79話 食料確保
洞窟の最奥に扉があった。
真っ黒だが、確かに扉だ。
自然な感じの洞窟に、明らかに人工物がある。
光に照らし出せば、浮きまくっている。
この先が魔王城なのだろうか。
それにしては、外から見た距離と比べると、近い気がする。
簡単には開きそうにない頑強そうな扉だ。
グレンがその扉を押すと、扉は軽々と開いた。
鍵が必要ということもなかった。
グレンが力を込めたようにも見えない。
扉の先は、人工的な床と壁が見えている。
入れと言われているようにしか見えない。
罠とも言えないほど、あからさますぎる。
ずっと一本道で、他に行きようもない。
「行くしかないでしょ。それとも、引き返す?」
イネスに言われる。
「行きます」
わたしがそう言っても、誰も異論は唱えない。
少し進むと、道が左右に分かれていた。左の道には微かに光が漏れ出している。
光は太陽の光でもなく、火による光でもなく、白っぽい魔法の光だ。
道の突き当りにある扉が少し開いているのだ。
中からは、何の音も聞こえてこない。誰かがいるようには思えない。
だからといって、本当に何もいないとは限らない。
無視して、右の道を行くか。
でも、気になる。左の道が。
何か意味がある気がしてならない。
「わたし、あの左の扉、確認してきます」
ひそひそ声で告げた。
左の道に進もうとして、手を掴まれた。
「なりません。気になるのでしたら、僕が見て来ます」
コーディの声は押し殺した声ながら、きつく聞こえる。
「わたしも行きます。見覚えがあるかもしれません」
「……僕の後ろからついて来てください。それと、ミア、何かの気配は?」
「ありません! コーディ様」
ミアが大きめの声を出したので、驚いた。
「ミア、声を抑えて」
「ご、ごめんなさい」
ミアは今度は聞こえるか聞こえないかの小さな声で謝ってくる。耳が倒れて、しゅんとしている。
こんなときなのに、滅茶苦茶、かわいい。
それに、敵が襲ってくることはなかった。
なので、今度こそ、明かりが漏れる扉へと向かう。
コーディが許してくれたので、コーディの後に続く。
できるだけ足音を立てないように慎重に。
扉のすぐ前まで来て、耳をそばだてるが、中から音はしない。
僅かに開いた扉の隙間から中が少しだけ覗けそうだ。ただ、前にコーディがいるので、わたしからはよく見えない。
コーディが振り返って、わたしの耳元で囁く。
「特に何かがいるようには思えません。中央にはテーブルがあります」
もちろん、甘い言葉なんかじゃない。
「中に入ってみましょう」
わざわざ、わたし達の目につきやすいようにしていた。何もないとは思えない。
まあ、罠だったら、かなり間抜けな気がしなくはない。
ただ、罠だとはわたしには思えない。なぜかわからないが、確信がある。
「わかりました」
コーディは特に反対したりしなかった。てっきり、引き返そうと言われると思った。
ただ、絶対にわたしを前には行かせない。わたしも覗こうとしたが阻止された。
コーディはわたしに目で合図を送ると、一思いに扉を開けた。
コーディは警戒しているが、何も襲ってはこなかった。
中は一部屋のみで、他の扉もなければ、窓もない。
ここは魔王城の地下に当たるのかもしれない。
洞窟の位置より魔王城は高い位置にあった。
問題は、中央にあるテーブル。
テーブルの上には、かごがあり、その中には、5つのパン、それに、チーズも入っている。グラスまで5つ置かれている。
わたし達の人数と同じ5つ。
食べろと言わんばかりだ。しかもお腹が空いている。
わたしの確信は、食事の為のセンサか何かだろうか……
パンは、偽物でもないし、黴が生えてもいない。
まるで、お膳立てされているようだ。出来過ぎている。
そういえば、前のときにも同じように食事が用意されていた。
あのときはわたしとミアの分で二人分。
食べても何ともなかった。普通においしい料理だった。
お腹が空かないように配慮してくれているのだろうか。
これまで、わたし達を殺そうという意思も見えない。
ゲームででもあるかのようだ。
ゲーム……
本当にそうなのかもしれない。
わたしは確かに一ヵ月、魔王国で過ごしていた。
不当に扱われるわけでも、蔑ろにされるわけでもなかった。
わたしを利用することだけが目的なら、教育まで受けさせる理由がないように思う。
それに、餓死するくらいなら、いっそのこと、あやしいものでも食べた方がいいような気がしてくる。
とりあえず、わたしは置いてあったパンを掴み、一口齧ってみた。
「メイ!」
それを見たコーディが慌てて止めに来た。が、もちろん、食べても何ともない。
しかも焼き上がってそれ程経っていないのか、食欲をそそるいい匂いがして、外側はパリッとして中は柔らかく、バターの風味が口に広がる。
「おいしいですよ、これ」
そう言うわたしにコーディは呆れているのかもしれない。そんな表情をわたしに見せてはいなかったが。
すると、コーディもかごの中のパンを掴むと、齧りつく。
最初に魔王城に置いてあったパンを食べたわたしがいうのも何だけど、コーディにすれば、結構な暴挙だと思う。
「確かに何ともありません。毒が入っているようにも思えません。とても美味しいです」
「そうですよね。でも、コーディまで食べるとは思いませんでした」
「そ、そうですか? あなたがあまりにも美味しそうに食べるので」
おそらく、コーディが口に入れたのは、毒が入ってないかの確認の為とかだと思う。
まぁ、単にお腹が空いていただけという可能性もないわけではない。
「わたしが得体の知れないものを食べたので、呆れていたんじゃないですか?」
「そんなことはありませんよ」
そう言いながら、コーディは笑っている。全く信用できない。
「しんようできません」
「本当にそんなことはありませんよ。このようなパンは初めて食べます。前にメルヴァイナが持ってきたパンも初めてでしたが、それと同じくらい美味しいですよ」
「あ、それはわたしも思います。それまでのパンは硬すぎたり、パサパサしていたり」
「ちょっと、二人で何をしているの?」
扉が開け放たれ、そこにイネスが立っていた。グレンとミアもいる。
ちょっと、忘れていた。
「食料があったんです。毒も入ってないと思います。このパン、おいしいんですよ」
わたしは三人にも、パンを薦めた。




