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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
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65話 アリシアの捜索

「ライナス、なぜ、あんな話を? 放っておくっていう話じゃなかったんですか?」

宿に戻ってすぐ、ライナスを追いかけたわたしは彼の部屋の前で声を掛けた。

わたしは彼の部屋に押しかけた。

部屋には私物は一切見えない。

「魔王国に関係ないのであれば、王国に不必要な干渉はしない。王国で不審な動きがあるらしい。伯父上からその調査も依頼された」

彼は特に隠すわけでもなく答えた。

「そういうこと。わたし、何も聞いてないんですけど?」

「これは、私達の仕事だ」

「じゃあ、魔王国が関係しているってことは、やっぱり、”黒い剛腕の女”は魔王国の人ですか?」

「その女のことは知らない。ただ、もう一つのことは関わっている可能性がある」

「でも、すでにスパイがいるはずですよね? 彼らに任せればいいんじゃないですか?」

「その通りだ。だが、勇者も無関係ではないようだ」

「え? グレンが?」

まさか、グレンが王国に復讐でもしようと思ってる!?

「勇者本人は知らないだろう」

わたしの考えを読んだように、ライナスが付け加える。

わたしが感じた限りでは、勇者パーティが復讐しようとしているとは思えなかった。

わたしが同じ立場なら、ちょっと、復讐も考えたかもしれない。

「グレンは利用されてるってことですか?」

「利用されているか、巻き込まれただけか、判断はついていない」

「あっさり、この街の滞在を認めたと思えば、そういうことだったんですね」

ライナスは何も答えないが、肯定だろうと思う。

「なるほど、わかりました。では、明日は、バイレードの町へ行きます」

「何の為だ?」

「アリシアさんがグレンを追ったかもしれないからです。手がかりがないか聞いてみようと思います」

「私達もそこへ行く」

「あ、はい」

「もういいだろう。出ていけ」

ライナスから部屋を追い出され、自分の部屋に戻る途中、

「メイ!」

ミアが駆けてくる。

「お留守番で退屈だった」

ミアが不満げに言う。

「ごめん、ミア。明日は一緒に行こう」

もっと、ミアとも一緒にいようと思っていたのに、あまりできていない。

実質、後二日しかない。五日後というから、もっと長いと思っていた。

アリシアとも会って、悔いが残らないようにして、魔王国へ戻ろうと思っていた。

もし、アリシアが見つからなかったら、延長できるだろうか。

これでは、悔いしか残らない。

「約束だからね、メイ」

「うん。ほとんど、アリシアさんの捜索になるけど、昼食は一緒に」

「……見つかるといいね。ボクも手伝うから」

「よろしく、ミア。それじゃあ、おやすみ」

「あ――おやすみ……」

ミアは何か他に言いたそうだったが、それを聞けないまま、走って行ってしまった。

わたしは追いかけなかった。

なんとなく、聞いてはいけない気がした。


翌朝、剣術の稽古の後、転移魔法でバイレードの町へと一瞬で飛んだ。

九人全員だ。

到着地点は宿の中ではなく、町の端の方の人気のない場所だった。

さすがに街のど真ん中に現れるわけにはいかない。

そこで、ライナス、メルヴァイナとは別れ、後の七人で、町の入口へと向かう。

この町にも警備隊がいる。まずはそこを訪ねる。

それから、宿を訪ねて回るつもりだ。グレンを追いかけたなら、この町で宿に泊まった可能性がある。

徒歩で大通りまで来た。

村の全滅とか大きな事件があったにも関わらず、知らないのか、街の雰囲気は変わっていない。

ただ、軍人は見かける。

前に訪れた時は全く見かけなかった。

変わったのは、そこだけのように感じる。

それで大丈夫なのだろうかと心配になる。

とはいえ、その事件以降、何も起きていないのは、ライナスやメルヴァイナにも確認している。

何かあったのなら、魔王国の情報網で掴んでいるだろう。

ただ、それでも、アリシアのことは、彼らも知らなかった。興味もなさそうだった。

「メイ、着きました」

コーディから声を掛けられた。わたしの故郷に共に行きたいと言った彼に返事は保留したままだ。

彼に声を掛けられる度、早く返事をしなくては、と思ってしまう。

まるで、愛の告白をされて返事を待ってもらってでもいるようだ。一度もそんな経験はないが。

それに、彼の場合は、愛の告白ではない。

きっと、イネスとグレンの為だろう。

彼らの為にわたしは何ができるのだろう。

問題も悩みも全然片付かない。

今は、考え事に集中しすぎて、そのまま通り過ぎるところだった。

ここにも入口近くに詰め所がある。

そこでは、割と直球で聞く。

「赤い髪の女性を見ませんでしたか? 上流階級のような美しい女性なのですが」

「いや、知らないな。そんな人なら覚えているはずだがな。はぐれたのか?」

対応してくれた警備隊の一人が答える。

「はい。そうなんです」

そういうことにしておく。

「他の奴にも聞いてきてやろう。待ってろ」

警備隊の人達はみんな、親切だ。

しばらく待っていると、その警備隊の隊員が戻ってくる。

「すまないが、誰も見てない。俺達も捜しておくよ。見回りの連中にも確認しておく」

「お願いします。夕方にもう一度、ここに来ます」

「ああ、わかった」

詰め所を出た後は、二手に分かれて、宿などを回ることになった。

わたしは、コーディ、ミア、リーナと一緒だ。

向こうのチームは、コーディがいなくて大丈夫なのか、心配だ。

向こうは、イネス、グレン、ティムである。話が盛り上がるとは思えない。

コーディは向こうのチームに入れた方がいいのではないかというわたしの提案は、ほぼ全員に却下された。

ちなみにグレンにまで反対された。

というわけで、このようなチーム分けになってしまった。

ただ、仮に魔獣が出たとしても、それぞれのチームに魔王国のリーナかティムがいるので、大丈夫だろう。

昼前には一度、合流して、全員で昼食を取るということを約束して、もう一つのチームと別れた。

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