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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
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70話 惨劇の村へ

わたし達は全滅した村にも行ってみることにした。

村の近くに転移もできるそうだけど、しばらくは歩くことにした。

よく晴れた空に、木々の鮮やかな緑。危険な感じはしない。ハイキングコースのようだ。

しばらく歩くが、特に何もない。代り映えのしない同じような景色が続いている。

道の左右に開けた草原がある。点々とこんもりとした緑の塊が見えている。離れているので小さく見えるが、そこそこの大きさの森だろう。

手がかりを求めて歩いていたが、見つけることはできない。

ミアもアリシアの気配は感じないと言う。

「言っておきますけど、魔王国は関係ないですよ、メイさま」

メルヴァイナが耳元で囁いた。

「えっ? でも……」

「もちろん、私やライナスでもありません。そんなことをする意味がないですから。確かに、人間じゃないことを知られて、口封じということもあるかもしれませんけど、やっていませんよ」

メルヴァイナやライナスを信用しすぎるのはよくないけど、今回のことは関係ないと思う。

それより、わたしには今の状況の方が気になる。

メルヴァイナは最初こそ、囁き声だったが、今は普通に話している。

「メルヴァイナ、声が大きすぎるんじゃないですか?」

「大丈夫です。周りには聞こえないようにしています」

「まあ、それならいいんですけど。それより、アリシアさんのことは本当に知らないんですか?」

「残念ながら、本当に知りません」

「メル姉が調べていることに関りはあるんですか? 村の全滅のこととか」

「それが、本当にわからないのですよ。村について、可能性があるのは、あの”黒い剛腕の女”の単独犯。その女を見つけて、捕まえるしかないですね。むしろ、私達が調べたいのは、街の魔獣襲撃の件です」

「人間が森を切り開いて住処を失った魔獣が勝手に襲ってきたわけじゃないんですね。それに、”黒い剛腕の女”が全くの無関係とは言えないんですよね。それなら、調べる必要があるんですよね」

「まあ、そうですね。なので、私とライナスも加わったのです。もちろん、協力者に調査は継続させていますよ」

「対象はゼールス卿か大聖堂の代表ですか?」

「ふふふ。私もその二人は怪しいと思いますけど、証拠がないのです。証拠を突きつけて、正すのが目的ではありませんから、必ずしも必要ないのですが。それに、そもそも、全く関係ないのかもしれません」

やっぱり、魔王は問題と不幸を呼び寄せるのだろうか。

せめて、王国にいる間に憂いは取り除いておきたい。

「そういえば、魔獣は魔王国から放たれたんじゃないんですか?」

「魔王国に魔獣のような危険なものはいないのですよ。あれは作り出されたものです。自然に発生しているものではありません。私も実物を見たことはありません」

「え!? てっきり、魔王国には町の外とかに、うようよいるのかと思っていました。じゃあ、どうして、王国にはそんなものがいるんですか?」

「その辺りはもう少し、落ち着いたときにしましょう」

メルヴァイナがそう言い終わった後、誰かが近づいてきた。

「ライナス兄様が戻ってきた。行くぞ」

ティムだ。

ここから、全滅した村まで転移する。その前にライナス一人がその村に偵察に行ってくれていた。

転移先の様子は実際に転移するまでわからないからだ。

「村には誰もいなかった」

ライナスが言う。

もしかすると、まだ、軍人がいるかもしれないと思っていたが、そうではないらしい。

早速、ライナスは転移魔法を発動した。

景色は切り替わり、今まで見えていた草原は村に変わった。

ライナスが言ったように誰もいない。

村は不気味に感じる。

まだ、日も高く、死体もないし、見たところでは荒れた様子もない。ただ、村人がいないだけだ。

村人は既に埋葬されたのだろう。

何日か前までは普通に村人が生活していたはずの村だ。

知らなければ、突如、村人だけが消えてしまったような印象だ。

村を見て回るが、特に変わったところはない。

この村も壁で囲われている。壁は家の塀のようなもので、町の防御壁に比べると、頼りない。その壁が崩れているところはない。村の入口も閉じられていた。

確かに、魔獣が暴れたということはないだろう。

それでも、何か得体の知れないものが潜んでいそうな不気味な雰囲気がある。

おそらく、惨劇が起きた村だから、そう感じるだけだろうとは思う。

村を一回りしたが、何も見つからない。

まだ、家の中には入っていない。

入りたいとは思えない。メルヴァイナの話によれば、ほとんどの村人が家の中で殺されたと言う。

その痕跡を目の当たりにしたくなんてない。

「じゃあ、私とライナスとグレンとコーディで家の中は見てくるわ。ここで待っていて」

メルヴァイナはそう言うと、グレンの腕に自身の腕を絡めて、強引に引っ張っていく。

グレンは何やら文句を言っていたが、メルヴァイナはお構いなしだ。

ライナスとコーディはその逆方向の家へと向かっていった。

わたしが今、いるのは村の中央だ。まっすぐ、村の入口が見えていて、多くの家々が見えている。

その景色は少し前にいた村とあまり変わらない。ただ、この村の村人は全員殺された。

正直、わたしはほっとしていた。家の中に入らずに済んで。

メルヴァイナには見透かされていただろう。

「メイ」

ミアの不安そうな顔が目に入った。

「危険なことはないわよ」

今度はわたしから、ミアの手を取った。

「ええ。メイ、ミア、大丈夫よ。それに、あなた達も。何があっても、必ず、護るから」

イネスが不器用に励ましてくれようとする。いつもの単調な口調から少しだけ起伏がある。

「俺達は平気だ」

ティムは相変わらず、ぶっきらぼうに言い放つ。

「私も大丈夫です……」

リーナの小さな声がする。

リーナやティムは強い。でも、強いと言っても、不安にならないわけでも、何も怖くないわけでもないだろう。

こんなとき、気の利いた話でもできればいいのに、何も浮かばない。

元気が出るような明るい話や笑顔になるような面白い話ができればいい。

でも、わたしには難易度が高い。

結局、わたしは何の役にも立っていない。

アリシアを捜したいと言っておきながら。

誰かを頼らざるを得ない。

わたしは平気なふりをして、ミアを手を握り、ただ、待っていた。

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