67話 わたしとミアの苦悩 二
「ミア、その、何か気付いたことがあった?」
わたしのことを嫌いになるとしても、早くはっきりと言ってほしい。
人間じゃない事実を突きつけられても。化け物だと言われても。
そうすれば、全て、打ち明けよう。
「はっきりと言ってほしい。お願い、ミア」
「メイ……」
ミアは悩むような、困ったような表情を浮かべる。
ミアは意を決して言う。
「ボク、前にいた村でアリシア様の気配を感じたの」
ミアの言ってことはわたしが想像していた内容ではなかった。
ミアが言ったのは、アリシアの手がかりだ。
これまで全く見つからなかったアリシアに繋がる手がかり。
アリシアがその村にいるかもしれない。
「本当にっ! アリシアさんがその村にいるの!?」
思わず、大きな声が出た。
ちょっと、ミアをびっくりさせたかもしれない。
ミアは、というと、特にびっくりした様子もなく、続きを言いあぐねているようだ。
でも、手がかりがあるなら、言えばいいはずだ。
ミアはそうしなかった。
何か、あるのだ。そうしなかった理由が。
多分、よくない理由だ。
まさか、アリシアさんはすでに……
聞きたくない。でも、聞かなくてはいけない。
どう言えばいいか、戸惑う。
「ミア、アリシア嬢のことを教えてほしい。他に手がかりがないんだ」
コーディがミアに言う。
「コーディ様……わかりました……」
ミアはわかったと言っても、何か考えているようで、中々、話さない。
「その、絶対というわけではないんです。ボクはワーウルフだから、人よりは感覚が鋭いと思います。それでも、ほんとうにアリシア様か、間違っているかもしれません」
「それでも、かまわないから。間違っていたなら、また、捜せばいい」
わたしはミアが話してくれるように促した。
「ボク達がいた村、えーと、全滅したっていう村の隣の村だけど――」
「その村に?」
「村にはいません。気配を感じたのは、グレン様とコーディ様が村の外に出て、戻ってきたときです。アリシア様の気配に似ていると思ったんですが、こんなところにいるわけないから……」
「ミア、それは仕方のないことだ。僕でも、同じ立場ならそう思った。その気配を感じたというのは、その、黒いドレスの女性とライナスやメルヴァイナに会った時のことだろうか?」
コーディが問う。
「そうです、コーディ様」
ライナスやメルヴァイナは多分、関係ない。
黒いドレスの女性こと、黒い剛腕の女がアリシアさんということ?
ちょっと考えられない。
彼女がそんなに強いと思えない。
イネスですら、グレンやコーディに力で敵わないのだ。
それにグレンを攻撃するなんてことはないと思う。
ただ、黒い剛腕の女にアリシアが捕まっているということもあるかもしれない。
「ミア、その気配というのは、どういうものなの?」
「説明するのは、少し難しいんですが、うーん、ほとんど、感覚的にわかる感じです。多分、匂いとか、魔力の種類とか、です」
匂いに関しては、犬とかは嗅覚に優れているからわかるが、後はよくわからない。
それでも、全く無関係かは判断のしようがない。
「”黒い剛腕の女”と関りがないとは言えないのね」
「そうですね。その女性がアリシア嬢だとは思えませんが、近くにいた可能性がありますね」
コーディもわたしと同じように考えているのだろう。
「その場所に行けば、何かわかるかもしれません。できれば、これから行きたいですが……」
その村へまともに行けば、今日中には明らかに着かないだろう。
それなら、転移魔法を使うしかない。
ただ、その村へは、ライナスかメルヴァイナでなければ転移できない。
リーナもティムも村へ行ったことがない。
ライナスとメルヴァイナとは、夕方まで落ち合う予定はない。
「あの――」
リーナがおずおずとわたしに声を掛けてきた。
「リーナ、何かいい方法が?」
「お兄様とお姉様に連絡を取ることはできます……」
「そんなことできるの?」
「はい……」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「はい……」
「ライナスとメルヴァイナを呼んでほしいの。できれば、村に連れて行ってもほしい」
「わかりました……」
そう言った後、リーナは、口を閉ざし、何かに集中しているように思える。
おそらく、通信の魔法なんだろう。
使えれば、便利そうな反面、何度も通信があると、疎ましくなりそうだ。
やがて、通信が終わったのか、リーナがわたしを見る。
「終わりました……お兄様とお姉様、来てくださるそうです……ティムも来ると……」
「ありがとう、リーナ。それに、ティムにまで」
「いえ……」
リーナは恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ミアも、手がかりをありがとう」
「メイぃ」
ミアがわたしに抱き着いてくる。
手がかりが何とか、見つかった。アリシアに関係があるかはわからないけど、”黒い剛腕の女”に会って、確認する必要がある。
わたし達は、しばらく、その場で待っていた。




