65話 アリシアの捜索
「ライナス、なぜ、あんな話を? 放っておくっていう話じゃなかったんですか?」
宿に戻ってすぐ、ライナスを追いかけたわたしは彼の部屋の前で声を掛けた。
わたしは彼の部屋に押しかけた。
部屋には私物は一切見えない。
「魔王国に関係ないのであれば、王国に不必要な干渉はしない。王国で不審な動きがあるらしい。伯父上からその調査も依頼された」
彼は特に隠すわけでもなく答えた。
「そういうこと。わたし、何も聞いてないんですけど?」
「これは、私達の仕事だ」
「じゃあ、魔王国が関係しているってことは、やっぱり、”黒い剛腕の女”は魔王国の人ですか?」
「その女のことは知らない。ただ、もう一つのことは関わっている可能性がある」
「でも、すでにスパイがいるはずですよね? 彼らに任せればいいんじゃないですか?」
「その通りだ。だが、勇者も無関係ではないようだ」
「え? グレンが?」
まさか、グレンが王国に復讐でもしようと思ってる!?
「勇者本人は知らないだろう」
わたしの考えを読んだように、ライナスが付け加える。
わたしが感じた限りでは、勇者パーティが復讐しようとしているとは思えなかった。
わたしが同じ立場なら、ちょっと、復讐も考えたかもしれない。
「グレンは利用されてるってことですか?」
「利用されているか、巻き込まれただけか、判断はついていない」
「あっさり、この街の滞在を認めたと思えば、そういうことだったんですね」
ライナスは何も答えないが、肯定だろうと思う。
「なるほど、わかりました。では、明日は、バイレードの町へ行きます」
「何の為だ?」
「アリシアさんがグレンを追ったかもしれないからです。手がかりがないか聞いてみようと思います」
「私達もそこへ行く」
「あ、はい」
「もういいだろう。出ていけ」
ライナスから部屋を追い出され、自分の部屋に戻る途中、
「メイ!」
ミアが駆けてくる。
「お留守番で退屈だった」
ミアが不満げに言う。
「ごめん、ミア。明日は一緒に行こう」
もっと、ミアとも一緒にいようと思っていたのに、あまりできていない。
実質、後二日しかない。五日後というから、もっと長いと思っていた。
アリシアとも会って、悔いが残らないようにして、魔王国へ戻ろうと思っていた。
もし、アリシアが見つからなかったら、延長できるだろうか。
これでは、悔いしか残らない。
「約束だからね、メイ」
「うん。ほとんど、アリシアさんの捜索になるけど、昼食は一緒に」
「……見つかるといいね。ボクも手伝うから」
「よろしく、ミア。それじゃあ、おやすみ」
「あ――おやすみ……」
ミアは何か他に言いたそうだったが、それを聞けないまま、走って行ってしまった。
わたしは追いかけなかった。
なんとなく、聞いてはいけない気がした。
翌朝、剣術の稽古の後、転移魔法でバイレードの町へと一瞬で飛んだ。
九人全員だ。
到着地点は宿の中ではなく、町の端の方の人気のない場所だった。
さすがに街のど真ん中に現れるわけにはいかない。
そこで、ライナス、メルヴァイナとは別れ、後の七人で、町の入口へと向かう。
この町にも警備隊がいる。まずはそこを訪ねる。
それから、宿を訪ねて回るつもりだ。グレンを追いかけたなら、この町で宿に泊まった可能性がある。
徒歩で大通りまで来た。
村の全滅とか大きな事件があったにも関わらず、知らないのか、街の雰囲気は変わっていない。
ただ、軍人は見かける。
前に訪れた時は全く見かけなかった。
変わったのは、そこだけのように感じる。
それで大丈夫なのだろうかと心配になる。
とはいえ、その事件以降、何も起きていないのは、ライナスやメルヴァイナにも確認している。
何かあったのなら、魔王国の情報網で掴んでいるだろう。
ただ、それでも、アリシアのことは、彼らも知らなかった。興味もなさそうだった。
「メイ、着きました」
コーディから声を掛けられた。わたしの故郷に共に行きたいと言った彼に返事は保留したままだ。
彼に声を掛けられる度、早く返事をしなくては、と思ってしまう。
まるで、愛の告白をされて返事を待ってもらってでもいるようだ。一度もそんな経験はないが。
それに、彼の場合は、愛の告白ではない。
きっと、イネスとグレンの為だろう。
彼らの為にわたしは何ができるのだろう。
問題も悩みも全然片付かない。
今は、考え事に集中しすぎて、そのまま通り過ぎるところだった。
ここにも入口近くに詰め所がある。
そこでは、割と直球で聞く。
「赤い髪の女性を見ませんでしたか? 上流階級のような美しい女性なのですが」
「いや、知らないな。そんな人なら覚えているはずだがな。はぐれたのか?」
対応してくれた警備隊の一人が答える。
「はい。そうなんです」
そういうことにしておく。
「他の奴にも聞いてきてやろう。待ってろ」
警備隊の人達はみんな、親切だ。
しばらく待っていると、その警備隊の隊員が戻ってくる。
「すまないが、誰も見てない。俺達も捜しておくよ。見回りの連中にも確認しておく」
「お願いします。夕方にもう一度、ここに来ます」
「ああ、わかった」
詰め所を出た後は、二手に分かれて、宿などを回ることになった。
わたしは、コーディ、ミア、リーナと一緒だ。
向こうのチームは、コーディがいなくて大丈夫なのか、心配だ。
向こうは、イネス、グレン、ティムである。話が盛り上がるとは思えない。
コーディは向こうのチームに入れた方がいいのではないかというわたしの提案は、ほぼ全員に却下された。
ちなみにグレンにまで反対された。
というわけで、このようなチーム分けになってしまった。
ただ、仮に魔獣が出たとしても、それぞれのチームに魔王国のリーナかティムがいるので、大丈夫だろう。
昼前には一度、合流して、全員で昼食を取るということを約束して、もう一つのチームと別れた。




