81話 魔王城のゴーレム 二
「あ、あの、それじゃあ――」
加熱と冷却、やってみよう。もう何でもやってみるしかない。
イネスとグレンに頼んでみた。
「わかったわ。グレン、火をお願い」
「そうだ。コーディ、火力が強まるように、風を送ってもらえませんか? あ、でも、強すぎないようにしてほしいです」
「かまいませんよ、メイ」
グレンが渋々、ゴーレムに向かって、火の魔法を放った。
すかさず、コーディも風魔法を使う。
ゴーレムが火に包まれる。
石のようなものなので、燃えはしないが、熱くはなっていると思う。たぶん。
「そろそろ、水で冷やしてください」
火は消え、イネスが、水魔法を使う。ゴーレムに水が掛かると、じゅわっと音がして、水が蒸発する。
なんだか、料理をしているような気になってくる。
もう一度、加熱を、と思っていたところで、ゴーレムに動きがあった。
今まで、微動だにしなかったのに。突然なんなのか。
ゴーレムは、わたし達に一歩近づいたのだ。
ギクッとする。わたしのせいだろうか。
もしかすると、今の攻撃が効いているということ?
「弱いデスネ。もう少し、寝ていてもヨカッタ」
ゴーレムはあろうことか喋り出した。
「アナタがたでは、ワタシを破壊することはできませんヨ」
ゴーレムがもう一歩、近づく。
「ニンゲン風情ではどうすることもできませんヨ。努力はすべてムダデス。弱いアナタがたに可能性はありませんヨ。ただ、弱さを嘆けば良いのデス」
この嫌みったらしいゴーレムは何なんだろう。
この言語に慣れないような言い方なのに、嫌に流暢に話す。
弱い、弱いと本当になんなのか!?
弱いことぐらい、わかっている。
体力はない。力もない。賢くもない。剣術も全然。治癒魔法もそれで戦えるわけじゃないし、偶々使えただけだ。実力でもなんでもない。努力すらしていない。
本当にだめな要素しかない。
もしかすると、わたしを魔王として覚醒させようとしているのか?
それなら、なぜ、彼らが必要なのか?
よくあるパターンが仲間が殺されて、怒りで覚醒する……
彼らを殺すつもりなのか。
わたしを覚醒させるために。
でも、それは違うと思う。
そもそも、わたしみたいなのが、魔王なわけがない。
全ては嘘だったのか。
ここで、死ぬのだろうか。
「気は済みましたカ。もう、よろしいデスカ」
わたしの思考に呼応するように、ゴーレムが言う。
「ドウシマシタカ」
この空間にゴーレムの声だけが響いている。
誰も何も答えない。
わたしは……
わたしは、腰の短剣を握った。
ゴーレムに向かって、駆け出し、短剣を抜いた。
振り被って、ゴーレムを突き刺した――
短剣は突き刺さることはなかった。
短剣を持つ手に衝撃が伝わる。むしろ、わたしの方にダメージがある。
ゴーレムは無傷だ。
無意味だとはわかっていた。
でも、何もしないで終わることだけはいやだ。
「ムダでしょう。よくワカリマシタカ」
「わかりません!」
わたしはゴーレムを睨みつける。
「僕達もわかりませんよ」
コーディもまた、ゴーレムに風の刃を放つ。
「ボクも最後まで戦う!」
ミアが大声で宣言する。
「しょうがないわね」「ふんっ」
イネスとグレンも傍に来る。
「ムダなことは止めるほうが賢明デス」
ゴーレムがそう言った直後、背後から凄まじい音がした。
見ると、壁が崩れて、穴が開いてしまっている。
穴の中に明かりはなく、暗闇がある。
そこから、複数の足音が聞こえてきた。




