96話 偽魔王
偽魔王と戦った場所よりもさらに広く、天井も高い。
それだけに柱は聳え立っているという表現が合う。
圧倒されるような、冷たくもあり、美しくもあるような光景だ。
とても魔王城にふさわしいと思う。
この世界に転送され、勇者としてここに来たのなら、まだよかったかもしれない。
これから、まさに魔王を打とうというところだ。
勇者が魔王を倒す最後の戦い、そんなところだ。
まぁ、偽魔王のときもそんな感じだったが、あの時はまだ、勇者パーティの一人のようなものだった。魔王ではなかった。
一応、勇者(今はどうかわからないけど)も一緒にいる。
ただ、なにぶん、すごーーく複雑だ。
一歩一歩が非常に重い。
扉はわたし達が入ると、自動的に閉まる。
少し進むが、やはり誰もいない。
わたし達が玉座の近くまで来れば、現れる気なのだろうか。
普通、玉座に座る魔王が、よくぞ来たとかなんとか、出迎えてくれる、と思う。
今は誰も一言も発しない。
前を行く三人、グレン、コーディ、イネスからは緊張が感じられる。
その三人の後ろをわたしとミア、さらにその後ろに四人がいる。
わたしも緊張する。何が出てくるのか。おそらく、宰相だと思うけど。
むしろ、何を言われるか、という方が問題かもしれない。
何も出てこないなら、もっと進むしかない。
嫌だなと思いながら、重い足を踏み出す。
半分を過ぎ、さらに、歩を進める。
ようやく、動きがあった。
玉座の前から、黒い霧が発生する。
霧から姿を現したのは、宰相ではなく、あの偽魔王だった。
前よりも大きくなっている気がする。
「魔王」
グレンが呟く。
前の三人は臨戦態勢を取る。
ミアがわたしの腕に抱き着いてくる。
後ろの四人は、いつもと変わらない。
どうしてここで、偽魔王が出てくるのだろう。
意図が全く不明だ。
偽魔王は10本の尾を持ち上げて、攻撃の態勢だ。
あの偽魔王は戦う気なのだ。
尾の数も前より増えている気がする。
その尾が襲い掛かってきたのが、開戦となった。
ただ、その尾は、コーディの黒い斬撃で全て切り落とされ、消滅した。
おそらく、コーディが使ったのは、闇魔法だ。
もしかすると、風魔法と合わせて使っているのかもしれない。
短時間でこんなに闇魔法が使えるなんて……
わたしの立つ瀬がない。
魔王としての立場が重要かはわからないけど。
消滅した尾はすぐにまた、生えてきた。
尾が攻撃してくる前にコーディは偽魔王本体に黒い斬撃を放つ。
5本の尾がそれを防ぎ、消滅した。
すぐにまた、尾は生えてくる。
「グレン、イネス、あの尾の相手を頼む」
そう言うと、コーディはグレンとイネスの剣に魔法をぶつける。
その剣は黒く染まった。
「ああ」「ええ」
とグレンとイネスは応じ、偽魔王に向かって駆けだす。
コーディもまた、魔王に向かう。
距離を詰めたところで、グレンとイネスも黒い斬撃で尾を攻撃する。
コーディが本体を叩く。
特大の斬撃が偽魔王を頭から真っ二つに切り裂いた。
偽魔王はあっけなく、消滅した。
「あら、すごいじゃない」
驚嘆の声が玉座の間になんだか、間抜けに響いた。




