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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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94話 宰相との再会

二人が出ていき、扉が閉まったことを確認し、わたしはソファに深く座る。

やけに疲れた気がする。契約したからではなく。

また、この部屋は沈黙が支配している。

しばらくして、メルヴァイナが一人で戻ってきた。

「あの子、優秀でした。すぐに闇魔法が使えるようになりました。これなら、心配ありませんよ」

「そうですか。コーディは何か言っていましたか? その、わたしを責めているようなこと」

実際に、そんなことを言っていたと言われれば、ショックを受けるだろう。

ただ、それは、当然の報いだと思う。

コーディにとっては、命の危機なのだから、当然だ。

「まさか。そんなことは言っていませんでした。気にしすぎですよ」

「ん……」

コーディは優しいから、直接的に言わないかもしれない。

コーディと会っても、その辺りはやっぱりわからなかった。

「そういえば、忘れておりました。メイさまのものではありませんか?」

メルヴァイナがコーディのお守りを自身の指に引っ掛けていた。

「それはわたしのじゃありません。コーディのです」

「ふーん。あの子にしては意外ですけど」

「そうですか? こういうのには頼らなさそうだからですか?」

「そういうわけではないんです。メイさま、そもそも、これは何なのですか?」

「”お守り”と言うんです。わたしの国では一般的で、えーっと、身に着けている人を守ってくれるんです。魔法が掛かっているわけではありませんが」

やっぱり説明にちょっと困る。

「そのようなものがあるのですね。それは女性の下着を入れておくのですか」

「え?」

イネスは結構、大胆かもしれない。だから、見てほしくなかったのは納得だ。

「ま、まあ、そういうケースもあると思います。相手の無事を祈って、自分の髪とか、身に着けているものを入れておく場合もあると思います」

本来は、お札とかが入っているのだと思う。

異世界の神の説明をされても、メルヴァイナも困るだろう。

「メイさまがあの子に渡したのですか?」

「あ、いえ、違います。それは、その、イネスがコーディに」

イネスの名前を出していいのか、迷ったが、言いふらしたりはしないだろう。きっと。

「ふーん? じゃあ、あの子に返しておいてください」

何だか疑われていないだろうか。

メルヴァイナはそのお守りをわたしに渡してくる。

「わかりました」

コーディにとっても、イネスにとっても、大事なものだろう。絶対に返さなくてはならない。

「飲み物とお菓子でもどうですか、メイさま」

メルヴァイナはわたしの前にアイスティーのような色の飲み物と、ケーキを置いてくれた。

リーナとティムとメルヴァイナ自身の前にも同じように置く。

どこから持ってきたのだろうと思う。

それに、わたし達だけ、ここで寛いでいていいのか。

「あの、それより、そろそろ、行かないんですか?」

「ええ、これから、宰相さまがいらっしゃるのですよ。なので、お待ち願います」

「そ、そうなんですか……」

宰相がなぜ?

というより、今回のこと自体、何の為なのか?

はっきり言って、わたしは何もしていない。

失格とか言われるのだろうか?

不安で仕方ない。

「あの、メル姉、この服、やっぱり、何とかなりませんか? 他の服って、ありませんか?」

着るときに、抵抗を感じた服だったが、ちょっと慣れてしまっていた。

コーディには見られてしまったが、これで宰相に会うのだろうか。

「あら、あの子と同じようなことを言うのですね。いくら言ったところで、服は、申し訳ありませんが、それしかありません」

「じゃあ、せめて、下着を」

渡された服には下着がなかった。下着を身に着けないなんて、わたしには耐えられない。

実際には防御力なんてないけど、防御力がなくなる気がする。

まだ、スカートじゃなくてよかった。

「それは、我慢してください、メイさま。私達もそうなので」

言っても、だめだとは思っていたが、やっぱり、だめだった。


宰相が来るまで、わたしはとりあえず、お菓子をちびちびと食べていた。

もちろん、場が持たないからだ。

宰相が来たのは、お菓子を食べ終わり、飲み物を飲み終わり、しばらくしてからのことだった。

部屋に入ってきたのは、宰相とドリーだ。

久しぶりに感じるが、最後に会って、二週間ほどしか経っていない。

「魔王様、お帰りなさいませ」

宰相とドリーが頭を下げる。

「勇者達を連れ帰っていただき誠に感謝しております」

「手違いというのは、彼らが人間ではなくなったことですか?」

わたしは宰相に手違いがあったので、勇者達を連れてきてほしいと頼まれ、王国へと行ったのだ。

その手違いの内容を聞いていない。

「その通りでございます」

宰相は悪びれもせず、淡々としている。

本当に手違いなのか、かなりあやしい。

そこをつっこんでも、証拠も何もない。

宰相と争ってもしょうがない。

「絶対に彼らは無事で、魔王国に残るか、王国へ帰るか、自由にさせてくれるんですよね?」

「はい、勿論でございます。この後、玉座の間で彼らにお会いするつもりでおります。魔王様にもご同席いただきたく存じます」

「同席します」

同席して、宰相が約束を守るか、確認しなくてはならない。

それに、彼らが王国へ帰るなら、今度こそ、お別れだ。

彼らは魔王国に残るなんて選択をするだろうか?

人間でなくなっても、見た目は変わらない。人間でないとわかるのは、体がバラバラにされたときだろう。

彼らにとって、魔王国は悪い印象しかないはずだ。

「ですが、年を取れないのでは、王国での生活は大変でしょうね。あまり長く、一ヵ所に留まることができないでしょうから。あんな国は見捨てて、魔王国で暮らせばいいと思いますけど」

メルヴァイナが言う。

その中に、聞き捨てならないことがあった。

年を取れないって、どういうこと?

「あの、彼らは人間でなくなって、再生能力だけでなく、年も取らなくなったということですか?」

「はい、そうです。魔王様と同じですよ」

「やっぱり、わたしもなんですね……」

わたしはずっと、このまま。大人になれないような気がした。

年を取っても、見た目が同じだと、成長していないように感じる。

大事なことでも、わたしから聞かないと教えてもらえないんだろうか?

確かに、そんなに甘くないと思う。

まぁ、大事なことだと思われていない可能性もある。

「他にはありませんよね?」

「後は、人間以外との混血でないなら使えない属性魔法以外の魔法も使えるはずです。それぐらいですね」

「あ、じゃあ、寿命はどうなるんですか?」

「もちろん、永遠の命というわけではありません。おそらく、メイさまの寿命と同じでしょう。三百年から五百年くらいでしょうか。私達ヴァンパイアも、寿命はそれくらいです」

「そんなに長く……」

なんだか、途方もない。

というより、死ぬまで、ここにいないといけないのだろうか。

わたしは元の世界に戻りたい。それがわたしの目標なのは変わっていない。

「魔王様――」

おそらく百歳以上年上の宰相がわたしに対して、下手に出る。

わたしは緊張して仕方ない。

「誠に彼らには、申し訳なく思っております。できれば、この魔王国に留まってほしいと考えているのです。彼らがこちらで暮らすにあたり、最大限の支援は致します。それが彼らの為でもありますし、この国の為、魔王様の為でもあると思っております」

「国やわたしの為というのは?」

「実は、前魔王様は短命でした。孤立し、引き籠ってしまわれて、自害されてしまいましたので」

そんなにさらっと言われても困る。

それに、そうなるのも、わたしにはよくわかる気がする。

その前魔王も急に連れて来られて、魔王だと言われたのだろうと思う。

「ただ、それでは困るのです。この国は魔王様の力で支えられております。この国の平和と発展は魔王様の力あってこそなのです。ですので、魔王様と親しい彼らにはぜひ、魔王様の傍にいていただきたいと考えております」

要は、国の為に、彼らをこちらに引き込みたいということなのだろう。

わたしが孤立しないように。短命で終わらないように。

この国の国民を盾に取られている気がしなくはない。

でも、最終的に決めるのは、彼らだ。

彼らが王国に帰りたいのだと言えば、わたしはそうなるようにしたい。

「言いたいことはわかりました。確認したいことがあるんですが、彼らが王国に帰りたいなら、すぐに帰してもらえますか?」

「それは勿論でございます」

「それと、彼らを人間に戻すことはできませんか?」

「それは残念ですが、できません」

「わかりました」

そう言われることはわかっていたので、がっかりはしない。

念のための確認だ。

「それでは、玉座の間まで足を運んでいただけますでしょうか。玉座の間の前までは転送魔法でお送り致します。彼らもお呼び致します」

頷くと、わたし魔王と魔王四天王は宰相の魔法により、転送された。

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