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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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98話 本当の魔王 二

やっぱり、わたしが魔王なんだ……

そんな場合ではないのに、そんなことを思う。

彼らにしてみれば、わたしは裏切り者だ。

こんな魔王城の玉座に座らされて、視界に彼らが入る。

体は本当に自分の体なのかと思うほど、緊張で動かない。

「どういうつもりだ?」

コーディの声が冷たく響く。

彼の責めるような声がつらい。

いつもの優しい彼ではない。

もう、わたしには、二度と、穏やかな顔は見せてくれない。

完全に嫌われてしまった。それどころではなく、恨んでいるかもしれない。

彼らの敵、彼らの倒すべき敵は、魔王であるわたしだ。

すぐに、この場から逃げ出したい……

コーディが近づいてくる。

見ていられなくて、俯いた。

本当は受け止めなくてはいけないと思う。逃げてはいけないと思う。

「メイを返せ。どうして、こんなことをする!」

コーディはわたしではなく、宰相に迫る。

あれはわたしに向けられた言葉ではなかった。

それでも、逆につらくなってくる。

結局、その言葉はわたしに返ってくる。

わたしは全て知っていたから。

わたしは利用しようと、魔王だということを受け入れた。

魔法の発達した魔王国の方が、元の世界に帰る方法が見つかりやすいかもしれないから。

そして、彼らを騙して、連れて来た。

だから、ちゃんと、本当のことを話さないといけない。

玉座から立ち上がり、叫んだ。

「あの、ごめんなさい! 全部、嘘なんです! ここに捕まってる人なんて、いません!」

はっきり言って、謝って済む問題じゃない。

嫌われても、憎まれても、蔑まれても仕方ない。

彼らを人間に戻すことはおそらく、できないだろう。

ある川の水と別の川の水を混ぜて、元通りに分離させるようなものだと思う。

どんな言葉が返ってくるのか。

耳を塞ぎたくなる。

「どうして、メイが魔王なの?」

返ってきたのは、そんなイネスの言葉だった。

どうして、と言われても、それは、わたしが聞きたい。

「……」

わたしに答えられるはずはなく、黙り込むしかできない。

「治癒魔法しか使えない魔王? メイを唆して、魔王に仕立てて、利用しようとしているだけじゃないの」

イネスは気にしているところを突いてくる。

わたしも同じように思っている。

「魔王様はこの国にとって、王であると同時に、神なのです。治癒魔法しか使えないことは些末なことです。私達を信じられない気持ちはよくわかりますので、信じる必要はありません。ただ、あなた方とこれ以上、争う気がないことは信じていただきたく思っております」

そう言ったのはドリーだ。

相変わらず、彼女の方が女神のようだ。

「それに、争ったとしても、あなた方に勝ち目はないでしょう。より、魔王様を危険に晒すことになります。私達はただ、あなた方がこれからどうしたいのか、希望を聞きたいだけなのです」

終始、穏やかな口調、朗らかな微笑、にもかかわらず、絶対、脅し文句だ。

「どちらを選んだとしても、あなた方にも、勿論、王国にも危害を加えないとお約束致します。それに、今後、生贄は必要ありません。こちらから要求したこともありませんが。それでは、三日後の朝に結論をお聞かせください」

「わかったわ。その三日後の朝までに見極めさせてもらうわ」

イネスが射るような視線をドリーに向けている。

「そうしてください。他に何か、私達に聞いておきたいことはありますか?」

「ないわ」

「僕はあります。三日後の朝まで、メイと自由に会うことはできるのですか?」

先ほどとは違い、落ち着いた声でコーディが尋ねる。

「勿論です。自由に会っていただいてかまいません」

「それは、僕達がここに残ることになっても、メイと自由に会うことができるのですか?」

「常識的な範囲で、自由に会っていただいてかまいません」

「三日を待たなくても、僕はここに残ります」

「そうですか。気が変わることがあれば、三日後の朝におっしゃってください」

ドリーは目で合図するように宰相を見る。

わたしは、というと、未だに、玉座の前に突っ立ったまま、取り残されているように思える。

「では!」

ドリーが明るい声でそう言ったと同時に、一瞬にして、周りの景色が変わる。

同じく、玉座の間だけど、雰囲気が全然違う。

魔王城の雰囲気が吹き飛んだ。

前にも、ここの玉座に座らされた。わたしがこの魔王国に初めて来た時に。

やっと、本当の魔王国に戻ってきた気がする。

「短い期間になるかもしれませんが、あなた方を歓迎致します。快適に過ごせるよう、取り計らいましょう」

宰相が彼らに向かって、そう言った。

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