表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
62/316

62話 アリシアの所在

どうしよう……

朝から大きなため息を吐くことになった。

わたしの最終的な目的は元の世界に戻ること。

ただ、何の手がかりもないので、一度、魔王国に戻るしかない。

コーディ達も魔王国に滞在してもらうなら、わたし達のことはばれるだろう。

でも、彼らが王国にいたくないというなら……

わたしは彼らに助けられたから、今度はわたしが彼らの役に立ちたい。

考え事をしていると、一階に下りる階段を踏み外しそうになり、焦った。

これから、もう一度、ゼールス卿の屋敷へ向かう。

考え事は中断したのをいいことに、棚上げした。

昨日と同じ馬車で、昨日と同じメンバーにイネスを加えた六人だ。

最大六人乗りと思われる馬車は、六人で乗ると少し狭く感じる。

静かな車内、規則正しい蹄の音と車輪の音、心地いい揺れで眠くなり、つい、うつらうつらしてしまっていた。

ゼールス卿の屋敷に着くと、今日も応接室までは通してもらえる。

応接室のソファに座っていると、ふと、気付いた。

六人で来たはずなのに、五人しかいない。

なぜか、ティムがいない。

トイレにでも行ったのかもしれない。

リーナも気にした様子はないので、特に指摘はしなかった。

しばらく、応接室で待っていると、ゼールス卿が入ってくる。

「再度、訪ねていただき、誠に申し訳ないのですが、未だ、アリシアの体調が戻っておりません。アリシアもそのような状態で会いたくないと申しております。しばらくは訪問を控えていただけますか」

今回も、ゼールス卿は一方的な物言いだ。

確かに、昨日の今日での訪問だったので、もっともかもしれない。

それに、寝ている姿を見られたくないというのもわかる。

かなり、迷惑だったかもしれない。

「数日中にはよくなりそうなのかしら?」

イネスが冷淡な口調で言う。

「長引いておりますので、数日では厳しいかもしれません」

ゼールス卿は嫌な顔をせず、冷静に答える。

出発までにアリシアに会うことはできないかもしれない。

残念だけど、仕方ない。

手紙でも送ってみるのもいい。

アリシアに会えないなら、ここにいる意味はない。

「ゼールス卿、お聞きしたいことがあります」

もう、帰るだけだと思ったが、コーディがゼールス卿に話しかける。

「近くの村が全滅したという話は聞いておりますでしょうか? 聞いているのなら、進展状況をお聞かせいただきたい」

その話は、ライナスとメルヴァイナからちらっとだけ聞いている。

二人からは、放っておくようにと言われていた件だ。”黒い剛腕の女”の件も。

ゼールス卿は眉を寄せる。

「確かに、聞いておりますし、既に兵を派遣しております。この件については、こちらで対処致しますので、ご心配は無用です」

むしろ、関わってほしくないと言いたげである。

「他の村や町には被害は出ていないのですね?」

「ええ、他に被害が出たという話は聞いておりません」

「そうですか」

「ええ、もうよろしいでしょうか。この後、他に来客の予定があるのです」

「はい。感謝致します」

ゼールス卿はすぐに部屋を出て行ってしまった。

邪魔になると悪いので、わたし達もすぐに屋敷を後にした。

馬車に乗るときには、ちゃんとティムもいた。

結局、ゼールス卿と話しているとき、ずっといなかった気がする。

馬車が走り出し、屋敷の敷地を抜ける。

「そのアリシアって女、ここにいない」

ティムがそんなことを言い出した。

「いない? 体調が悪くて、寝てるんじゃないの?」

ティムは、わたし達がゼールス卿と話していた時、何をしていたのか。

何をしていても、特に驚きはしないと思う。

「少なくとも、あの屋敷にはいない」

ティムは割といい加減だけど、無意味なことは言わないだろう。

いないと言うならいないのだ。

「どうしてそんなことがわかるんだ?」

グレンが口を出してくる。ティムに対して訝しげな視線を投げている。

「調べさせてもらった。どこにいるのか、まではわからない」

「王都にでも行っているのかもしれないわね。彼女の兄が王都にいるから。それなら、隠す理由がわからないのだけれど」

イネスが言うように、いないならいないと言えばいい。

隠しているなら、それなりの理由があると思う。

「アリシアさんは攫われたの?」

その言葉が口から滑り出た。

わたしもこの街で、攫われたから。

結局、実行犯は捕まったが、おそらく、黒幕は他にいるだろう。

全員の視線がわたしに集まり、次にティムに集まる。

「さあな。確かなのは、”いない”というだけだ」

いないのは確かだろう。ただ、全てを話しているとも思えない。

「他に情報はあるのよね? ティム」

「……」

「いいから、白状して」

「その女は1ヵ月ちょっと前に突然、姿を消した。これは事実だろう。噂では何の手がかりもないって話だ。攫われたのか、自分で出て行ったのかもわからないそうだ。ここの伯爵もいなくなってすぐは動転してたとか」

1ヵ月ちょっと前と言えば、わたし達がこの町を出発してすぐくらいだ。

まさか、グレンを追ったとか?

「他には、本当にないのね?」

「ああ」

アリシアが攫われた可能性もある。

わたしはすぐに見つけて、助けられたが、もし、捕まっているなら……

すでに、1ヵ月以上経っている。

本当に、血の気が引くような感じがした。

「メイ、僕も情報を集めてみます。一度、町の警備隊の元にも行ってみませんか?」

コーディから言われ、気付く。

わたしが放心していても、彼女が帰ってくるわけじゃない。

少しでも、アリシアの手がかりを見つけられないか、行動しよう。

「メイ、決して、一人では行動しないでください」

コーディから釘を刺される。前にわたしが攫われたとき、彼にも心配を掛けてしまった。

「わかりました。ライナスやメル姉にも言われていますので、必ず、誰かといます。では、警備隊の元に行きましょう」

そういうわたしの袖が優しく引かれた。

「その前に、宿に寄っていただけませんでしょうか? 姉に伝えておきたいのです」

リーナが顔を寄せ、小さい声ながら、伝えてくる。

確かに、このまま行ってしまっては、ライナスに怒られそうだ。

「じゃあ、宿に寄ってから、警備隊の元に行きます」

一度、宿に寄り、わたし達の帰りを待っていたライナスとメルヴァイナとミアに伝え、馬車で警備隊の元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ