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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ①
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77話 魔王城攻略へ

呆然自失とはこのことだろうか。

わたしの目には、聳え立つ魔王城が見えている。

まぁ、おそらく、魔王城だ。

怪しく不気味な魔王城の背後には、暗雲立ち込め、雷鳴が轟く。

わたしの理想の? 魔王城。わたしの想像通りの魔王城だ。

まだ、一人きりでないのは救いだった。

わたしと同じように、魔王城を見つめる四人がいる。

魔王四天王の姿は見えない。

次に考えたことは、騙されたということだ。

やっぱり、わたし、裏切られた……?

後ろを見るが何もない。荒涼とした大地が広がるばかり。

王国に戻れる気がしない。

前には魔王城。

この魔王城を攻略しろと言われているようだ。

わたしが魔王だという保証は何もない。

とてもあやふやな身分だ。

騙されて、捨てられたのだろうか……

一緒にいる四人、彼らにも申し訳なさすぎる。

というより、話が違うと、責められそうだ。

ついさっきまで、わたし達は王国の街の大聖堂にいた。


魔王国へと戻る前日の夜はさすがによく眠ることはできなかった。

アリシアの姿が浮かぶ。

ゼールス邸の庭園で会ったアリシア。

鮮やかな赤い髪に、空色の瞳、太陽のような明るい笑顔が浮かぶのだ。

そして、大聖堂で見た彼女の顔も。

わたし自身が今、どんな気持ちなのか、自分でもよくわからない。

彼女はいなくなってしまって、もう会えない。

魔王国へと戻る朝は気が重い。

朝食の席でも、誰もが無言だった。

また、あの大聖堂へ行くのだ。

光の降り注ぐ美しい大聖堂、何もなければ、行きたくないということはない。

大聖堂の中に入っても、大聖堂の美しさに変化はない。

祭壇前には棺が置かれている。

胸が締め付けられる気がする。

「彼女との別れはいる?」

メルヴァイナは奥の棺に視線を送る。

「不要よ。今は死者のことよりも大切なことがあるわ」

イネスが淡々とした口調で答える。

「わかったわ。じゃあ、すぐに行きましょう」

メルヴァイナはすぐに、転移魔法を使った。


そうして、わたし達は転移先、魔王国へと着いた。

その場所に、メルヴァイナ達、魔王国の四人の姿はなかった。

こんなはずではなかった。

転移先ですぐに宰相と会うのだと思っていた。

わたしが勝手に思い込んでいただけだ。

そうならいいのに、と。

こんなことばかりだ。

わたしはきっと、色々と間違えているんだろう。

わたしはそれに気付きもしていないかもしれない。

何とかなるなんて……

彼らに憎まれてもおかしくない。

わたしは立ち尽くしていた。

「メイ、大丈夫よ」

「僕達は、既に覚悟できています。元々、もっと早くに生贄となって死ぬはずでしたので」

「今度こそ、ボク達がメイを護るから」

グレンはふんっと鼻を鳴らす。

彼らはそんなどうしようもないわたしを責めたりしなかった。

「ごめんなさい……わたしのせいで、こんなことに……」

死ぬかもしれないのに、わたしだったら、恨んでしまうかもしれない。

彼らはこうなることをわかっていたようにも思う。

わたしだけが、ちゃんと考えられていなかった。

魔王だということも疑っていたはずなのに……

「メイ、ずっと、ここにいても仕方ないわよ」

「はい……」

「早く行くぞ。どうせ、あの城に行くんだろ。メイ、抜け道は知っているのか」

さすがに正面突破は気が引ける。

ただ、抜け道なんて、知っているわけがない。

「あ、あの、こちらから行けませんか?」

ミアが少し離れたところからわたし達に声を掛けてくる。

ミアのいる場所まで行くと、ぽっかりと洞窟のような穴がある。

その洞窟が延びているのも、魔王城の方角だ。

「誘われているようですね」

コーディの感想は、事実、その通りじゃないかと思う。

ここから行くのか、それとも、いっそのこと、正面突破か?

「メイ、他の方が捕らわれているのはどの辺りか、わかりますか?」

えっ、と口から出そうになった。

そういえば、そういう話になっていたんだった。

実際には捕らわれている人なんて、いない。

彼らを連れてくるための嘘だ。

わたしは本当に、愚かだった。

「わからないのであれば、仕方ありませんよ」

優しい彼らと一緒にいるのは、それはそれで辛い。

「メイ、あなたが決めて。どうするのか」

イネスがわたしを見据えて言う。

「僕達は何があっても、共にいます」

「この洞窟から行きます」

わたしは洞窟を選択した。

きっと、どちらを選んでも、結果は同じだろう。

きっと、ここは異空間だろうから。

「わかったわ。魔獣が出てこないとも限らないし、何が出てくるかわからないわ。注意して行きましょう」

前に、ミアと異空間に閉じ込められたときは、敵はいなかった。

今度もいないとは限らない。

もしかすると、宰相の目的は、わたし達を殺すことなのかもしれない。

「あの、少しだけ、コーディと話してもいいですか?」

「少しなら、いいわ」

イネスはグレンとミアを連れて、わざわざ離れてくれる。

「あの、ここにいてもらって、大丈夫です」

そう言ったが、彼らは離れてしまった。

別に秘密の話でもなんでもない。

コーディにもらった高価な短剣のことだ。

今まで、返せていなかった。

「コーディ、あの、この短剣のことなんですが――」

わたしは腰に付けたままの短剣を示す。

「かなり高価なものだと聞きました。わたしが持っているべきではないものだと思います。ですが、今は武器が何もなくなってしまいますので、無事に王国に帰れるまではこのまま貸しておいてほしいんです」

「それはあなたに贈ったものです。返していただく必要はありません」

「ですが――」

「では、”おまもり”だと思って、持っていてください。あなたがイネスに話されていた”おまもり”とは少し違うかもしれませんが、王都では、旅立つときに、無事を祈り、自分のものを渡すという習慣があります。僕はあなたに持っていてほしいのです」

コーディにしては少し早口だ。

確かにイネスとミアに”お守り”のことを話したことがある。

この世界に来たときに持っていたバッグに入っていたのだ。

それは魔王国の監視施設から王都に送られてしまったらしく、バッグ毎、行方不明となっている。デリアからもらった服も、イネスからもらったワンピースも。

コーディはイネスから”お守り”のことを聞いたのだ。

コーディが上着の裏側から小さな布の袋を取り出す。それがコーディの”お守り”なのだ。

「身を守ってくれるものだと聞きました。僕もずっと持っているのです。なので、それはあなたが持っていていただけませんか」

そこまで言われて、返すわけにもいかない。

「わかりました。わたしが持っています。でも、必要になれば、いつでも言ってください」

”お守り”はイネスからのプレゼントだろう。

二人は本当に仲がいい。

何が入っているのだろう。中のものについて、イネスから質問されたとき、どう答えていいか、かなり迷った。

とりあえず、想いを込めたものだと答えておいた。

もしかすると、イネスの持っていたものを入れているのかもしれない。

そういうものをもらったのなら、この短剣はむしろ、イネスに贈った方がいいんじゃないかと思う。

それでも、一度、わたしに贈った手前、プライドとかで返されることを拒否しているのかもしれない。

わたしと親しくしすぎて、二人の関係が壊れないことを祈るばかりだ。

「この袋を開けると、災厄が降りかかると聞いたのですが、本当ですか?」

「え? そこまでは言っていません。確かに開けるべきではありませんが、そんな恐ろしいことはありません。効果がなくなるとか、そういうことです。それは、多分、イネスに揶揄われたんだと思います」

イネスはきっと、よほど中のものを見られたくなかったのだろう。

そんなに言われたら、見たくなってしまう。

「やはり、そうなのですね。僕も何となく、そう思っていました」

「でも、開けてはいけませんよ」

「ええ、わかっています。効果がなくなるのは困りますから」

そこまで話すと、離れていたイネス達が近づいてくる足音が聞こえた。

「それを開けると、災厄が降りかかるように、想いを込めておいたのは事実だから。気を付けて」

イネスがしっかりとコーディに釘を刺す。

無表情のまま、淡々と言うイネスが少し怖い。

でも、こんなところなのに、こんなに呑気でいいのかと思ってしまう。

というより、わたしとコーディの会話をしっかり聞いていたらしい。

「もう、いいだろ? グズグズするな。行くぞ」

グレンも一応、大人しく待っていてくれたようだ。

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