84話 光魔法
扉を出ると、通路が一直線に延びている。
明かりが灯されており、明るいが、窓がなく外が全く窺えない為、1階なのか疑わしくなる。
しばらく、進むと、左右に通路が分かれ、左側が通路が続き、右側の先には階段がある。
どのような構造になっているか不明だ。
「とりあえず、上に行きましょうか」
メルヴァイナがなぜか取り仕切っている。
「あなた方はこちらに軟禁されていたのですか?」
「うーん。はっきり言って、ここに見覚えはないわね。どこかもわからないわ。だから、言ったじゃないの。転送魔法が妨害されたって」
そのような会話をしている間も、既に、右側、階段のある方へと進んでいく。
階段を上り終えた先には、今までの扉より一回り大きな扉があった。
扉の先に進むより道はない。
ライナスがその扉を開ける。扉はすんなりと開いた。
中は広間になっている。そして、大きな窓がある。横長の広間は、晩餐会場のような雰囲気だ。テーブルなどの家具は何もないが、赤いカーペットに、黒を基調としたシャンデリアのような明かりが天井から下がっている。
全員が部屋に入ると、勝手に扉が閉まってしまった。
窓の外は、暗雲に稲光。雷鳴は一切聞こえない。
あのゴーレムが現れた時のように、床が光る。それも、床のほぼ全体が。
現れたのはゴーレムではなかったが、洞窟で戦った黒い獣だ。あの時の三倍ほどの大きさのものもいて、僕達のいる扉付近を除き、部屋を獣で埋めている。
この部屋の出口と思われるのは、その獣の群れを越えた一番奥だ。
多すぎる……
「さっき、粉々にできなかった分、あなた達で憂さ晴らしさせてもらうわ」
メルヴァイナは目の前の獣達を見ても、何ら、気にする様子はない。むしろ、嬉々として、見渡している。
僕達にとってはこれほどの数は脅威だ。
彼女達を見ていると、どれほど、実力が足りないのかを思い知らされる。
自分の知らない世界がこれほどあるとは知りもしなかった。
本当に、僕の世界は狭かったのだと認識する。
知ろうともしてこなかった。
彼女はどうやってあの獣達を相手にするというのだろう。
一体一体を倒していくことは僕でも可能だ。
だが、これほどの数は……
獣達の視線は僕達に注がれており、敵として認識されているのは明らかだ。
「ほどほどにしろ。破壊はするな」
ライナスがメルヴァイナに釘を刺す。
「わかったわよ。その代わり、今回は私一人でやるわ。手を出さないでよ」
そう言うと同時に、メルヴァイナは一番前にいた大きな獣を蹴り倒し、傍にいた小さい獣に手刀を入れる。
その身体能力は常人離れしている。彼女達の一族は特別なのだろうか。
続いて、身を翻し、多少の距離を取ると、彼女の手の辺りが光った。
彼女が手を動かした瞬間、光の線が横に移動する。
その光の線に当たった獣達が消滅していく。
ほとんど一瞬のうちに、約半数が消滅した。
「本当に手応えがないわね。つまらないわ。全然、憂さ晴らしにすらならないわよ」
「言ったことに責任を持て。一人でやってくれ」
ライナスの言葉が終わらない内に、メルヴァイナは部屋の中央に走り出た。
残った獣がメルヴァイナに襲い掛かろうとするが、先ほどと同じように、光の線が獣達を消滅させていく。
部屋の中にいた獣達は完全に消滅した。
部屋は特に破壊されていない。
あれは魔法なのだろうか?
あんな魔法を僕は知らない。
属性魔法のどれにも当て嵌まるようには思えない。
僕が知らないだけで、実は割と知られた魔法なのだろうか?
グレンやイネスを見てみるが、彼らも唖然としているように見える。
「片付いたから、行くわよ」
メルヴァイナは何でもないように、声を掛けてくる。
「わたし達の出番はありませんでしたね。それにしても、あんな魔法、初めて見ました」
メイは、目を輝かせてメルヴァイナを見ていた。
「そうですね。僕も初めてです」
転移魔法もだが、あまりに知らない魔法が多い。
魔法はあくまで補助の位置づけなので、専門的に学んでいるわけではないから当たり前だ。
そもそも、魔法を専門的に学ぶような学術組織はないはずである。
「今の魔法は何なのですか?」
「私達は光魔法と呼んでいるわ。治癒魔法も光魔法の一種よ」
「光魔法……」
はっきり言って、聞いたことがない。
「それなら、わたしも使えるんですか?」
メイが期待するような眼差しをメルヴァイナに向けている。
「その内、使えるようになるかもしれないわね」
忘れそうになるが、メルヴァイナもメイと同じく、治癒魔法が使える。
魔王とは真逆のような魔法だ。
人を治癒したり、今の魔法もまるで浄化させるような光だった。
聖女が使うような魔法だ。
メイによく似合う魔法だと思う。
治癒術師は貴重な存在で、一般に秘匿されているような存在だ。
治癒術師にのみ、光魔法の知識があるのかもしれない。一般に知らされることのない知識として。
そういうことなら、納得するしかない。




