99話 本当の魔王 三
荘厳な玉座の間の玉座の前。
わたしはどうすれば……
そこから、見下ろせば、四人が見える。
彼らはわたしを責めてこない。グレンでさえ、何も言わない。
彼らがどう思っているのか?
責めてこない理由は、この場で魔王であるわたしに変なことを言って、宰相に睨まれるのを避けたいだけかもしれない。
でも、彼らからは、わたしに対してそんなことを思っているとは思えない。
「魔王様」
ドリーに呼ばれ、はっとする。
ドリーが何か言っていたようだけど、何も聞いていなかった。
「魔王様、私は彼らを連れて、先に退出致します」
ドリーはわたしに頭を下げると、四人を連れて出て行った。
彼らは抗うことなく、ドリーに従った。
ミアがちらっとこちらを振り向いたが、何も言わず出て行った。
気の抜けたわたしは座りたくないと思っていた玉座に思わず、座り込んでしまった。
もう、彼らには会わない方がいいだろうか……
というより、会いづらい。
本当に、どんな顔で会えばいいのか?
そんなわたしの考えを知ってか、知らずか、
「魔王様、明日、彼らを街へお連れするのはいかがでしょうか。是非とも、彼らには自らの意志でこの魔王国に残っていただきたい」
宰相が真面目な顔で告げる。
提案なのだと思うが、わたしの耳には”強制”に聞こえる。
「私もご一緒します、メイさま。せっかくなのですから、楽しみましょう」
メルヴァイナはにこっと、うれしそうに声を弾ませる。休みに遊びに行くような調子だ。
わたしはめちゃくちゃ、気が重いのに……
彼らの立場からしてみれば、楽しんでいる場合ではないように思う。
割り切ることができれば、楽なのに……
宰相の話に乗って、わたしは魔王なのだと、吹っ切れてしまえたら……
やっぱり、理想の魔王を演じるべきなのか。
ただ、それには、圧倒的に強いという前提がある。
今までの話からすれば、どうも魔王という存在は、この魔王国を維持する為の魔力の供給源のようなもののようだ。
その代わりに皆から神のように敬われて、生活も保障されている。
そういうことだ。
魔力を供給しているとしても、すぐに死んだりするわけではない。
特にわたしに不利益があるとは思えない。
だから、この魔王国にいること自体は問題ない。
わたしはこの魔王国に不満はない。元の世界に近い部分がある。トイレもきれいだ。
「メイさま?」
「あっ、はい」
「あの子達には伝えておきますね。大丈夫ですよ。何かあれば、私が黙らせますから」
「え?」
何か、不穏な言葉を聞いた気がする。
「メルヴァイナ、わかっているのか? 彼らが自主的にここに残るようにするんだ。私も共に行く」
ライナスが大きなため息を吐く。本当はついてきたくなさそうだ。
「えー、あなたも来るの? そんな楽しくなさそうな顔でついてこられても、困るのよね」
「遊びに行くわけではない。これも役目の一環だ」
「ええ、だから、楽しくして、残ってもらえればいいんでしょう?」
「君の場合、君が楽しみたいだけだろう」
「あら、私が楽しくなければ、他の皆も楽しくないでしょう?」
わたしもため息を吐きたくなってくる。
今日はもう寝たい。
一体、今は何時なのか?
もう、後のことは明日考えればいい。
「魔王様、本日はお疲れでしょう。お部屋に戻られ、お休みになって下さいませ。食事のご用意もございます」
メルヴァイナとライナスは無視して、ちょうどいいタイミングで、宰相が声を掛けてくる。
「そうさせてもらいます」
わたしは玉座から立ち上がり、段を下り、扉に向かって進む。
後ろで、宰相がメルヴァイナやライナスにわたしに付き添うように命じていた。




