69話 手がかりを求めて 二
わたし達は畑に沿った道を歩く。
村長にも聞いてみたが、特に手がかりは何もなかった。
休憩していかないかと誘われたが、辞退し、すぐに村を出たのだ。
わたしは村での出来事とか、”黒い剛腕の女”とか、詳しくは聞いていない。
”黒い剛腕の女”については、黒いドレスを着た女性で、グレンやコーディを圧倒するほど力が強くて、後、ライナスが腕を切り落としたのに声を上げないほど我慢強いという情報だけだ。
想像すると、その光景はすごく怖い。
一人だったら、絶対にそんな現場へは行けない。
殺人が起きた場所に肝試しに行くような気分になる。
「大丈夫ですか?」
コーディの優しい声にちょっと安心する。今は、一人じゃない。
彼に縋り付きたい気分だ。そんなことしないけど。
「あ、えっと、大丈夫です……」
そう答えると、手を握られた。
コーディがいる方と逆の方の手を。
視線を向けると、ミアだった。
「メイ、ボクがついてるから」
「うん、大丈夫」
わたしはミアの手を握り返す。
二人で異空間に閉じ込められたときを思い出す。
でも、今は、二人だけでもない。
「あら、いいわね、メイ。コーディにも手を繋いでもらえばいいわよ」
「両手が塞がると歩きにくいです」
大体、そんなことをしたら、仲良し三兄妹みたいで、恥ずかしすぎる。しかも、より子供っぽく見えてしまいそうだ。わたしが。
「そう? じゃあ、私がもらっちゃおうかな。私も怖いのよぉ」
メルヴァイナがコーディに腕を絡める。
「止めてください」とコーディは素っ気ない。
メルヴァイナは女のわたしから見ても、美人だと思うけど、コーディは全く彼女になびかない。
照れ隠しというわけでもなく、本気でただ迷惑なだけとしか思ってなさそうだ。
「コーディに迷惑掛けないで」
イネスに一途なのだろう。気に掛けるなら、わたしよりイネスを気に掛けてほしい。
イネスは望まなさそうだけど。イネスは人に頼るタイプではないと思う。
わたしもできるなら、人に頼りたくない。
とはいえ、この九人でわたしが一番弱い。剣術も高が知れてるし、力も急に強くなるわけじゃない。
それでも、再生能力があるから、中々、死にはしないだろう。
……やっぱり、人間じゃない。
また、考えが飛躍する。
「はいはい。離すわよ。何を考えているのかしら?」
メルヴァイナの行動は諦めているようなコーディから渋々、メルヴァイナは絡ませた腕を離した。
メルヴァイナのおかげで、大分、落ち着いたのは事実だ。
よく考えれば、わたし達の方が化け物だった、ということはこれ以上考えないようにしよう。
今は、アリシアを捜さなくてはならない。
このまま、魔王国に帰るなんて、できない。
「何も考えていません」
「そう。それより、もう、そこよ。”黒い剛腕の女”に会った場所」
メルヴァイナが指差す。
もちろん、指差す先は何でもない今歩いている道の延長上だ。
腕が落ちているわけでも、血痕が残っているわけでもない。
わたし達の他、近くには誰もいないが、離れたところの畑の中には、村人の姿を確認できる。
昼過ぎの長閑な光景だ。
「ミア、何か、気配とかはある?」
「ごめん、何もないよ」
「いいの。時間も経ってしまってるし」
気配が残っているということには期待していなかった。
手がかりも特に何もない。
「この先、道を辿っていくと、全滅した村があるわ。どうして、その村だけ、皆殺しにされたんだと思う?」
メルヴァイナが問いかけてくる。
「口封じ? 正体を知られたくないとか、知ってはいけないことを知ってしまったとか? それか、見せしめか、ただ、単に愉快犯ということもあるかもしれないと思います」
「村には大勢が押しかけた形跡も、争った形跡もなかったわ」
「盗賊や軍ではないということですか?」
実は軍が関与していると考えなくもなかった。
軍がその村で極秘の実験をしていたという話は、いかにもありそうだ。完成して、もしくは、失敗か問題が起きて隠蔽。
「さあ、背後に誰がいるなんて、さすがにわからないわ」
メルヴァイナの返答には、実は想像がついているのではないかという気がしてならない。
後、関与しているかもしれないのは、領主。
「ただね、ほとんどが家の中で殺されていて、逃げて殺されたような村人はいなかったわ。一撃で仕留められていたの」
村人が寝ていたとしても、誰かが叫び声くらい上げただろう。
薬を盛るにしても、全員に盛るというのは難しそうだ。
できるとすれば、もちろん、魔王国である。
そして、一番、関与を考えるのが、魔王国だ。
魔王国ならできるだろう。メルヴァイナやライナスなら、一人でもできるかもしれない。




