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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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97話 本当の魔王

偽魔王を倒した感慨も何もかも吹き飛ばすように声が響いた。

もちろん、メルヴァイナの声だ。

ちなみに、グレンはメルヴァイナを睨んでいる。

せっかくの雰囲気をぶち壊されたんだから、そうなるだろう。

その時、二人分の靴音が聞こえてくる。

宰相とドリーだ。

二人は玉座の傍まで歩いてくる。

多分、全員の視線が二人に集まっている。

グレンやイネスやコーディは、黙ったままだ。

色々言いたいことはあるかもしれない。

だって、あの二人はライナスによく似ている。髪色も目の色も同じだ。

明らかに捕らわれていたという感じでもない。

「よく来ていただきました。歓迎いたします」

ドリーが穏やかな口調で、微笑みながら言う。

青白い光が神秘的に思える。

それもかなり場違いだと思う。魔王城で歓迎されても困ると思う。

二人とも、服装も白っぽい。

傍から見ると、わたし達の方が悪者に見えるだろう。

「ようこそ、魔王国へお越しくださいました。私は、魔王国宰相、アラスター・ノア・デル・フィーレスと申します」

「副官のドリエス・ラーナ・デル・フィーレスと申します」

二人は穏やかな口調を崩さない。

「魔王国? 宰相? お前は何だ!」

グレンが宰相に噛みつく。

グレンはよくそんなことができると感心する。穏やかに見えても、只者じゃないというような空気があると思う。

「こちらは魔王様の治める魔王国でございます。私は魔王国で宰相の地位を頂いている者でございます」

「宰相というには、魔王が死んで何ともないのか?」

「先ほどのものは魔王ではございません。緊張を解していただこうと用意したものでございます」

あの偽魔王に全く、意図はなかった。

「どういうつもりなんだ!?」

「あなた方には謝罪しなければなりません。既に聞き及んでいることでしょうが、あなた方は人間ではなく、年も取らなくなりました。こちらの不手際でございます。誠に申し訳ございませんでした」

「何が謝罪だ! 元々、俺達を始末するつもりなんだろう!」

グレンは剣先を宰相に向ける。

「あなた方と戦う気はございません。ただ、人間でなくなったのは、こちらの落ち度なので、それを知った上で、選んでいただきたいのです。王国に帰るのか、それとも、この魔王国で暮らすのか。魔王国で暮らすのでしたら、不自由ない生活を送れるよう、支援致します」

剣を突きつけられていても、宰相は穏やかなままだ。

「俺達を連れて来たのは、本当にそれだけが目的か?」

「はい、誓って、それ以外の意図はございません」

宰相の言葉を聞き、グレンはあっさり、剣を収めた。

「信じていただけたようで、光栄でございます」

「俺達では、どうせ、お前達に勝てないだろう。挟まれてもいる」

まぁ、宰相とドリーが現れた時点で、わたし達が共犯ということは既に知れているんだろう。

グレンには思い切り、睨まれた気がする。

「俺達が王国へ帰りたいと言えば、すぐに帰ることができるのか?」

「勿論でございます。希望されるのでしたら、王国の王都までお送り致しましょう」

やっぱり、彼らは王国へ帰ることを希望するだろう。

「まだ、聞きたいことがある。謝罪は誰に対してだ? その選択の対象は誰だ?」

「あなた方四人でございます」

「そこのメイは入っていないということか?」

「彼女は対象外でございます」

彼らは、完全にわたしを敵だと認識したのだろうか。

今のは、わたしがこの魔王国側かどうかの最終確認だろうか。

わたしのしたことは責められて当然だ。

グレンはわたしを罵ってくるんだろうか。

わたしは自分の服を握りしめ、身構えていた。

「僕は、ここに残ります」

わたしの耳に届いたのは、罵る言葉じゃなくて、そんなコーディの言葉だった。

「残るわよ」

イネスもまた、そんなことを言う。

「ボクも」

ミアまで、そう言って、わたしの手を握ってくる。

「わたしのせいでそう言っているなら、取り消してください。本当に自分が望む答えを出してください」

わたしは彼らにはっきりと言った。

「取り消すつもりはありません。これは僕の意志です」

「取り消さない。残るわ。どうせ、戻っても居場所はないから」

「ボクも取り消しません」

彼らが口々に言う。

残ってくれるのはうれしい。

でも、それでいいのだろうか。

「あの、それは、すぐに決めないといけないんですか? できれば、猶予があった方がいいと思うんです」

わたしは宰相にそう提案する。

彼らは魔王国のことを知らない。魔王国も見てから、しっかり考えて決めた方がいいに決まってる。

「よろしいでしょう。本日より三日後の朝に結論をお聞かせ願えますでしょうか?」

「わかった。それで、ここに来るまでに、人形が魔王に会うように言っていたが、その魔王はどこにいる?」

グレンの言葉にドキッとする。

さすがに、わたしが魔王だとは気付いていないようだ。

まあ、わたしは、全く、魔王っぽくないと思う。

しかも、未だに治癒魔法しか使えない。

「魔王様でしたら、既にこちらにいらっしゃいます」

宰相の答えを聞き、グレンは玉座へと目を向ける。

もちろん、玉座は空だ。

わたしの鼓動は速くなっている。

「見えないとか言うんじゃないだろうな? 誰が魔王だ? お前によく似たライナスか?」

グレンが宰相を見据えると、宰相は居住まいを正す。

「こちらに残るのであれば、魔王様にお仕えしていただくことになります。魔王様、玉座へどうぞ」

宰相はそういうが、正直、めちゃくちゃ、行きたくないし、あんなイスに座りたくない。

わたしじゃない、誰かに言っているならいいのに……

玉座を見たまま、固まっていたわたしはメルヴァイナに引っ張られて、連れていかれた。

しかも、ライナス、リーナ、ティムにも周りを囲われている。

逃げられないことぐらいはわかっていた。

これ以上、嘘を吐きたくもない。

メルヴァイナに恭しく促され、わたしは玉座に着いた。

少し高いところにある玉座からは、見下ろすように見ることになる。

静まり返った玉座の間は、居心地が最悪だ。

むしろ、魔王らしくして嫌われた方がいいんだろうか……

魔王らしくって何だろう?

結局、わたしは黙ったまま、彼らと目を合わすこともできないでいた。

「魔王国女王、メイ様であらせられます」

宰相がわたしを紹介する。

「メイが……魔王……?」

イネスが呟く。それはわたしにも届く。

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