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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
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73話 アリシアの行方 二

深夜に降った雨は上がっていて、灰色の雲の後ろから朝の光が漏れている。

時間がない。

深呼吸してみて、焦る自分を落ち着けようとする。

明日には魔王国へ戻らなければならない。もし、遅れたことでアリシアに何かあれば、取り返しがつかない。

こんなことをしている場合じゃないのにと、思う。

思うけど、あまり朝早くに行くわけにもいかず、まだ、宿に留まっている。

宿を出たのは、大聖堂での礼拝が終わってからだ。

時間を見計らい、ライナス、ティムを除いた七人で、大聖堂へと徒歩で向かう。

道はまだ濡れていて、水たまりができていて、空や周りの建物を映す。

通りにはすでに人が行きかい、どこか華やかにも思える。

わたしはフードを被り、できるだけ目立たないようにする。

大聖堂は何度来ても、圧倒される。

中に入ると、本当に美しい。本当に神聖に思える。

コーディとイネスが取り次ぎをしてくれたことで、神官長にはすぐに会えることとなった。

神官長は以前に会った優しそうなおじいさんだ。

わたし達は神官の一人に一室へと案内された。

部屋は、華美ではなく、上品な印象の部屋だった。

そこでは穏やかな表情の神官長が迎えてくれた。

「ご帰還、大変喜ばしく思っております」

神官長は微かに微笑み、本当に喜んでいる様子だ。

「訪ねて来られた理由も存じております」

コーディとイネスがすでに話をしていたのだろうか。

その割には、コーディがさらに訝し気に神官長を見ている。

「昨夜、そちらのお二人が訪ねて来られたのです」

神官長はメルヴァイナとリーナを示した。

わたしは気付いた。神官長は魔王国の協力者なのだと。

魔王国は王国を内部から侵略する気なのだろうか。

でも、なおさら、人間ではないかもしれない”黒い剛腕の女”との関係は怪しくなる。

というより、アリシアが知ってしまったのは、魔王国との関係で、それのために狙われたということも十分に考えられる。

それに、メルヴァイナ達が嘘を吐いている可能性もある。

信じないようにしようと思っていたのに、そんなことはないと思ってしまっていた。

一人、裏切られたような気持ちになっていた。

もっと気を引き締めないといけない。

そういうこともあると、ずっと、考えていたはずだ。

「ええ、そうね」

メルヴァイナは動じることもない。

まあ、協力者なら念入りに口止めしておくはずだ。

そんな単純なミスを犯すような彼女達じゃない。

だからといって、信用するということにはならない。

「昨日お話ししたようにシリル・ウェッジはこちらに仕える神官に間違いございません。ただ、詳しいことは何も知らぬようです。確かにあの二人の神官へ頼んだことは覚えておりましたが、どうしてそんなことを頼んだのかわからないと申しております」

不都合なことを隠す人の常套句のような気がする。

後、話に魔王国関係のことは出てきていない。

「それで」

「実は、この大聖堂へ女性の遺体が運び込まれたという情報がございます。通常はあり得ません。まして、長たる私に無断で。まだ、確認はできておりませんが、遺体の女性は貴族令嬢のような装いで、喪服のようであったと」

それを聞き、わたしは自分の服をギュッと掴んでいた。

それはどちらなのか……

順当に考えれば、それは、村に匿われていた女性だ。

アリシアの可能性が高い……

アリシアが喪服だったなら、グレンが死んだと思っていたからだろう。

「それはどこからの情報なの? それに、その遺体はどこ?」

メルヴァイナは落ち着いた口調で問いかけている。

「別の神官です。ただ、その者も、詳しいことは知らないと申しております。地下墓地等も捜しましたが、遺体は見つかっておりませんので、単なる噂や勘違いの可能性もあります」

神官長は歯切れの悪いことを言う。

「運び出された、とは聞いていないのね」

「はい、聞いておりません」

「動くのを待っていてもいいけど、いつになるかわからないわね。私達の方から打って出るべきかしら」

「如何様にも」

神官長からは穏やかそうな表情は消えている。

「今日のここの一般への開放を止めてもらえる? それと、ここで好きにさせてもらうわ」

「承知いたしました。他に何かございますか?」

「とりあえず、それでいいわ」

「お伺いしたいことがあるのですが、アリシア嬢とは関りがあるのですか?」

コーディも落ち着いた口調ではあるが、どこか棘のあるように感じる。

「直接はありません。ですが、この町への魔獣襲撃の件で、ジョシュア・ゼールス様とは話し合っておりました。襲ってきた魔獣は話に聞いていたものとはあまりに違っておりました。特にこの辺りでは魔獣が現れること自体が稀です。私達は今回のことを故意に起こされたものではないかと疑っております。本当にそうであったなら、もし、魔獣を操ることができるとすれば、それは脅威となります。ゼールス様はその調査に乗り出されておりました」

わたしは、調査させるように神官長が仕向けたのではないかと疑っている。

「ゼールス様が危惧されていたのは、領民の安全、それに、ご家族の安全です。そんな時に、お嬢様が見知らぬ者と接触していたという話が耳に入ったのだそうです。見知らぬ者と接触していたのはわかっているだけで2回。内1回は、魔獣襲撃より前のことです。むしろ、お嬢様は、魔王の元へ行くあなた方を引き留めたいと思い悩んでいらしたようです。親しいあなた方が魔王の元に向かった後は、大変悲しんでいらしたご様子で、ゼールス様も気に留めていらっしゃいました。それは、ゼールス様の弱みになります」

「調査を止めさせる目的で、アリシアさんを誘い出して捕まえて、ゼールス卿を脅していたということですか!?」

わたしは落ち着いて話すことはできなかった。はぐらかされるような気がしたのだ。

「お嬢様の行方が知れないことは存じております。ですが、脅されていたということはないようです。教会で匿っていた事実もございません」

「それは、あなたが知らないだけではないんですか?」

「そうかもしれません」

「……」

アリシアさんは勇者を引き留めたいなんて言っていなかった。そんなことはできないと言っていたのだ。

わたしはどうしようもないことだから、無事に戻ってくることを祈っているのだと思っていた。

もちろん、わたしはその時、勇者が生贄だということは知らなかった。

それに、アリシアが悪いような言い方はしてほしくない。

「もう一つ、黒いドレスを着た力の強い女性のことは知りませんか?」

コーディが問うと、

「存じません」

という予想通りの答えが返ってきた。

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