表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
64/316

64話 ランドルを訪ねて 二

宿へ戻ろうとソファから立ち上がる。

「町を出るなら、くれぐれも注意しろよ。嬢ちゃん一人になることがないようにな。いつ魔獣が襲ってくるかわからねえ。今となっては、町も安全とは限らねぇけどな」

「それはわかっています。ありがとうございました」

ランドルに別れの挨拶をして、早く帰ろうというとき、

「村を襲ったのは、魔獣ではないだろう? 魔獣には思えなかったが。剣で斬られたような跡だった。それぐらい、把握しているはずではないのか?」

沈黙していたライナスが言う。

それは、初耳の話だ。

「は!? まさか、その村に行ったのか!?」

ランドルは酷く驚いていた。

「襲撃後の村を通った」

「……本当に魔獣じゃねぇのか? 人の仕業だと?」

ランドルはライナスの腕を掴んで、

「村人全員だぞ。百人はいたはずだ。俺はそんな報告、受けてない。確かなのか!? 本当に人がやったのか!?」

ライナスは即座にランドルの手を振り解く。

「魔獣の痕跡は見たところ、なかった。絶対とは言わないがな」

「じゃあ、村は盗賊に襲われたんですか?」

二人の話に口を挟んでいた。

もしかすると、アリシアの失踪に関係あるんじゃないか。

彼らに攫われた可能性はないんだろうか?

攫われた経験なら二度ある。一度は、人身売買目的の人攫いだった。

盗賊なら、そういうこともやっている恐れがあるかもしれない。

「さあな。ただ、大勢に襲われたとは思えなかった」

少人数で村を全滅させたということだと、よっぽど、村に恨みでもあったのかもしれない。

というより、そんなことが普通の人間にできるものだろうか。

物騒な話だけど、ライナスやメルヴァイナなら一人でも簡単にできそうだが、普通の人間では想像がつかない。

それと、村人全滅の話と同時に聞いた”黒い剛腕の女”。

何、それ? と思ったので、よく覚えている。

「ライナス、”黒い剛腕の女”とは、無関係なんですか?」

「そんなことは知らない。興味もない」

とライナスは素っ気ない。

「嬢ちゃん、その女は一体なんだ?」

「わたしもよくわかりません。会ったこともないので。ライナスとコーディは会っています」

「日焼けした怪力の大女でもいたのか? その女が関わってるって?」

ランドルが訝し気な目つきでライナスとコーディを交互に見た。

「喪服のような黒いドレスを身に纏った華奢な女性です。ただ、僕より遥かに強い。力で敵いませんでした。関わっているかどうかはわかりません」

それには、コーディが答える。

「なんだ、兄ちゃん、その女に負けたのか? だがな、女一人で村を全滅させるってぇのは、無理があるだろ」

「それは……常識で考えれば、そうでしょう。ただ、酷く危険を感じました」

「まあ、そう、気落ちするなよ、兄ちゃん。そういうこともあるさ」

「その女と会ったのは全滅した村の隣の村の近辺よ。最初に聞いたときは村の生き残りかとも思ったのだけれど、それにしては様子が妙に思えるわ」

コーディを励まそうとするランドルの言葉は無視するように、イネスが淡々とした口調で、補足する。

軍に任せて放っておくという話だったはずだけど、ライナスがどういうつもりでこの話を出したのか?

意味がないとは思えない。どうでもよければ、ライナスなら無視を決め込むはずだ。

頭の片隅にはずっとあった。本当に放っておいていいのかと。

わたし一人では、もちろん、どうしようもないし、治癒魔法で生き返らせることはできない。

「それはわかった。すまねぇが、俺にはどうしようもできない。俺はこの町の警備隊として雇われてる。町を離れることはできねぇんだ。それこそ、軍や領主様の兵に任せるしかねぇ」

それはそうだろう。仕事を放り出すのはよくないと思う。

それに、町以外のことに詳しいとは思えない。聞く限りでは、村の全滅のことにしても、大まかなことを聞いているだけみたいだ。

ランドルは”黒い剛腕の女”のことも知らない。

確か、ライナスがその人の腕を切り落としたと聞いた。

これは、ちょっと、ランドルには聞かせられない話だ。

ちょっと強い女性に絡まれただけと、言えなくもない。

わたしからすれば、かなり、無理のある考えだ。

どう考えても魔王国が関わっているのでは、と思わなくもない。メルヴァイナは否定していたが、人間ではないのかもしれない。

それより、今は既に軍が対処しているそれらよりも、アリシアだ。

一体、どこに行ってしまったんだろう……

グレンを追ったのだろうか? それなら、わたしのせいかもしれない。わたしは勇者パーティについて行った。アリシアもまた、ついて行こうとしたのかもしれない。

もし、アリシアがその全滅した村にいたとしたら……

途中で、魔獣に襲われたのだとしたら……

嫌な想像が溢れてくる。

「メイ、大丈夫?」

イネスがわたしを見つめていた。

「すみません。ちょっと、考え事をしていただけです」

「そう」

イネスはそれ以上、聞いてこない。

身なりのいい女性とか、お金持ちそうな女性とか、高貴そうな女性を見なかったかと口に出かかったが、飲み込んだ。

アリシアを指していると気付かれるかもしれない。

ランドルが悪い噂を流すとは思えないが、人に話すべきではないと思う。

それなら、アリシアのことを知らない、例えば、バイレードの町の人に聞いてみるとかした方がいい。

ランドルに泊っている宿を教え、今度こそ、別れの挨拶を言い、ランドルの家を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ