78話 魔王城への道程
火の魔法が洞窟を照らす。
この明かりがなければ、中は真っ暗だ。
明かりを灯すような魔法の使えないわたしは、彼らと逸れるわけにはいかない。
逸れれば、二度と会えないような気さえする。
進んでいくが、魔獣か何かに襲われることはなかった。
どういうつもりなのか?
わたし達を消すつもりなら、簡単にできるだろう。
例えば、この洞窟を崩すとか、爆発させるとか。
何がしたい?
まるで、魔王討伐の勇者パーティのようだ。
事実、この先は魔王城。
でも、わたしだけは彼らの仲間とは言えない。
わたしは嘘を吐いて、彼らを連れてきた。
彼らをこんな目に合わせたのは、わたしだ。
もしかすると、この先で、魔王四天王が待ち構えているかもしれない。
もちろん、メルヴァイナ達四人だ。
戦わなければならなくなったら、どうしよう……
勝ち目なんてない。
その時、お腹の音が聞こえた。
多分、わたしじゃないと思う。
「すみません……」
ミアが申し訳なさそうに言う。
「大丈夫よ」
確かに、お腹が空いてきたけど、食料は持っていない。
しかも、ずっと、緊張状態だ。
今まで、何も現れなかったけど、この先もそうだとは思えない。
このまま、ここから出られなければ、飢え死にかもしれない。
飢え死にじゃあ、再生能力も、治癒魔法も意味がなさそうだ。
もしかして、それが狙い?
じわじわ衰弱して死んでいくなんて、嫌だ! いっそ、一思いに殺してほしい。
森を彷徨った時のことがまた、思い出された。
もう、あんなことは経験したくないし、彼らにも経験させたくない。
ここが異空間だとすれば、前回、出られたなら、また、出られるはずだ。
ただ、出たいと願っても、口に出してみても、簡単に出られるはずがなかった。
しかも、足音のような音が聞こえてくる。
メルヴァイナ達かと思ったが、違う。
どう聞いても、四足歩行の動物だ。それが確実に近づいてきている。
もうこのまま、何も出ないんじゃないかと思っていた。
コーディとイネスがわたしとミアの前に庇うように立つ。
「コーディ、イネス」
わたしは前に立つ二人に声を掛けた。
できるなら、わたしも一緒に横に並んで戦いたい。
「あなたの治癒魔法もありますし、これくらいの対処ができなくては、騎士なんて務まりません」
「そうよ」
明かりの中に黒い動物が入った。
狼のような姿だ。それが三匹。立ち止まり、威嚇するようにわたし達に顔を向けている。
鋭利な刃物を突き付けられているように、鋭い目だ。
鳴き声などは一切聞こえない。足音以外の音を全く立てていない。
本物の動物ではない。闇魔法で作られたものだ。
救いなのは、それほど大きくはないことだ。大型犬ぐらいのサイズだ。
ただ、戦った偽魔王も同じく闇魔法で作られたものだった。
強さのほどは不明。
でも、いいこともある。闇魔法なら、わたしの魔法でも消し去れるかもしれない。
三匹は一気に襲い掛かってきた。
三匹は三人の剣の一閃のもと、掻き消えた。
逆に呆然とした。
あまりに相手が呆気なかった。
まあ、最初だからかもしれない。
それでも、わたしの剣の腕ではきついかもしれないが。
わたしなら、噛みつかれて、血が噴き出しそうだ。
彼らは一瞬で倒したと言っても、あんなものに睨まれれば、体がすくむ。
前もそうだったが、彼らはよく立ち向かえると思う。
また、彼らに戦わせて、護られていただけだ。
「もっと、強いと思っていたわ」
イネスがポツリと漏らす。それは、余裕というわけではなく、どこか不安そうにも思える。
わたしも逆に不気味に思う。
「メイ、ミア、離れないようにしてください。必ず、戻りましょう」
「はい、コーディ」
今はとにかく、ここから出ることが優先だ。
余計なことは今は、考えない。
彼らを無事に王国へ。それだけだ。
その後も、同じようなものが三回出てきた。
出てくるたびに、一匹ずつ増えていくのだ。
強さは変わらない。剣で斬れれば、消える。
六匹いても、彼らは苦も無く倒した。
さすがだ。剣術をずっとやってきただけある。
わたしの出番はない。
ただ、いつまでこれが続くのか、何匹まで増えるのか。
「魔法は使えないですか?」
「発動前に襲われると思います。頭数が少ないなら、剣を使う方が確実です。魔力も無駄にできませんし、洞窟が崩れる可能性もあります」
コーディが答えてくれる。
そういえば、王国での魔法はあくまで補助だと言っていた。魔王国では補助というレベルではなかったので、うっかりしてしまう。
それに確かに洞窟で属性魔法は危険な気がしてきた。
五回目は七匹。
彼らは、難なく倒した。
七匹でも、同時に襲ってくるわけではなく、時間差があった。跳躍してくるわけでもなく、攻撃は割と単調だ。
プログラムされた動作を行っているだけのようだ。
洞窟内ではそれが最後の戦いだった。




