青年の外見には興味がないのか、ただ召喚が成功したことに対し小さく笑みを浮かべると、青年の問いに答えた。
「そうだ。我こそ世界を支配するただ一つの大器。魔王グランタニアである。まさか本当に勇者召喚が成功するとはな。一興のつもりが思わぬ拾い物をしたものよ」
「勇者召喚……? まぁいいか。名を告げられたのなら返答しよう。俺の名は=。イコール:コントラクター。召喚に応じ参上した。それで、俺を何故召喚した?」
「【鑑定】」
魔王は会話もせずに鑑定魔法を使い青年を眺め見、そして落胆の色を見せる。
「なんだこれは? 特に優れた魔力を持つという訳でもなく、ステータスも普通のニンゲン並。それも兵士どころか一般市民レベルではないか。スキルも戦闘に関するスキルは皆無。……勇者というからどれ程の物かと思えば、ゴミだな」
深くため息をつく魔王に対し不満を感じたのか青年は眉を寄せる。
「何を言っている? そもそも俺は勇者ではない。契約の悪魔だ。約束や商談。ありとあらゆる契約を司る悪魔。戦闘能力などあるわけがない。お前たちは知らずに召還していたのか?」
そもそもの話、秘術を保有していた国が最後にこの秘術を使ったのは記録に残っている限り数世代前の話。それも秘術という事で記録も残っていない話だ。口聞による伝承だけでは限界があり、秘術の内容は変質していったのだ。
しかし、そんな都合は魔王には関係ない。イコールの言葉を聞き一層機嫌を悪くさせた。
「契約の悪魔だと? それこそ必要がないではないか。我が魔王軍に必要なのは圧倒的な強者のみ。貴様のような弱者は不要よ。それも契約なんぞというのは商人の戯言。戦士の前には無力なものよ。目障りだ。疾く、失せよ」
「そうか。魔王軍に弱者は不要。故にこの……魔王領だったか? から失せよと。弱者は魔王領から立ち去れと。で、俺も同様にこの魔王領から立ち去る。俺への要求はそういう事で良いんだな?」
「くどい。なんども言わせるな。なんならここで殺してもいいのだぞ?」
「分かった。“了承した”」
イコールはニヤリと笑うと素直に魔王城から出て行った。魔王を始め、側近連中もあっけなく立ち去るイコールを見て表示抜けした。
王の言葉とは言えこれほどまでにあっさりと立ち去るとはなんとふがいない。勇者でないにせよ魔族に類する悪魔の行いかと。
あまりにもあっさりとした退散に魔王軍は誰もイコールを咎めたり殺めようとするものはいなかった。
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後日談
「魔王様! 魔王軍に所属している下級兵士たちが逃げ出しました!」
「ふん。訓練に耐えきれぬ雑魚が逃げ出すなどよくある事だろう。風紀を乱さぬようその者は即刻処刑せよ。何、雑兵程度雑草の如く生えてくるわ」
「ひ、一人や二人所のはなしではありません! ゴブリン、スライム、コボルト、オーク……ほぼ全ての低級種族たちが種族単位で脱走したのです!」
「なんだと!」
報告を聞いて思わず魔王は立ち上がる。いくらゴブリンやコボルト達低級種族とはいえ、全くいなくなってしまうのは流石の魔王も困る。
彼らの持ち味はその繁殖力による圧倒的物量だ。いくら使いつぶしても後から後から増える非常に使いやすいコマという点だ。
割合で言えば彼ら下級兵士は魔王軍の80%以上を占める。吸血鬼やドラゴンと言った上位種族は戦闘力こそ高い者の個体数は非常に少ない。
そんな兵士たちがいなくなってしまうとなると、大損害もいい所だ。
「それは流石に看過できん! 即刻引き戻せ! 四天王も動員しても構わん!」
「魔王様!ご報告です!」
「今度はなんだ!?」
焦りを見せる魔王に更に別の兵士が報告に上がる。
「脱走したのは兵士だけではありません! 市民階級や奴隷階級、ありとあらゆる低級種族も脱走しております! 今や魔族領は超過疎化の一途をたどっております!」
「なにぃ!?」
魔王軍の政治は強者が弱者を搾取すると言う非常にシンプルな構造だ。その反面、搾取する対象がいなければ魔王軍は一気に干上がってしまう。
魔王が大いに焦った。
「何故だ……何故今更雑魚共が反旗を翻す!? 一体なぜだ!?」
「……魔王様、この前のあれではないでしょうか? ほら、あの契約の悪魔とかいったあの男」
魔王は四天王の一人に言われ ふと思い出す。
『そうか。魔王軍に弱者は不要。故にこの……魔王領だったか? から失せよと。弱者は魔王領から立ち去れと。で、俺も同様にこの魔王領から立ち去る。俺への要求はそういう事で良いんだな?』
・魔王軍に弱者は不要。
・弱者は魔王領から立ち去れ
「あ、あ、あああああああああ!! 呼び戻せ! あの契約の悪魔を探し即刻契約を解除するのだ!」
「お言葉ですが魔王様。既に数日たった今、あの男の居場所は分かりません」
「さがせぇぇぇ!!!」
「やれやれ。魔王というからどんな智謀知略を巡らせているのかと胸を膨らませてみれば、ただの脳金ではないか。つまらん。これでは昔契約した詐欺師の方がまだ楽しかった。もっとも今となってはカブを被ってさ迷っているが。ん? 最近イメチェンしてかぼちゃを被っているんだったか? まぁいい。契約は契約だ。約束通り魔王領からは立ち去ってやろう」
かくして魔王軍はざまぁされて弱体化してしまった為、人類は平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし
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ジャックオランタンの話に出てくる悪魔。絶対いい奴説を提唱します。