60話 セイフォードの一日
午後になり、宿の部屋に籠っていたわたしの元にティムが来た。
といっても、ドア越しだ。声でティムだとわかった。
なぜ、ティムが?
疑問しかない。
すると、ティムは、
「おい、ライナスが呼んでるから、来い」
明らかに面倒くさそうに言う。
なぜ、ライナスが呼びつけるのか。
「さっさと行けよ」
それだけ言うと、ドアの前から立ち去ろうとする足音が聞こえた。
「ちょっと、待って。用件は何?」
わたしの言葉は無視したのか、聞こえなかったのか、ティムは行ってしまったらしい。
回答を得ることができなかった。
わたしは仕方なく、部屋を出る。
すでに緑色のワンピースからは着替えている。いつもの制服である。
来いって、もう、ティムの姿が見えない。
そもそもどこに? ライナスはどこにいるの?
宿の廊下にいると、
「メイ、これから出掛けようよ」
ミアがわたしに抱き着いてきた。
ミアが来た方を見ると、イネスとコーディとグレンがいる。
「ごめんね。わたし、ライナスに呼ばれていて」
「え、ええ!? そうなの? ライナスさんに? メイはライナスさんが好きなの?」
「好きでも嫌いでもないけど。彼は協力者というだけ」
協力者と言えないわけではないけど、実際は何なのだろう?
やっぱり、魔王四天王の一人かな。
「じゃ、じゃあ、ボクもメイについていく」
内密の話だったら、どうしよう。
とは思うが、それならそれでライナスが断るだろう。
それにしても、ミアは彼ら勇者達とより仲良くなっている気がする。
前はもっと遠慮していたように思う。
わたしがいない間に何があったんだろう?
辛いときこそ、結束が強くなるか、瓦解するかだと思う。
彼らは前者だったのだろう。
少し、寂しい気がする。
わたしが邪魔者みたいだ。
「わかったわ」
ミアに答えた。
わたしも彼ら勇者パーティの一員に、仲間になりたかったのかもしれない。
もう、グレンは勇者ではないかもしれないし、彼らの旅ももうじき終わる。
生贄の勇者なんて、もう、必要ない。
もう、生贄は魔王として拒否したい。
彼らと別れて、わたしは魔王として魔王国で過ごすことになる。
「一緒に行くわ」
イネスがタイミングよく言う。まるで一緒に魔王国に留まってくれるかのように。
実際には考えたりもしたが、彼らにわたしが魔王だと言うことはできない。
彼らに蔑まれたら、ショックで立ち直れない。
お別れするしかない。今まで引き延ばされていたが、今度こそ、最後だ。
寂しい……
できれば、アリシアにも最後に会っておきたい。
本当は、デリアにも会いたい。ただ、転移魔法で行けない。転移魔法が使えるライナスやメルヴァイナ達があの村に行ったことがない為だ。なので、それは止めてほしいと言われた。
「わかりました。ただ、ライナスに呼ばれているんですが、場所がわからないんです。どこにいるか知りませんか?」
「裏庭にいたわ」
「ありがとうございます。すぐに向かいます」
あまり彼らと一緒にいると、別れが辛くなりそうだ。
それでも、この町にいる間は、せめて――
わたしは彼らと共に裏庭へ向かった。




