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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ②
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87話 契約

階段を上り、しばらく進んだ先にある部屋へとメルヴァイナに連れられた。

大きな窓があり、床には赤いカーペット、中央にテーブルとゆったりとしたソファがある。

そこには、メイがいた。

着ている服は変わっているが、怪我はないようだ。

こうして無事な姿を見ると、安堵の胸を撫で下ろした。

彼女はソファから立ち上がり、僕の方を見ていた。

「コーディ、目を覚ましてよかったです。メル姉が色々と言ってくるから、精神的にダメージを受けているかもしれないとか、無事に目を覚ますかわからないとか」

メイが僕の傍に来る。

彼女の着ている服は胸元が大きく開いている。そこに、目がいってしまい、慌てて視線を逸らす。

「とても、似合ってます。聖騎士の団服も似合うと思いますけど、それもいいです。わたしの服は……これしかなかったんです……」

メイは、恥ずかしそうに言う。

メイの服を見ると、前の服と比べて、随分、露出が高い。太腿まで出てしまっている。

正直に言って、どう答えていいかわからない。

「私はとっても、いいと思うわよ。私は好みよ」

メルヴァイナが口を挟んでくる。今は、はっきり言って、有難い。

メイを直視し辛い。王国の往来でこのような露出の高い服を着ている者はいない。メルヴァイナくらいだ。

「それは、メル姉の趣味だと思います」

「そお? いいと思うんだけど。まあ、今はそれしかないのは、事実だから、我慢してね」

「……これじゃあ、どう見ても、悪役のような……」

仕方がないとは思っているのか、メイはぼそぼそと呟いた。

メイの様子を見る限り、先ほどの拷問室にメイは来ていないのではないかと思う。

さすがにメイ本人に聞けない。他の誰かに聞くこともしたくない。

他に、ライナス、リーナ、ティムがいる。

ただ、彼らの中に、グレン、イネス、ミアの姿が見えない。

三人を捜す僕に、

「後の三人とは離れ離れになってしまったのよ。私達のいた床が崩れて」

メルヴァイナが思案顔を向けてくる。

「そんな……無事かわからないのですか!?」

こんな魔王の城で、離れてしまうことは不安しかない。多くの敵に囲まれたり、先ほどのような罠が他にないとも限らない。

そもそも、魔王に会って、無事でいられるのかは疑問だが。

「ええ、残念だけど。でも、簡単に死んだりはしないわ。彼らも私達と同じだから」

「それはそうかもしれませんが、僕は捜しに行きます」

「わかったわ。でも、私達はすぐには行けないわ。治癒魔法で魔力を消費したから」

「はい。ここでメイといてください。僕一人で行きます」

「ええ、止めはしないわ。それとも、ついて来てほしかった?」

「いえ、一人で行けます。あの、それと、僕の剣はありませんでしたか?」

「剣は無事だったわ。ああ、それと、行く前に、聖女様と契約してから行くといいわよ」

「契約?」

「そう、私達の聖女様とね。メイの魔力はかなり膨大なの。でも、今のままではメイ自身では使えない。だから、あなたが代わりにその魔力を行使するのよ。聖女様の騎士といったところかしら。今回は一時的な仮契約だけど」

「聖女って、わたしのことですか!? それに、契約って何ですか!? 全く、聞いたことがないんですけど」

メイは困惑気味にメルヴァイナに詰め寄る。

「ほら、街で癒しの聖女様って、呼ばれていたじゃない」

「その呼び方はしないでほしいです。それに、治癒魔法はメル姉も使えるじゃないですか」

「そうだけどぉ。ほら、私は聖女より、悪女という感じじゃない?」

「それは知りません」

メイは相変わらず、メルヴァイナと仲がよさそうだ。

「あぁ、それより、契約ね。今、説明した通りだけど、コーディがメイの魔力を使えるようにするのよ。仮契約は簡単。それに、いつでも解除できるから安心よ」

「なんだか、詐欺のような話ですね」

「もうぅ、メイ、詐欺じゃないわぁ。とっても、真面目な話なのよぉ。私も少しは心配しているのよ。やっぱり、一人で行かせることには抵抗があるのよ」

全然、真面目な話には聞こえない。

ただ、嘘ではないと思う。

「どうする? 二人の合意があれば、すぐにできるわ」

メルヴァイナが僕とメイを交互に見る。

「わたしはかまいません。少しでも役に立つなら、契約します」

「それで? コーディ、あなたは? メイと繋がりが持てるわよ」

メルヴァイナがひそひそ声で耳打ちしてくる。

「メイに負荷は掛からないのですか?」

「あなたが少々、魔力を使ったところで、メイに膨大な魔力を消費することは難しいわ。全く、問題ないわよ」

「メイ、僕と契約して、本当によろしいのですか?」

「もちろんです。だから、契約してくれるとうれしいです」

「わかりました。契約します」

なぜだか、緊張する。

「コーディ、メイの騎士になるとでも、思っておいてくれたらいいわ。これから、合流するまで、しっかり、新しい力の訓練をして来て。メイ、合流すれば、コーディに護ってもらうといいわ。あなたの魔力を分けているんだから」

メルヴァイナは急に、真摯な様子で話しかけてきた。

「肝心な、契約方法なんだけど、仮とはいえ、メイからコーディに魔力を供給する道を作らないといけないから、私がその辺りは補助するわね。二人は、そうね、唇と唇を重ねてくれていればいいわ」

「え!?」

僕とメイの声が重なった。

メルヴァイナは何を言っているのか。

「嫌なの?」

「そういう問題ではありません。他に方法はないのですか?」

かなり早口になっている自覚がある。

「うーん、そうねぇ」

「困りますので、他の方法にしてください」

「仕方ないわね。じゃあ、手でも、どこでもいいから、触れてくれればいいわ」

「というより、元々、それでよかったのでは?」

メルヴァイナは不満げに僕を見てくる。

「じゃあ、早く」

メルヴァイナに促され、メイが僕の手を取る。

「多分、大丈夫だと思います」

メイが僕に声を掛けてくる。

すると、突然、僕とメイの周りが青白く光り出す。

その光が収束し、球になる。

「それに、同時に触れて」

メルヴァイナの言葉に従って、触れる。

そこから、線が延び、僕とメイの体を貫く。

特に痛みはない。怪我をしている様子もない。

やがて、その線は消えていく。

「はい、終わり。簡単でしょ」

何かが変わっている感じはしない。

「本当にこれで、できているんですか?」

メイが疑わし気にメルヴァイナに問いかけている。

「ええ、ちゃんと、成功しているわ。心配しないで、メイ」

「では、僕は行きます」

「ええ。でも、使い方は教えてあげるわ。この先で少しだけ、練習してから行くといいわね。それくらいなら、私も付き合うから」

「わかりました。お願いします」

「じゃあ、行くわよ、コーディ。メイは待っているのよ」

部屋を出る前に、メイを見る。

「コーディ、気を付けて。また、後で会いましょう」

メイに見送られ、僕はメルヴァイナと共に、部屋を出た。

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