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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ③
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59話 屋敷へ

朝食をのんびり優雅に食べた後、ゼールス卿の屋敷へと向かう。

宿は中心部に近い豪華な宿だった。こんな贅沢はしなくていいのに、と思う。しかも、わたしは一人部屋だ。

宿の玄関にはコーディとグレンが待っていた。グレンがいるということは、コーディがうまく説得してくれたのだろう。その顔には不満がありありと滲んでいたが。

そして、わたしの横にはリーナとティムがいる。

昨夜、出掛けるなら、彼らを連れて行くようにとメルヴァイナから言われたためだ。護衛として、である。

彼らは、貴族令嬢のドレスほどではないが、それなりの服を着ている。

リーナは青と紫のグラデーションの美しいワンピース。ティムは白いシャツに刺繍の施された長めの上衣、ティムにすれば上品な印象だ。

二人ともよく似合っているが、王国で見るデザインではない。魔王国のものだ。

わたしが着ていた高校の制服もそうだから、その辺りは気にしなくていいのかもしれない。

わたしは、といえば、今は高校の制服は着ていない。

わたしもメルヴァイナが用意した服を着ているので、魔王国仕様である。

緑色の光沢のある生地のワンピースだ。アシンメトリーの凝ったデザインだった。

というわけで、屋敷へ向かうのは、わたしを含めて五人。

会話を続ける自信がない。

メルヴァイナとライナスは別行動。イネスとミアも止めておくと別行動。

「早くしろ」

グレンは既に外に出ようとしている。

「行きましょうか」

コーディがわたしに手を差し出してくる。エスコートしてくれるのだろう。

わたしはその手を取った。

「とてもよく似合っています」

爽やかな笑顔で褒めてくれる。習慣的な社交辞令ということはわかっているが、何も言ってくれないよりはいい。

コーディの緑の瞳が目に入る。いつ見ても、きれいな瞳の色だ。

今日のワンピースは彼の瞳の色に合わせたようだ。

そういえば、アリシアはわたしがコーディを好きだと誤解していた。

外には既に馬車が待機している。

屋敷までは馬車で向かうのだ。

距離があるからということの他に、馬車で乗り付ける方が見栄えがよく、それなりに扱ってもらえるからであるらしい。

馬車は箱型で、ゼールス伯爵家の馬車よりはシンプルだが、多分、一般的な平民が乗るような馬車ではないだろう。

そんな馬車に乗り込む。前方にグレンとティム、後方にわたしを挟んでコーディとリーナ。

何を話していいかわからない。話していいのかもわからない。

なので、馬車の走る音だけがよく聞こえる。

この雰囲気は久しぶりである。

そんなにうるさくするものではないのかもしれないし、必要もないのかもしれない。

それでも、元の世界の学校で、一人孤独に過ごしているような、どうにも居たたまれない気になってくる。

「あの……これから会う方は、どのような方なのでしょうか?」

そんなわたしにかわいい声が届く。わたしの袖を軽く摘まんで、リーナは不安そうな表情を浮かべている。

「リーナ……えっと、これから会うのは、アリシアさんといって、とても優しくて、綺麗な女性なの。だから、大丈夫。メル姉がいなくても、わたし達だけで十分よ」

「はい」

「メイはアリシア嬢ととても仲がいいのですね」

コーディが話に入ってくる。

「そうなんです。羨ましいですか?」

「そうですね」

「アリシアさん、美人だから」

「メイ、あなたも美しいです」

コーディはさらっとそんなことを言ってくる。わたしに美しいなんて言う人は初めてだ。

社交辞令に決まっているので、何とも言えない気持ちになってくる。

素直には受け取れない。

「あ、ありがとうございます」

かすれた声が出た。

ますます居たたまれなくなってきたところで、馬車が停車した。到着を御者が知らせてくる。

着いたら着いたで、不安なことはある。

約束もなしに、屋敷に入れてもらえるのか。

グレンとコーディがいるので、何とかなりそうな気はするのだが。

この屋敷を出て、随分と経った気がする。感覚的には1年ぶりのような気さえする。

馬車を降りると、すぐに屋敷内へと通される。

止められるかと思っていた。

どうも既にわたし達の訪問が連絡されていたように思う。

玄関ホールは以前、魔獣が窓を突き破って、襲ってきた場所だ。

玄関ホールの窓ガラスも修理され、全く、痕跡はなくなっている。

案内されたのは、ここに初めてコーディと訪れた時と同じ応接室だ。

応接室で待っていると、やってきたのはアリシアではなかった。

現れたのは、ゼールス卿だ。

彼が向かいに腰を掛ける。

記憶のままのゼールス卿だった。

「始めに、ご無事で何よりでございます。アリシアに会いに来られたとのことなのですが、生憎と、アリシアは体調を崩しております。申し訳ございませんが、お引き取り願えませんか」

ゼールス卿は一方的に話す。

要は、アリシアとは会わせられないということだ。

もしかして、アリシアがグレンを好きだということが知られ、反対されて、会わせてもらえないとか?

本当に体調が悪い可能性もないわけではない。

「かなり悪い状態なのでしょうか?」

コーディがわたしの聞きたいことを聞いてくれた。

「いいえ、医者の話では、休んでいれば良くなるとのこと、ご安心ください。ご心配をお掛けして申し訳ないくらいでございます」

風邪か何かだろうか。怪我ではないので、治癒魔法は意味がない。

アリシアに会えないのは残念だが、仕方ない。

本当にちょっと体調が悪いだけなら、また、明日以降に出直そう。

わたし達はゼールス卿の屋敷を後にした。

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